お住まい再拝見
2015年7月3日更新
「地元」にこだわり|(有)設計同人GAN
琉球石灰岩を大胆に施した室内の壁に、読谷山花織のタペストリー。建築家の赤嶺和雄さん(71)=那覇市=が自ら設計した住まいは、ウチナームンにあふれている。築34年。屋敷周りや屋上、中庭と緑に覆われ、床や建具の色合いも深みが増した。「緑で建物が生かされている」と赤嶺さんは感じている。
緑増えて豊かに
赤嶺和雄さん宅(第87号1987年3月13日掲載) 築34年
1階リビング・ダイニング。壁一面に琉球石灰岩や本部石灰岩、夫人の故郷の三波石が施されている
屋敷林が残る民家、新築マンションが混在する沖縄県那覇市宇栄原の閑静な住宅地。その一角に赤嶺さん宅は、緑に包まれたたずむ。
平屋建ての住まいは、井戸がある中庭を囲むように、北側に玄関、東側にリビング・ダイニング、西側に和室を配した間取り。
前面道路から緑陰のトンネルをくぐるように屋敷の中へ歩みを進める。琉球石灰岩のヒンプンにある大きな面シーサーに迎えられ、室内へ。玄関、奥のリビング・ダイニングと壁一面に施された琉球石灰岩が目を引く。
リビング・ダイニングは読谷村花織のタペストリーが存在感を放つ。「沖縄だからこそ、ウチナームンに囲まれて暮らしたいと思ってね」と赤嶺さんはほほ笑む。
チャーギ(イヌマキ)の一枚板でこしらえたテーブルで、妻の岩子さんは本をめくり、その側で赤嶺さんはパソコンに向かう。思い思いに過ごす光景は変わらない。夕方、軒先や中庭に打ち水をすると、涼しい風が室内を吹き抜ける。
中庭に癒やされて
「水やりや手入れで、休日が終わってしまうんだよ」と赤嶺さんが苦笑いするほど、屋上や中庭、屋敷周りは緑があふれている。「今ある緑のほとんどが、鳥が種を運んできて生えた“ナンクルミー”。たくさんの緑でわが家が生かされている感じがするね」。リビング・ダイニングから中庭の緑が眺められるとあって、「癒やされる。あらためて良さを感じている」と岩子さん。
自宅は34年前、先祖代々受け継いできた土地に建てた。当初は赤嶺さん夫妻と、赤嶺さんの母親の3人暮らしていたが、現在は夫婦二人で暮らしている。
住み始めてから現在まで、リフォームは一度もしていない。部屋の使い方で唯一変わったのは、南西側にある趣味室。岩子さんが使っているが、もともとは赤嶺さんの書斎だった。
家が広くて掃除が大変なのでは、と言われることも多いが「楽しみながらやっている」と気にしていない様子。
「元気なうちはこの家に住み続けたい」。夫妻は目を細めた。
玄関正面から見た中庭。ヘゴやオオタニワタリが潤いを添える。正面奥はもともとあった井戸で、その上には屋上の木々が見える
キッチン。34年前の住宅では珍しい天窓が設けられている
前面道路から見た現在の外観。建物が屋敷林に囲まれ、ほとんど見えない
赤嶺さんが朝夕水やりをする屋上。完成当初は芝生だけだったが、現在は木々が生えて庭園に
土地に寄り添い
赤嶺さん宅は「自然や土地に寄り添う、地産地消の住まいづくり」の提案が随所に見られる。屋敷全体の緑化、県産の建材や工芸をあしらった内装がそれだ。さらに太陽光発電システムの導入や井戸水の利用と、「先見の明」も感じさせる。
玄関。壁には琉球石灰岩が施されている
趣味室。現在は、岩子さんがクラシックやコーラスのCDやDVDを楽しむオーディオルームになっている
和室の襖(ふすま)。左は勝公彦さん作の琉球紙、右は藤村玲子さん作の紅型の和紙染め
設計者・赤嶺和雄さんに聞く
沖縄にある物で長く
「自然や土地に寄り添う」という点で印象的なのは、屋敷の周囲や中庭、屋上の豊かな緑だ。木々を抜ける風は冷やされ、涼しい風を室内にもたらす。屋上を芝生で覆うことで、コンクリートのふく射熱も抑えた。中庭を囲むように居室を配置した間取りについて、赤嶺さんは「昔からある井戸を残すため」と説明する。井戸水をくみ上げ、屋上の散水に使っている。20年前に導入した太陽光発電システムも現役だ。「沖縄なら沖縄に昔からある物を使う。そうすることで建物は、その土地で長く生かされる」と考える赤嶺さん。それは、工芸をあしらった造作や、県産の建材が多く使われていることから見て取れる。知り合いの織物作家や和紙職人に頼み、琉球紙や紅型の和紙染めをあしらった襖(ふすま)を作ってもらった(上写真)。また陶芸家の友人には、大宜味村の土でタイルを焼いてもらい、中庭の土間、浴室やトイレの床に使った。「年月をへて、色合いは深みを増し、風合いが豊かになっている。ウチナームンならではの魅力だね」と語った。
[DATA]
家族構成:夫婦
敷地面積:827.74㎡(約250坪)
床面積:1階 206.45㎡(約62坪) 中2階 16.87㎡(約5坪)
建ぺい率:27.7%(許容60%) 容積率:26.97%(許容200%)
用途地域:第2種住居専用地域(建築当時)
躯体構造:鉄筋コンクリート造ラーメン構造
設 計:(有)設計同人GAN 赤嶺和雄
施 工:善太郎組
完成時期:1981年1月
[設計・問い合わせ先]
(有)設計同人GAN
098-858-3800
http://aka‐gan.com
写 真/比嘉秀明撮影
編 集/週刊タイムス住宅新聞編集部
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1539号・2015年7月3日紙面から掲載