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2020年9月25日更新
紅型を主役に 華やぎと温かみ|HOTELに習う空間づくり[14]
当連載では県内のホテルを例に、上質で心地良い空間をつくるヒントを紹介する。
今回は2020年9月26日に那覇市天久にオープンする「HOTEL OMORO58」を取り上げる
HOTEL OMORO58(那覇市天久)
最上階の803号室は、紅型が彩りと温かみを添えるスペシャルルームで、同ホテルで一番広い約48平方メートル。入り口の紅型と同じ型だが、麻に染められていてより温かみを感じる
沖縄らしさ味わう空間
明日(9月26日)、那覇市天久の国道58号沿いにシティーホテル「HOTEL OMORO58」がオープンする。8階建て全21室で、キッチンや洗濯乾燥機も完備したコンドミニアムタイプだ。
「海沿いのリゾート地ではなく、敷地が広いわけでもない。だが、沖縄にいると感じられ、長期滞在できる空間にしたかったんです。だから、沖縄の工芸や自然を取り入れました」と同ホテルのオーナー、㈲おもろハウジングの天久学代表は話す。
同社がホテル経営をするのは初めて。もともと駐車場だった好立地との出合いがきっかけだ。「県外の人も訪れやすい場所なので、ホテルでありながら、伝統工芸の発信地にもしたいと思っていました。そんなとき、『やふそ紅型工房』の作品を見たんです。華やかだけど、懐かしさも感じる。これだ! とすぐ依頼しました」
同工房の屋冨祖幸子さんは、2018年度の「現代の名工」に選ばれた、業界をけん引する技術者だ。伝統を守りながらも、さまざまな工芸とコラボするなど紅型の新たな可能性を追求し続ける姿勢が評価された。パッと目を引く鮮やかな色使いが特徴。「天久社長からお話を頂き、イメージしたのは琉球王朝時代の優雅な雰囲気と、自然あふれる沖縄の原風景。それを1枚に凝縮しました」と話す。
ホテル入り口で出迎えてくれるのは、縦40㌢×横100㌢の作品。
HOTEL OMORO58の入り口に飾られているのは「やふそ紅型工房」の作品。真っ青な空に鳳凰が舞い、その下には赤瓦屋根の古民家が連なる。作品を手掛けた屋冨祖幸子さんは、「琉球王朝時代の優雅さと、沖縄の原風景を一枚で表現した」と話す
スカイブルーの空の下、その昔、貴族の着物にしか描かれなかった 鳳凰が仲むつまじく飛び、下には 赤瓦家が連なる。周りを彩るのはあでやかなブーゲンビレア。絹に染められ、くっきり浮き出た色や輪郭から異国情緒が漂う。
一方で最上階の803号室に飾られている作品は、同じ型紙だが麻に染められ、素朴で優しい印象。「部屋で毎日目にしても、飽きが来ないよう配慮しています」 制作を手掛けた屋冨祖絵里さんは、「細部までこだわって染めました。例えば連なる赤瓦屋根は、築年数の違いを出しています。手前の家は古びた風合いが出るよう黒っぽく、そばの家はわりと新しめ。沖縄ならではの工芸で、沖縄ならではの景色を切り取っています」
紅型を手掛けたやふそ紅型工房の屋冨祖幸子さん(右)と屋冨祖絵里さん。構想は幸子さん、制作を絵里さんが手掛けた
染めの様子。構想から完成まで半年ほどかかった
工芸や石で味わい深く
各客室も「沖縄の色」を基調にしている。503号室は在りし日の首里城のような赤、801号室はサトウキビのような爽やかな緑で、浴室は海のような神秘的な青。そこに「少し、非日常的なエッセンスを加えています」。
防音サッシで国道からの音をシャットアウトしているほか、ハンモックを置いたり、天井にBluetooth対応のスピーカーを埋め込み「自分時間を楽しんでもらいたい」。
「完成したら終わりではない。時間がたつほどに味が増していくホテルにするのが目標なんです」と天久さん。アプローチやエントランスには、経年により風合いを増す琉球石灰岩を取り入れた。「紅型の展示会の開催もやりたい。伝統工芸のように長く愛されるホテルにしたい」と話した。
約40平方メートルのAタイプの部屋。赤色をアクセントにしている
サトウキビのような黄緑色をアクセントにした約28平方メートルのBタイプの部屋。広さは違えど、全室キッチン・洗濯・乾燥機付き
803号室と同じCタイプの部屋は、国道58号に面した開放感あふれる浴室も自慢の一つ
入り口には琉球石灰岩のひんぷんが設けられている。雨風にさらされて風合いを増す石にこだわったのは、「経年変化が楽しめるホテルにしたい」という天久さんの思いから
国道から見た同ホテル。上階右側の出っ張っている部分に浴室がある
取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1812号・2020年9月25日紙面から掲載
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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。