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2022年11月18日更新

スペインタイル紀行⑧

文・写真/山内直幸
コツンコツン、石畳の坂道に靴音が響き、黒マントを羽織った学生たちが現れる。路地裏の冷たい風が、石造りのアーチを吹き抜け女学生の黒いマントをあおる。

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ポルトガル編(下)
街に人に感銘


荘厳な図書館

コツンコツン、石畳の坂道に靴音が響き、黒マントを羽織った学生たちが現れる。路地裏の冷たい風が、石造りのアーチを吹き抜け女学生の黒いマントをあおる。

ここはホグワーツ魔法学校ではない。ポルトガルのリスボンから列車で3時間、古都コインブラにある1290年に創立したポルトガル最古のコインブラ大学である。ヨーロッパ屈指の名門国立大学だが、映画「美女と野獣」にも使われた図書館がとにかくすごい。室内はバロック調の金泥(きんでい)細工が施され、木製の柱や手すりに囲まれた2階高の書架には何百年も前の書籍が収められている。30万冊もの本が所蔵されており、夜になると本につく虫を駆除するためにコウモリを図書館内に招き入れる。まさにハリー・ポッターの世界だ。
 
◇     ◇     ◇

この街にも民衆歌謡「ファド」があるが、女性一人で歌うことが多いリスボンとはかなり違う。歌い手はすべて男性である。昔、男子学生が女性に告白するために歌い始めたのがコインブラのファドだ。歌い手やギター奏者は黒いマントに身を包み、愛する人への熱い想(おも)いを歌う。市庁舎の近くファド・アオ・セントロという劇場では正統コインブラファドを鑑賞できる。演奏が終わると、拍手はせずゴホンゴホンとせき払いするのが習わしらしい。ただ、外国人観光客は大きな拍手を送っている。
 
コインブラとポルトの中間にあるアベイロ駅の旧駅舎
コインブラとポルトの中間にあるアベイロ駅の旧駅舎

街の中にタイル絵

当社ではスペインタイル以外にポルトガルのメーカー「パビグレス」のタイルも扱っており、ここコインブラの北30キロに本社工場がある。ポルトガルはスペイン同様にタイル製造の歴史が長く、「パビグレス」は公共施設で広く使われ、先進の高品質磁器タイルを世界各地に輸出している。

コインブラから列車でポルトに向かう途中、アベイロという駅で降りた。そこで偶然、叙事詩のようなタイル絵に覆われた旧駅舎を見つけた。博物館でもなく街でこのような美しいタイル絵に出会(あ)えるのもこの国の魅力だ。アベイロは昔から干潟での製塩業が盛んで、塩を運ぶための運河が街の中に造られ、ポルトガルのベニスとも呼ばれている。気ままな途中下車も旅の醍醐味(だいごみ)だ。

◇     ◇     ◇

ポルトはポートワインで有名なポルトガル第2の都市である。ドウロ川沿いの両岸に白壁とオレンジ屋根の家々が並ぶ風景はテレビでも目にしたことがあるはずだ。

世界で最も美しい書店「レロ エ イルマオン」もここポルトにある。店内の「天国への階段」と称された木製の階段は優美で、天井のステンドグラスからの光を浴びたその姿に見ほれてしまう。英語教師としてポルトに赴任していたハリー・ポッターの作者、J・K・ローリングがこの書店に足しげく通いハリー・ポッターのイメージができたとも言われている。

カルモ教会近くで路面電車を待っていると、地元の人たちが次々と話しかけてきた。僕がポルトガル語を話せないのはおかまいなしだ。つえをついたおじいちゃんに行き先を尋ねられた。「鉄道の博物館」と答えると、この電車だよ、と本人が先に乗り込み手招きする。目的の駅に着くと一緒に電車を降り、僕を見送ると次の電車に乗って戻って行った。そこには用もないのに同行してくれたのだ。ポルトガルの人は素朴で優しい。「ビバ、ポルトガル!」
 
コインブラのファド、市庁舎近くにあるファド・アオ・セントロにて
コインブラのファド、市庁舎近くにあるファド・アオ・セントロにて



山内直幸
執筆者
やまうち・なおゆき/沖縄市出身。米国留学より帰国後、外資系の商社勤務を経て1995年、スペインタイル総代理店「(有)パンテックコーポレーション」を設立。趣味は釣りと音楽、1950年~60年代のジャズレコードの鑑賞、録音当時の力強く感動的な音をよみがえらせるべく追求。

㈲パンテックコーポレーション
宜野湾市大山6-45-10  ☎098-890-5567

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1924号・2022年11月18
日紙面から掲載

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