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2024年2月16日更新
東からの風雨時に雨漏り|インスペクションで解明 住まいのミステリー 第11話「築30年 5階建てテナントビルの3階」
文・喜屋武幸治(インスペクション沖縄メンバー、既存住宅状況調査技術者)
第11話「築30年 5階建てテナントビルの3階」
東からの風雨時に雨漏り
依頼内容
5階建てテナントビルを営むオーナーからの相談。3階店舗の天井から雨漏りしているが、上階は雨漏りの被害は無いそうだ。昨年の台風後、被害が拡大しており原因を突き止めてほしい。
現場の特徴
・築30年5階建て鉄筋コンクリート造テナントビル3階
・天井から雨漏り。上階(4階)には事務所があるが、そこは雨漏り被害はないという
雨漏り経路要因図
雨漏りや水漏れの原因はさまざまあり、それらの要因を想定しながら原因を究明する
上階のベランダ。室内から外へ伸びる小さなパイプがあった。これは湯沸かし器の給水管で、周囲には小さな隙間があった
雨水侵入経路模式図
雨 漏り時の記録が役立つ
相談があったのは台風6号が過ぎて間もなくの8月中旬。以前から水ジミが天井に現れ、天井を張り替え補修したが、今回の台風で被害が拡大したそうだ。
過去の改修履歴、雨漏りの発生時間、その時の風向きや風速、上階の様子やビルの大規模修繕の内容とその効果などを聞き取りした。幸いな事に依頼者は雨漏りした当時の様子を記録し、写真も撮っていた。記録があると、問題点の判断に大きく役立つ。
聞き取りから、水の経路について複数の要因を想定した。それを一つずつ検討した上で、仮説を立てた。台風の風が東側から吹いている時だけ雨漏りが起きることから、上階の東側のベランダにたまった水がなんらかの原因で下の階に染み出してきたのではないか、というものである。目視だけでは分からないため、雨の状態を作り出す散水装置を準備した。
3階の天井裏。モルタルでふさがれた貫通孔周りのひびから水が漏れていた
わ ずかな塗り残しから
調査当日、海の見える眺望の良い場所に立つテナントビルを訪れた。景色の良さと同時に、台風時の風雨の強さが想定された。外観は大規模修繕時に塗り替えており、新築のように光沢があった。
雨漏りのあった部分は天井のボードが剥がれていた。オーナーの同意を得て天井材を切除すると、モルタルでふさがれたパイプのようなものがあった。調べたところ「貫通孔」と言い、施工時に上下階の位置を確認するための穴だそう。
次に上の階を点検。目視では異常はなかった。東側掃き出し窓のシーリングにも問題はなさそうだった。ただ、小さなパイプが室内から外に出ており調べると湯沸かし器の給水管であることが分かった。
この給水管を調べると、ベランダ床との間に隙間があり、ほんの少しの塗装の塗り残しがあった。そこをめがけて散水。1時間後、3階の天井から水が染み出してきた。先の隙間から浸入した水が、貫通孔の周辺にできていた細かいひびを通り雨漏りになったようだ。
雨漏りや水漏れの原因は複数のこともあるため、原因を特定してもほかの問題点を見つけることが重要である。ただし今回の場合、後日ビルの管理会社から外壁塗装会社に塗り残しの補修を依頼し、施工してもらった後は再発していないそうだ。
解決策・アドバイス
◆テナントビルで雨漏りを調べる場合、その部屋だけではなく、オーナーや管理会社との協議や、お隣、上下階のテナントも調べる必要があり、一戸建て住宅より調整が難しい。
◆調査時に過去の補修履歴や建築図面などがあると解決の助けになる。
きゃん・ゆきはる/YUKI環境設計、電話=070・9035・5692
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1989号・2024年2月16日紙面から掲載