中でも外でもない “ハンソト”の至福|オキナワンダーランド [58]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2022年9月30日更新

中でも外でもない “ハンソト”の至福|オキナワンダーランド [58]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。 ( 文・写真/馬渕和香)

リッタイスペースワークス 仲地正樹さん

「『ハンソト』って、なぜこんなに気持ちいいのでしょうね」

建築士の仲地正樹さんは、その答えをずっと探してきた。

「家の中にいても、窓越しに庭の緑を眺めたり、窓から風を取り込んだりして、外の自然とつながりながら気持ちよく過ごすことはできる。だけど、ハンソトの心地よさにはかなわない。それはどうしてなのだろうと考え続けているんです」

「ハンソト」は、漢字で書くと「半外」。縁側やテラス、アマハジ(雨端。軒下空間のこと)といった半屋外スペースを指す仲地さんなりの愛称だ。

建物の中でもなければ外でもなく、その中間にあるハンソトは、言ってみれば、壁のない部屋だ。そこには日陰のオアシスがあり、肌を爽やかに駆ける風が流れ、鳥たちが奏でるミミグスイの音楽が響く。

「こんなにも豊かなものが家の外にある。しかもタダで、ですよ。暮らしに取り入れないのはもったいない。だから家を建てる人には、屋内の面積を削ってでもハンソトを大きくつくることを僕は勧めたい」

仲地さんの家にもハンソトがある。広さが15畳ほどあり、10人近くが一度に集える。そこで仲地さんは、音楽を聴いたり、寝転がったり、家族と食事をしたり、友人と歓談したりする。

「部屋の中に長くいると、胸に何かが詰まってくる感じがします。ハンソトに出ると、その何かがスコーンと抜けていく」


縁側やアマハジなどの半屋外空間を、建築士の仲地正樹さんは「ハンソト(半外)」と独特な愛称で呼ぶ。ハンソトのある住まいづくりを通して、外の自然とつながる楽しさ、豊かさを暮らしに取り入れてほしいと提案する

仲地さんとハンソトの歴史は古い。というより、一緒に育ったと言ったほうがいいかもしれない。生まれ育った家は大正時代に建てられた伝統家屋で、庭に面して長い縁側があった。少年時代の仲地さんは、「縁側からはだしで庭に出て行ったり、中に入ったり」して遊ぶのが好きで、「家の中と外をあまり区別しない暮らし」をしていた。

おとなになると、縁側は友人らとお酒を酌み交わす社交の場になった。壁のないハンソトでは人と人の間の心の壁もなくなるのか、自然と会話が弾んだ。

「ハンソトというのは不思議な場所で、たとえ自分の家のハンソトであっても、ここは自分のものではない、と錯覚させるような曖昧さがある。誰のものでもないから、逆に誰もがくつろげるのかもしれませんね」

ハンソトが建物の寿命まで延ばすことを知ったのは建築の仕事に就いてからだ。直射日光や雨を遠ざける“緩衝地帯”になってくれるので、外壁が傷みにくくなる。「自然条件が厳しい沖縄の家にはハンソトがあったほうがいい」。確信を深めた仲地さんは、設計の相談に来る人にハンソトを勧めるようになった。仲地さんの熱い“ハンソト愛”は徐々に共感を集め、去年は延べ床面積の3分の1をハンソトが占める家を完成させた。

「僕の究極の理想は、家の9割がハンソトの住まいです。料理をするのも食事をするのもハンソト。部屋に入るのは寝る時と台風の時くらい。そんな家を建てたい施主さんは多分いないから、僕が自分で建てるしかないですね(笑)」

自宅のハンソトに腰掛けて、ハンソトを語る仲地さんはとても楽しそうだ。話を聞いているこちらまでが、ハンソトに恋してしまいそうなほどに。


名護市の新城雄斗さん邸には約2メートルの深いアマハジを巡らせた。「この家に住み始めてから、ハンモックでくつろいだり、植物の世話をしたりする時間が増えた。外で過ごすことが生活の一部になった」と新城さん


木陰のようなアマハジ。「近所のかたが訪ねて来ると、よくここでお話しします。雨が降ってもぬれないのがいい」と妻の新城志麻さん。広いアマハジからある妙案も生まれた。「私たちの結婚披露宴を家で開きたい。中も外も全部会場にして」


新城邸の内土間。汚れを気にせずラフに使える場所であると同時に、人の心理をハンソトにいざなう役割もになう。「室内と室外がいきなりつながっているより、段階的につながっている方が人はスムーズに外に出て行ける」と仲地さん


仲地さん宅のハンソト。「実家の古民家のハンソトより気持ちいい。『縁側の軒がもっと長ければ雨がかからないのに。人ももっと座れるのに』と感じていた歯がゆさが技術の進歩で解消できているから」(提供写真)


◆リッタイスペースワークス https://www.instagram.com/littaispaceworks/?hl=ja


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景


 


[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。

『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<58>
第1917号 2022年9月30日掲載

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