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2021年8月27日更新

【沖縄】百名伽藍(ひゃくな・がらん 南城市)|HOTELに習う空間づくり[21]

当連載では県内のホテルを例に、上質で心地良い空間をつくるヒントを紹介する。今回は百名伽藍(南城市)の空間をクローズアップする。

「引き算の美学」追求 木々に寄り添う建物

百名伽藍(南城市) 空間コンセプト「光・影・風」

海側に生えていた防風林を避けながら建てたため、くねくねとカーブを描いて建つ
海側に生えていた防風林を避けながら建てたため、くねくねとカーブを描いて建つ


森に「生えるホテル」
 

いわゆる高層リゾートホテルとは真逆。背は低く、折れ曲がって建つ。「景色を邪魔せず、もともと生えていた木々をなるべく避けるうち、こういう形になりました」と、百名伽藍を運営する(株)JCCの渕辺俊紀社長。同ホテルは17室+別館1室という小規模な造り。

中庭にも3本のガジュマルがあり、周りを回廊がめぐる。この大木、「市内の別の場所で伐採予定だったものを移植しました」。10年が建ち、今やホテルの主のように鎮座する。

赤瓦屋根と琉球石灰岩の壁を木々の陰影が染める。「城(グスク)」のような、おおらかな空気が漂う。「主役は自然。建物はそこに寄り添う形。森の中にホテルが生えてきたという感じ」と笑う。

レストランへ向かう長い廊下では、琉球の偉人たちが出迎えてくれる。ふと窓の外を見ると、お釈迦(しゃか)様の姿。高さ7メートルもの仏像が植物の間から顔を見せる。首里の円覚寺に安置されていたという仏像群がモチーフ。

「百名伽藍という森に迷い込み、沖縄の自然や文化と出合う。そんなイメージなんです」と話すのは同社の渕辺俊一名誉会長。案内板は最小限。だから発見に満ちていて、ホテルにいることを忘れてしまう。


琉球石灰岩の高い塀が外界をシャットアウト。赤瓦屋根の連なりが「グスク」のよう
琉球石灰岩の高い塀が外界をシャットアウト。赤瓦屋根の連なりが「グスク」のよう

中庭でガジュマルが枝を伸ばす
中庭でガジュマルが枝を伸ばす

1階の廊下から見える「百名伽藍釈迦三尊像」。全長7メートル。「石を設置して、イチから掘ってもらった」
1階の廊下から見える「百名伽藍釈迦三尊像」。全長7メートル。「石を設置して、イチから掘ってもらった」

レストランへ向かう廊下は「ギャラリー・自了館」。「海も山も見えない場所なので、わが社が誇る美術部が描いた偉人の絵や、歴代国王の肖像画『御後絵(おごえ)』などを展示しました」と俊紀社長
レストランへ向かう廊下は「ギャラリー・自了館」。「海も山も見えない場所なので、わが社が誇る美術部が描いた偉人の絵や、歴代国王の肖像画『御後絵(おごえ)』などを展示しました」と俊紀社長

回廊から見るサンセット
回廊から見るサンセット


神社仏閣、古民家が手本

居るだけで満たされる空間。それは客室も同じ。「白隠の間」は、畳間に大きな窓。テラスや軒は、今年の改装でさらに延ばした。海景色をワイドに切り取り、水平線を強調する。「海を眺め、波の音を聞き、風を感じる。ただそれだけの空間です」。深い軒のおかげで室内は薄暗い。ジッと外を見ていると、視界と影が溶け合い、波音も徐々に遠のいていく。座っているだけで現実から切り離されていく。

「神社仏閣、沖縄の古民家を参考に、『引き算の美学』で空間づくりをしています」と俊紀社長。 

海に面する窓は目障りなサッシが無く、フルオープンできる物に取り換えた。建材も琉球石灰岩やチャーギなど、「ここになじむものに絞った。物や色、情報が多いと、人は分析してしまう」からだ。道路側には琉球石灰岩の高い塀を設けて外界をシャットアウト。削ぎ落としても心地よく過ごせる工夫を凝らす。

新たに設置した白隠の間のベッドの位置・高さは「起き上がったときに水平線が目に入る」よう計算されている。朝一番、スマホに伸びる手が止まる。それこそが百名伽藍の「非日常」だ。

伽藍とは、寺院などの建物を指す。同ホテルの裏テーマは「禅」。

「リゾートとは、自分をRe(再び)sort(整える)すること。すべてを削ぎ落して無になれる場所、居るだけで心がほとけ(仏)ていく場所だと考えています」と渕辺会長。

琉球開闢の神が降り立ったとされる「百名」の力、自然の力、文化の力を引き出した、唯一無二のホテルだ。


「白隠の間」。目の前に水平線が広がる圧巻の景色。ことし7月にリニューアルオープン。以前より軒とテラスを延ばし、さらに海に近づいた。俊紀社長は「南城市の半島の先端にあるので、サンセットからサンライズまで見ることができます」と話す
「白隠の間」。目の前に水平線が広がる圧巻の景色。ことし7月にリニューアルオープン。以前より軒とテラスを延ばし、さらに海に近づいた。俊紀社長は「南城市の半島の先端にあるので、サンセットからサンライズまで見ることができます」と話す
 

白隠の間専用の展望露天風呂「方丈庵」へ続く階段。百名伽藍では、こうした細い通路や、曲がりくねって先が見通せない“スージグヮー”があちこちに配され、渕辺会長のいう「森の中に迷い込み、さまざまな出合いを楽しむ」とのストーリーを演出する

白隠の間専用の展望露天風呂「方丈庵」へ続く階段。百名伽藍では、こうした細い通路や、曲がりくねって先が見通せない“スージグヮー”があちこちに配され、渕辺会長のいう「森の中に迷い込み、さまざまな出合いを楽しむ」とのストーリーを演出する

屋上にある展望露天風呂「方丈庵」。全部で6棟あり、昔ながらの集落のよう
屋上にある展望露天風呂「方丈庵」。全部で6棟あり、昔ながらの集落のよう

大開口から海風が吹き抜ける約40畳の「禅の間」。宿泊客はいつでも使える
大開口から海風が吹き抜ける約40畳の「禅の間」。宿泊客はいつでも使える


取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1860号・2021年8月27日紙面から掲載

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スタッフ
東江菜穂

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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

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