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2022年11月11日更新

[建築探訪PartⅡ(29)]米軍基地跡地計画 (沖縄県)

次世代に残したい沖縄の建造物の歴史的価値や魅力について、建築士の福村俊治さんがつづります。文・写真/福村俊治

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ウチナーの海と緑へのチムグクルが大切

米軍基地跡地計画(沖縄県)

建築や街づくりで最も重要な点は、その地域の気候風土を生かした心豊かな暮らしのできる環境をつくることである。その点で美しい海に囲まれた緑豊かで温暖な亜熱帯の島国沖縄には、日本本土にはない「人々の心を癒やし、魅了する」建物や街が生まれるベースがある。しかし、そのベースだけではダメで、ウチナーの海、緑、温暖さを大切にする「ウチナーのチムグクル(心・思いやり)」が最も重要である。

沖縄は悲惨を極めた沖縄戦、自治のなかった米軍施政下、復帰後の急激な経済振興の下で、この「自然へのチムグクル」をいつの間にか忘れ、短絡的な経済的豊かさを求めるようになった。値段の付いていない遠浅の海や緑の丘陵地を、埋め立て造成することによって、値段のある商品に変え、手っ取り早い金銭的豊かさを求めた。

普天間飛行場(480ha)跡地利用の全体計画の中間取りまとめ案。1974年に返還が合意されたが、辺野古問題等があり遅々としてめどが立っていない。長年跡地利用計画が検討、当初は経済優先の計画であったが、次第に環境(緑・地形・水など)を生かす計画に変更。
普天間飛行場(480ha)跡地利用の全体計画の中間取りまとめ案。1974年に返還が合意されたが、辺野古問題等があり遅々としてめどが立っていない。長年跡地利用計画が検討、当初は経済優先の計画であったが、次第に環境(緑・地形・水など)を生かす計画に変更。

発表された国・県・那覇市・浦添市・港湾組合の浦添西海岸合意計画案。遠浅の西海岸を埋め立て、浦添埠頭地区(109ha)・軍港(49ha)・交流にぎわい施設(32ha)と長い防波堤を作る予定。キャンプキンザーの跡地計画は未定。写真:Googl Earth
発表された国・県・那覇市・浦添市・港湾組合の浦添西海岸合意計画案。遠浅の西海岸を埋め立て、浦添埠頭地区(109ha)・軍港(49ha)・交流にぎわい施設(32ha)と長い防波堤を作る予定。キャンプキンザーの跡地計画は未定。写真:Googl Earth


跡地利用こそチャンス

本土から遠く狭い島国だが、実は沖縄の自然を生かせば無限の可能性がある。今、環境破壊・気候変動などが世界各地で起き、その反省によって環境保護、持続可能な開発、SDGs、省エネなどが叫ばれている。沖縄でもその掛け声はよく聞くが、復帰後続く自然を壊すような開発ばかりだ。「誰一人取り残さない」でなく、世界の自然保護の潮流から取り残されているのが事実だ。

米軍基地の跡地利用や郊外の開発や既存市街地を見れば一目瞭然だ。緑の丘陵地を削って地形を変え、広い駐車場のある大手スーパーを誘致し、従来通りの区画整理の街づくりで、昔ながらの都市構造のままのスクラップ&ビルドの建築・街づくりでは一時的な繁栄しかない。思い切った土地や建物の高度利用や環境緑地の保全・復元、そして既存市街地の再生につながる基地跡地利用が望まれる。

返還された牧港住宅地区(那覇新都心)はかつて広い芝生の緑地が緩やかな丘陵地に広がる米軍の住宅地だった。そこに高層の業務・住宅建築群を造り、広いオープンスペースがある街づくりをすべきだった、現在の県庁や市役所も移転し、元の敷地を広い都市公園にすれば既存市街地の再生もできた。高層化をすれば資産価値もより高くなったはずだ。沖縄にとって基地跡地利用はスプロールした沖縄の都市構造や都市経済を変えるチャンスである。

先日、普天間飛行場跡地に広い緑地公園(100ヘクタール)を造る計画が発表された、賢明だ。一方、唯一市街地近くに残る浦添市の自然海岸・西海岸を埋め立てる港湾施設と軍港計画は残念だ。あの自然を生かすことこそ大きな経済効果や豊かさを生むはずだ。私たちも自然の一部であり、身近な自然、海と緑へのチムグクルこそ大切だ。

ニューヨークのセントラルパーク(341ha)。マンハッタン(面積87ha・人口170万人)の中心にある。
ニューヨークのセントラルパーク(341ha)。マンハッタン(面積87ha・人口170万人)の中心にある。

ベルリンのティーアガルテン(210ha)。ベルリン(面積890ha・人口370万人)の中心にある。写真:Google Earth
ベルリンのティーアガルテン(210ha)。ベルリン(面積890ha・人口370万人)の中心にある。写真:Google Earth

キャンプ瑞慶覧の返還前の米軍西普天間住宅地区(50.8ha)。
キャンプ瑞慶覧の返還前の米軍西普天間住宅地区(50.8ha)。

同地区の返還後の造成途中の写真。敷地は大きく造成され琉大病院や住宅地ができる。公園面積は約10haの予定。
同地区の返還後の造成途中の写真。敷地は大きく造成され琉大病院や住宅地ができる。公園面積は約10haの予定。
 
現在の那覇新都心(192ha)。1987年に返還された。中心部に大規模な商業店舗が並び、県立博物美術館もあるが周囲にはマンションやアパートや多くの戸建て住宅が並ぶ。那覇新都心公園は7.6haしかない。写真:Google Earth


[沖縄・建築探訪PartⅡ]福村俊治
ふくむら・しゅんじ 1953年滋賀県生まれ。関西大学建築学科大学院修了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。1990年空間計画VOYAGER、1997年teamDREAM設立。沖縄県平和祈念資料館、沖縄県総合福祉センター、那覇市役所銘苅庁舎のほか、個人住宅などを手掛ける

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1923号・2022年11月11日紙面から掲載

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