特集・企画
2020年1月24日更新
沖縄の歴史・文化伝える 新たなビジネスホテル|HOTELに習う空間づくり[8]
当連載では県内のホテルを例に、上質で心地良い空間をつくるヒントを紹介する。
RJホテル那覇(那覇市前島)
▲(上写真)客室階廊下の給排水管が通る「パイプシャフト」スペースを利用し、展示スペースを設けた。沖縄の風景や食文化、工芸や歴史などの写真パネルが展示されている
廊下をギャラリーに
ビジネスホテルが立ち並ぶ那覇市の国道58号付近。全国チェーンが低価格で画一的な客室を提供する中、3年前にオープンした「RJホテル那覇」はユニークな空間もウリにしている。
7階建て全60室のホテル。設計したのは平和祈念資料館(糸満市)や県総合福祉センター(那覇市首里)などを手がけたチーム・ドリーム代表の福村俊治さん。「ただ寝るだけの場所では無く、沖縄の歴史や文化を感じられる場所にしたかった」と話す。
それが最も表れているのはなんと、廊下。歩いていると、おいしそうなソーメンチャンプルーが目に飛び込んでくる。そして鉦の音が聞こえてきそうな迫力あるハーリーの写真、かと思えば沖縄戦で米軍が上陸せんとするモノクロ写真もある。客室のある3~7階の廊下の、給排水管などが通る「パイプシャフト」を利用して展示スペースを作った。各階6枚ずつ計30枚のパネルが展示されている。人が通るだけの場所を「人が通るからこそ」と逆手に取ってギャラリーにした。
▲実際に飾られているパネル。各階に6枚ずつ、ホテル全体で30枚展示されている
「動植物や歴史、工芸や食など沖縄を偏り無く知ってもらえるよう写真を選んだ。場所柄、戦争や基地の写真を飾ることにためらいもあったけれど、沖縄を知る上で外せない歴史だから」。県内の博物館から資料写真を借りてきたり、自身で撮影した写真もある。
「仕事で来て、沖縄らしさを味わう間もなく帰ってしまう宿泊客もいる。それでも『ああ、沖縄に来たんだな』と琴線に触れる1点があれば」
▲客室は全60室。そのうち57室がこの「デラックスツインルーム」。コンパクトだが、天井高は2.7メートルあり、ビジネスホテルにしてはゆとりを感じる。
突き当たりに窓で開放感
▲2階のフロントは、ビーチをイメージさせる内装。琉球石灰岩張りの壁や青を基調にした内装がさわやかな印象を与える
フロントは琉球石灰岩張りの壁と、海をイメージした青いタイル張りのカウンター。波模様の絨緞も相まってさわやかな印象。同ホテルを運営する(株)RJワークスの丸添勇気統括は「ビジネスホテル激戦区にあり、価格面だけで無く独自性も必要。そこで、県内でさまざまな物件を手がける福村さんにお力添えいただいた。おかげさまで、県外・海外のお客さまからも『明るくて清潔感があり、沖縄らしさも感じられる』と好評」と話す。
実際、ホテル内を歩くとビジネスホテル特有の暗さや圧迫感があまり無いことに気付く。福村さんは「突き当たりには、なるべく開口部を設けた」と説明する。エレベーターはシースルー。廊下も両端に窓が設けられ、視線が抜ける。
▲ビジネスホテル特有の暗さや圧迫感を払しょくするため、福村さんは「行き止まりに開口部を設けて採光と視線の抜け道をつくった」と話す
「敷地も建築費も限られている。その中で多様な人が心地よく過ごせ、そして沖縄らしさも感じられるよう試行錯誤した」と福村さん。「沖縄色」を目に入りやすい場所に反映させているのも工夫の一つ。客室には琉球ガラスの照明を設置。全室違うオリジナルデザインだ。ドアに描かれているサインも全室色やモチーフが違う。マンタやイリオモテヤマネコ、ハイビスカスやマングローブなど沖縄の動植物が描かれている。階層を表すサインは、本物の砂や貝殻で制作した。
▲内装はシンプルだがひと部屋ごとに違うオリジナルデザインの琉球ガラスの照明が設置されている
「県内には数多くのビジネスホテルが建つが、地元の建築士が手掛けることは少ない。地元を知り、思いのある建築士が建物や街並みを作ることも大事だと思う」と話した。
▲各階のサインは本物の砂や貝殻を使って製作。目に入りやすい部分に沖縄色を反映させ、コストを抑えつつ個性を演出する
▲県内の動植物が描かれたドアサイン。全60室すべて違う
▲(上写真)客室階廊下の給排水管が通る「パイプシャフト」スペースを利用し、展示スペースを設けた。沖縄の風景や食文化、工芸や歴史などの写真パネルが展示されている
廊下をギャラリーに
ビジネスホテルが立ち並ぶ那覇市の国道58号付近。全国チェーンが低価格で画一的な客室を提供する中、3年前にオープンした「RJホテル那覇」はユニークな空間もウリにしている。
7階建て全60室のホテル。設計したのは平和祈念資料館(糸満市)や県総合福祉センター(那覇市首里)などを手がけたチーム・ドリーム代表の福村俊治さん。「ただ寝るだけの場所では無く、沖縄の歴史や文化を感じられる場所にしたかった」と話す。
それが最も表れているのはなんと、廊下。歩いていると、おいしそうなソーメンチャンプルーが目に飛び込んでくる。そして鉦の音が聞こえてきそうな迫力あるハーリーの写真、かと思えば沖縄戦で米軍が上陸せんとするモノクロ写真もある。客室のある3~7階の廊下の、給排水管などが通る「パイプシャフト」を利用して展示スペースを作った。各階6枚ずつ計30枚のパネルが展示されている。人が通るだけの場所を「人が通るからこそ」と逆手に取ってギャラリーにした。
▲実際に飾られているパネル。各階に6枚ずつ、ホテル全体で30枚展示されている
「動植物や歴史、工芸や食など沖縄を偏り無く知ってもらえるよう写真を選んだ。場所柄、戦争や基地の写真を飾ることにためらいもあったけれど、沖縄を知る上で外せない歴史だから」。県内の博物館から資料写真を借りてきたり、自身で撮影した写真もある。
「仕事で来て、沖縄らしさを味わう間もなく帰ってしまう宿泊客もいる。それでも『ああ、沖縄に来たんだな』と琴線に触れる1点があれば」
▲客室は全60室。そのうち57室がこの「デラックスツインルーム」。コンパクトだが、天井高は2.7メートルあり、ビジネスホテルにしてはゆとりを感じる。
突き当たりに窓で開放感
▲2階のフロントは、ビーチをイメージさせる内装。琉球石灰岩張りの壁や青を基調にした内装がさわやかな印象を与える
フロントは琉球石灰岩張りの壁と、海をイメージした青いタイル張りのカウンター。波模様の絨緞も相まってさわやかな印象。同ホテルを運営する(株)RJワークスの丸添勇気統括は「ビジネスホテル激戦区にあり、価格面だけで無く独自性も必要。そこで、県内でさまざまな物件を手がける福村さんにお力添えいただいた。おかげさまで、県外・海外のお客さまからも『明るくて清潔感があり、沖縄らしさも感じられる』と好評」と話す。
実際、ホテル内を歩くとビジネスホテル特有の暗さや圧迫感があまり無いことに気付く。福村さんは「突き当たりには、なるべく開口部を設けた」と説明する。エレベーターはシースルー。廊下も両端に窓が設けられ、視線が抜ける。
▲ビジネスホテル特有の暗さや圧迫感を払しょくするため、福村さんは「行き止まりに開口部を設けて採光と視線の抜け道をつくった」と話す
「敷地も建築費も限られている。その中で多様な人が心地よく過ごせ、そして沖縄らしさも感じられるよう試行錯誤した」と福村さん。「沖縄色」を目に入りやすい場所に反映させているのも工夫の一つ。客室には琉球ガラスの照明を設置。全室違うオリジナルデザインだ。ドアに描かれているサインも全室色やモチーフが違う。マンタやイリオモテヤマネコ、ハイビスカスやマングローブなど沖縄の動植物が描かれている。階層を表すサインは、本物の砂や貝殻で制作した。
▲内装はシンプルだがひと部屋ごとに違うオリジナルデザインの琉球ガラスの照明が設置されている
「県内には数多くのビジネスホテルが建つが、地元の建築士が手掛けることは少ない。地元を知り、思いのある建築士が建物や街並みを作ることも大事だと思う」と話した。
▲各階のサインは本物の砂や貝殻を使って製作。目に入りやすい部分に沖縄色を反映させ、コストを抑えつつ個性を演出する
▲県内の動植物が描かれたドアサイン。全60室すべて違う
取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1777号・2020年1月24日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 東江菜穂
これまでに書いた記事:350
編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。