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2022年9月16日更新

スペインタイル紀行⑥

文・写真/山内直幸
スペイン第3の都市、バレンシアの闘牛場の隣にノルド駅がある。早朝、そこからカステリョン県・ビジャレアル行きの列車に乗った。街を抜けると右手にはオレンジの木が延々と車窓を流れる。その向こうは地中海だ。しばらく行くと地面は赤土になり、土煙を上げてトラックが行き交う。ビジャレアルには一時間ほどで到着する。

タイル製造の中心地「カステリョン県」
サッカーとタイルに情熱


スペイン第3の都市、バレンシアの闘牛場の隣にノルド駅がある。早朝、そこからカステリョン県・ビジャレアル行きの列車に乗った。街を抜けると右手にはオレンジの木が延々と車窓を流れる。その向こうは地中海だ。しばらく行くと地面は赤土になり、土煙を上げてトラックが行き交う。ビジャレアルには一時間ほどで到着する。

応援で地響き

ここにはサッカーの強豪チーム「ビジャレアルCF」がある。以前、日本代表の久保建英選手が所属していたチームだ。カステリョン地方はタイル製造の中心地であり、いくつかのメーカーが同チームのスポンサーとなっている。よって本拠地スタジアムは「エスタディオ・デ・ラ・セラミカ」(タイルのスタジアム)と名付けられている。黄色の大判タイルで外壁を仕上げた2万5千人収容の美しいスタジアムだ。

スペイン人にとってサッカーは国民的スポーツであり、生活の一部となっている。男たちは地元のバルでビール片手に観戦するのが大好きだ。衛星放送を契約する必要もない。そして彼らの熱狂ぶりは尋常じゃない。

数年前、バレンシアCF対FCバルセロナの試合を観戦した時のこと。何百ものソフトボール大の白い物体が空を舞い、白く長い尾を引いてフィールドに転がっていた。観客が投げ入れた数えきれないほどのトイレットペーパーだ。応援が最高潮に達するとドドン、ドドンとスタジアムを揺らすほどの地響きがする。観客が両足で床をたたいている。スタジアムの近くでは地震が観測されるらしい。

ビジャレアルCFの本拠地「タイルのスタジアム」
ビジャレアルCFの本拠地「タイルのスタジアム」

ウサギパエリヤ

スペイン人はウチナーンチュに似て大家族である。地元チームの試合がある日は家族が集まって応援し、ゴールが決まると孫とおじいちゃん、おばあちゃんがハグして喜ぶ。沖縄の高校野球観戦みたいだ。

息子が、ビジャレアルの隣にあるオンダのタイルメーカー「エルバルコ」で研修していたときの話。お世話になったホストファミリー(両親と娘、その彼氏)は、週末になると田舎に住む祖父母の家を訪れて昼食を一緒にとるのが恒例。本場のパエリヤを日本から来た若者にごちそうしようと昼食の準備が始まった。

おじいちゃんが生きたウサギを庭から持ち込んで、締めるようにと日本の若者に手渡した。ペットのウサギしか見たことのない彼は固まってしまった。代わりに受け取ったのはおばあちゃんである。ウサギの首を慣れた手つきで折り、要領よく血抜きをして皮をはいだ。その後は言うまでもないが、美味(おい)しいパエリヤを皆で感謝して頂いたそうだ。今では食育という言葉があるが、僕の小さいころも父がニワトリを締めて「ごちそう」を家族で食べるのは日常の風景だった。

後日談だが、同メーカーの女性マネージャー、クリスティーナにその話をしたら「ウサギの肉はスーパーで売られてるのしか見たことないわ!」とびっくりしていた。

スペインタイルの輸入を始めて27年になる。現在はメーカー8社の国内総代理店をしている。多くの友人ができたが、彼らに共通していること。それは実直さ、そしてタイルを創ることへの情熱とこだわりである。素晴らしいスペインタイルとの出合いが、大切な友人たちとの出会いにつながっている。
 
カステリョン県にあるスペインタイルメーカー・バルドセル社にて
カステリョン県にあるスペインタイルメーカー・バルドセル社にて。1・2メートル×2・4メートルの大判タイルを前に




執筆者
やまうち・なおゆき/沖縄市出身。米国留学より帰国後、米国商社勤務を経て1995年、スペインタイル総代理店「㈲パンテックコーポレーション」を設立。趣味は釣りと音楽、1950〜60年代のジャズレコードの鑑賞、録音当時の力強く感動的な音をよみがえらせるべく追求。

㈲パンテックコーポレーション
宜野湾市大山6-45-10  ☎098-890-5567

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1915号・2022年9月16
日紙面から掲載

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