お住まい拝見
2017年6月16日更新
二つの高低差で快適|(株)一級建築士事務所 斎
[お住まい拝見]実家隣に新築したNさん。敷地と道路の高低差に加え、坂道の上下で生まれる高低差も活用。23坪ながら機能的、実家との距離も程よく、通りへの圧迫感も軽減した。
外観。東(写真左)から西へ上り坂になっている前面道路と敷地の高低差を生かすことで、道路からは建物が低く見え、圧迫感の軽減につながっている
キッチンからリビングを見る。実家のある南側に窓を設けたことで明るく風通しもいい。テラスの手すりはすりガラスになっており外からの視線はカット。窓を開け放しても気にならない
機能的な23坪 圧迫感も軽減
小さく建てて機能的に
Nさん宅
RC造/自由設計/家族4人
夫妻が家造りを考え始めたのは出産がきっかけ。実家の敷地が150坪あったため、両親も交え建築士とさまざまな可能性を話し合った。「当初は実家を建て替えて賃貸付き二世帯にとの計画やマンションを購入する話もありましたが、試算してみると厳しくて」とNさん。そこで敷地裏手の畑として活用していたスペースに、「小さく機能的」に新築する方向に切り替えた。
「実家は32坪。8人家族で狭く感じたこともあったけど、祖父母が亡くなり姉が巣立ってからは使わない部屋が増えて。掃除の手間や将来のこと、ローンの返済を考慮すると、ムダを省いて使い勝手を良くした方がいいと考えたんです」
作り上げたのは23坪とコンパクトな平屋。敷地の高低差のおかげで、実家のすぐ裏手ながら風通し、見晴らし共に良好だ。水回り以外、個室は夫婦の寝室のみ。LDKと隣室はつなげたり仕切ったりすることで、子ども室やゲストルーム、子どもが独立後は夫婦の書斎や趣味室にと、さまざまな用途に使える造りとした。
キッチン側。正面の横長窓は、道路に面しているため、すりガラスのはめ殺し窓に。写真左手の水回りとも近い
実家と頻繁に交流
「家事は毎日のことだから、とにかくラクにしたかった」とNさん。夫妻が最も気に入っているのは、屋根付きのサービスヤード。「風通しがいいから洗濯物もよく乾くし、密閉できるので梅雨時は閉めて除湿機を回せばOK」。夫人は「天窓から空が見えて気持ちいい。お天気のいい日も雨の日も夜もいい」と楽しげだ。それ以外にも、例えば雨天時の車との行き来を考え駐車場は玄関の目の前に、トイレは「駐車場から近く老後も不便なく」と玄関にも寝室にも近い場所に置いた。
「以前は休日も掃除に時間をとられていたけれど、今はスムーズに出かけられる」と笑顔。実家とも玄関前の階段からすぐ行き来でき「子どもを預けたり、朝は母が見送りにきたり」と頻繁に交流する。小さく機能的な住まいは、ゆとりと、家族間の程よい距離を生み出した。
玄関。内装は白で統一しコンパクトでも広く明るく。天井高いっぱいに仕上げた建具類も、スッキリとした見た目に一役
ここがポイント
室内・実家・通り
3方が心地良く
分筆した敷地は、前面道路との高低差が西側で約3メートル、東側で2メートルある。つまり前面道路は西から東に下る坂道だ。さらに向かいには3階建ての賃貸住宅があった。そこで建築士の玉那覇昇一さんは、①前面道路と実家の高低差、②坂道の高低差という二つの高低差を生かし、Nさん宅にとってはもちろん、実家にも通りからも快適な環境を生み出した。
カギとなったのは、東に駐車場、西に住宅を配置し、床高さは東側に合わせたこと。これにより、外からの視線は壁で遮りつつも、通りからは西に行くにつれ建物が埋まって見える造りとなるため、圧迫感が軽減される=外観立面図。住宅は、実家の建つ南向けに大開口を設けているが、実家とは2メートルの高低差があるため視線がかち合うことなく光や風が取り込める=断面図。
西側断面図
外観立面図
またよう壁の代わりに住宅の基礎で土留めする「高基礎」を採用し、敷地の奥行きを目いっぱい活用。室内は廊下を省き、寝室と水回り以外はワンルーム的な造りに。随所に収納を造り付けているものの、LDKに隣接するフリースペースは用途を限定せず使えるよう、敢えて造り付け収納は省いている。水回りはコンパクトにまとめ、ライトコートを設置し風通し良く。洗濯物干場となるサービスヤードも屋根付き、窓付きにすることで、季節や天候の影響を受けずに家事ができる造りとした。
リビング隣のフリースペースからLDKを見る。子どもが小さい現在は、間仕切りを開け放し、LDKと一体的に活用。子どもたちが大きくなったら二部屋に仕切ることも可能だ。「この部屋は幅広い用途で使えるよう、あえて造り付けの収納は設けなかった」と建築士
サービスヤード。ガラスの天窓や南北に滑り出しの窓を取り付けたことで、外出時も気にせず洗濯物が干せる/左
水回り。洗面台は天窓で明るく清潔。奥の脱衣室は仕切ることができ、入浴中の家族を気にせず洗面台が使える/右
[DATA]
家族構成 :夫婦、子ども2人
敷地面積 :187平方メートル(約56.57坪)
1階床面積:75.63平方メートル(約22.88坪)
建ぺい率 :46.33%(許容50%)
容積率 :40.44%(許容100%)
用途地域 :第一種低層住居専用地域
躯体構造 :鉄筋コンクリート造壁式構造
設 計 :(株)一級建築士事務所 斎 玉那覇昇一
構 造 :翔光プラン
施 工 :(株)ライフコーポレーション
電 気 :喜友名電気
水 道 :(有)ライフ工業
[問い合わせ先]
(株)一級建築士事務所 斎
098-996-3512
http://www.atelier-sai.net/
写真/高野生優(フォトアートたかの) 編集/徳正美
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1641号・2017年6月16日紙面から掲載