2022年4月15日更新
標高3千メートル超 石造りの風景|ウチナー建築家が見たアジアの暮らし①
写真・文/本竹功治
2019年の末、僕はネパールの首都カトマンズに降り立った。すると「こんにちは~」とカタコト日本語のおじさんがこっちにくる。「登山ですね。日本人。大丈夫。オフィス行く」。すでに車を横付けしていて、カトマンズまでの料金も高くない。まぁいってみよ、と乗り込みオフィスへ。「はい、これ8泊の旅。山は雪、草履ダメ。靴ある。寝袋ある」。えええ早っ。到着から1時間、言われるがまま怪しいツアーに乗っかることにした。
トレッキング6泊目、帰路の途中で通過した小さな村「ガンドルック」。幅の狭いスージグヮーを村人とロバと登山客が行き来する
民家が立ち並ぶ登山道
登山のスタート地点ポカラへは約8時間。バスがクネクネ断崖絶壁をバンバン飛ばしていく。アジアどこでもそうだが、移動手段はどれも死と隣り合わせだ。
ポカラに着き、標高3500メートルの展望台を目指して登り始めた。登山道といっても小さな村々を通るので民家が並ぶ。道は500年前に舗装された石畳。石垣は花で彩られ、平石が積まれた壁は石板で葺(ふ)かれた屋根を支えている。
沖縄の雨端(アマハジ)のような長く延びた軒が憩いの場になっていた。そこで発酵させた乳、ハーブ、米、トゥンパと呼ばれる酒の材料になるキビなどを干していて、アジア独特ののどかな風景が残っていた。
足るを知るというが、足りない方が多いだろう。ここは3000メートル付近、30リットルのザックを背負っているだけでヒーヒーしてる僕らには、生活物資を麓から運んだり、建材を仕入れて建築するなんて言われたら絶望するだろう。この町の人はここで手に入る材料で道を作り、畑を耕し、家を建て、生活しているのだ。
2015年の大地震で被災した村もあり、まだ補修されていない家もあった。だが彼らにとってこの建築工法は切り離せないのだろう。
サンスクリット語で「豊穣(ほうじょう)の女神」の意味を持つ山「アンナプルナ」
標高上がれば物価も上がる
最初の宿にはテレビ、Wi-Fi、シャワーとそろっていたが、1500メートルを超えると設備は減って物価が上昇。部屋のコンセントは差し込み1口に値段がつき、ことあるごとに「マホンガチャニー?」とネパール語で値段交渉をした。山小屋では隙間風が吹き込んで激寒な中、寝袋1枚で朝がくるまで耐えていた。
夜の闇が淡く消えかかる明朝、遠くの方でポワっと何かが暖かな色に照らされた。とその瞬間、目の前に巨大な山が現れた。おお、アンナプルナだ!!標高8091メートル、世界で一番早く日があたった瞬間かもな、とつぶやいてる間にスーッと暖かくなった。太陽はこんな過酷な場所にさえ平等にエネルギーを運んでくれる。僕はこの純粋な自然エネルギーを心に焼き付けていた。
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本連載では、建築家の本竹功治さんがアジア各地で体験した、文化や住まいなどの暮らしを紹介する。
執筆者
もとたけ・こうじ/父は与那国、母は座間味。沖縄出身の、アジア各地を旅する建築家。2014年よりカンボジアを拠点に活動している。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1893号・2022年4月15日紙面から掲載