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2017年3月17日更新

無数の段差や亀裂で二次被災|みんなで考えよう!豊かなまち⑫

災害時の避難では、歩道のバリアーが進路を阻み、命を奪うことがある。どのような問題が起こりうるのか。最終回は車いす利用学生の田畑秋香さんと考えるほか、研究で沖縄を10日間歩き続けた桜美林大学生に訪問者として見た沖縄の道路バリアーを聞く。

災害時バリアー③ 避難と歩道

一昨年、沖縄市で障がい者を含む児童の避難訓練を指導した。防災を学ぶ立場から訓練に参加した沖縄国際大学生の田畑さんは、避難しながら同じく車いすを利用する小学生と「歩道を進むのは危ないね。災害時には車道を進む方が安心かも」と話し合った。
研究で沖縄を訪れた桜美林大学の学生5人が話すように(下インタビュー記事参照)沖縄の歩道は小さな段差やいいかげんな道路工事によるひび割れが多い。車いすは、わずかな段差や亀裂に車輪を取られて転倒する。大きな地震が起こると、亀裂はさらに広がる。
災害時は、群衆の殺到による危険もある。田畑さんは、「姿勢が低い車いす利用者は、人混みで気付かれにくい。段差に引っかかった時、パニックになった群衆が後から迫ってきたら、押しつぶされ将棋倒しの下敷きになるかもしれない。夜間はもっと怖い。沖縄では家庭の防災意識が低く、懐中電灯を持たずに逃げる人からは、私たちの姿は見えないだろう」。
一方、災害時の車道は避難する自動車で埋め尽くされると考えられる。乗り捨てられる車もあり、歩道も車道も進みにくい状況になる。「進めない時、車いす利用者は簡単に引き返して別の道を選ぶということができない。私たちはどうしたらいいのか」と田畑さん。
桜美林大生が指摘するように、公共事業での金の使い方を見直すべきだ。なぜ、沖縄の道はこれほど雑な造りなのか。高齢者や障がい者だけでなく健常者も外出機会は減り、「長寿を取り戻そう」の掛け声がむなしい。工事後のチェックは、誰がしているのだろうか。きたるべき災害で、避難を助けるための歩道が逆に避難を妨げてしまうことは、あってはならない。


那覇新都心の歩道。中途半端な舗装仕上げのうえ、点字ブロックが割れている


県外学生 歩道で毎日つまずく

-歩道で何度もつまずいたとか。
 Aさん  私たちは都市建設や福祉を学んでいるのではないが、歩道を問題視せずにいられなかった。沖縄を学ぶため10日間歩いてきて、毎日メンバー5人の誰かが転倒してケガをしたり、つまずいて足をひねったりした。この状態では、観光客でケガをする人も多いのではないか。歩道のあり方は、障がい者や高齢者の観光を拒否しているようにも見える。

-ケガをした人も?
 Bさん  私は歩道を小走りした時に小さな段差で転倒して、腕が血だらけになった。無数の小さな段差のほか、道路工事が雑なせいかあちこちに中途半端な補修跡があり、これらも無数のバリアーになっている。車いすやベビーカー、シルバーカーはさぞ移動しにくいことだと思う。

-障がい者や高齢者、子ども連れに厳しい。
 C君  点字ブロックやタイル張りされた路面がはがれたり割れているところが多く、段差ができている。健常者でもつまずくのに、視覚障がい者は大丈夫なのか。街路樹用と思われるスペースに街路樹が植えられず、穴が開いたままになっているところもいくつかあった。あちこち見ながら歩いていて、足を突っ込んでケガしそうになった。なぜ放置しているのか。

-道路行政に問題があると考える?
 Dさん  こうした道路や歩道でいいかげんな造りになっているところが多い半面、突然琉球石灰岩による豪華な道や橋が現れたり、牧志駅近くには立派な親水空間が作られているのに柵がされていて入れないことに驚いた。こういうものより、高齢者や障がい者、観光客が歩きやすいよう、道路の無数のバリアーをなくすところにお金を使うべきではと思った。

-沖縄への訪問者としてどう感じた?
 E君  少なくとも、私たち旅行者は大変だった。歩道が凸凹の多いタイルでできているところも多く、カートを引くのが辛かった。キャスターが壊れたら、せっかくの沖縄旅行や研修が台無しだ。不慣れな道で、ゆるい坂が多いことも大変なのに、沖縄の高齢者や障がい者は大丈夫なのだろうかと思った。

-どうすれば改善できると考える?
 Aさん  沖縄の人はもっとまちを歩いて、こうした状況に気付いてほしい。夕方、子どもを車で迎えに行くのが当たり前と聞いて、あまりの車社会ぶりに驚いた。大人も子どもも歩く機会を増やし、歩道を使うことで声を上げるべきだと思う。
 


10日間にわたり、本島各地をフィールドワークした桜美林大生


=おわり


文・稲垣 暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。なは市民活動支援センターで非常勤専門相談員。沖縄国際大学・沖縄大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組での講師を務める。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1628号・2017年3月17日紙面から掲載

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