お住まい拝見
2025年9月26日更新
[お住まい拝見]風呼び込む “浮いた塀”|(株)山口瞬太郎建築設計事務所
[周囲とのつながり生む]
住宅地に建つTさん宅は、コンクリート打ち放しのスタイリッシュな平屋。目を引くのが、下部分がカットされた“浮いたような塀”だ。60センチのスペースが住宅に風を呼び込み、周囲とのつながりを生んでいる。

コンクリートの質感を和らげているのは、外観を彩る緑の植栽だ。隣に住むTさんの母が、楽しみながら育てている
日常の時間が特別に
Tさん宅
RC造/自由設計/家族2人

LDKは、すっきりと広々とした空間。「丁寧な暮らしはできないので、収納はたっぷり造ってもらいました」と夫人。家族写真やお気に入りの雑貨を飾る「見せる収納」(写真右)と、「隠す収納」をバランスよく設けている

玄関の扉を開けると、裏庭のハイビスカスの生け垣へ視線が抜ける。緑あふれるエントランスはリゾート感があり、訪れる人の期待感を高める
玄関の木の扉を開けると、ホールの窓から広がるハイビスカスの生け垣に視線が抜ける。ホールは天井高3.6メートルで、家中で一番高い空間だ。天窓からは空がのぞき、壁に映る光は時と共に移ろう。「動画で見た広いホールにあこがれて、建築士さんにお願いしました。リビングとは別にくつろげる場所が欲しかった」とTさん(34)。「室内で星や月を眺められます」と夫人も笑顔を見せる。

コンクリート打ち放しの壁面に、トップライトからの光が映し出される玄関ホール。見上げると、空が眺められる。「ここで天気が分かる」とTさん
玄関から右手に進むとLDKへ。キッチン、ダイニング、リビングが直線上に並び、その先にテラス、中庭が続く。夫人のお気に入りはキッチンだ。「キッチンが広くてストレスゼロ! ここで過ごす時間が長いのですが、大きな窓から空が見えて気持ちがいい」と話す。

木で造られた造り付けの対面式キッチンは、夫人のお気に入りのスペース。広々とした作業スペースと充実した収納で、日々の家事がスムーズに

ダイニングの先には、テラスが広がる。天井と同じ高さの深いひさしは、強い日差しを遮るだけでなく、室内をより広く感じさせる効果も
玄関から左手、西側には、水回りや個室などプライベートゾーンがまとまっている。Tさんのお気に入りはコンクリート打ち放しの洗面所だ。「洗面室を使うたびに、本当にいい家だなぁとうれしくなります。住み始めて1カ月くらいは、こんなホテルみたいな家に住んでいいんだろうかとうれしくてドキドキしていました」と笑う。

打ち放し仕上げで間接照明を用いた洗面室は、リゾートホテルのよう。幅1.9メートルの広々としたカウンターで、使い勝手も良い

バスルームは、大きな窓を設けた開放的な造り。窓からハイビスカスや木々が見え、心地よさを演出する
人を招きたくなる家
2年前の結婚をきっかけに、家造りに動き出したTさん。土地は実家から譲り受けた。設計は、Tさんが仕事で知り合った建築士に依頼した。「職人を大切にして、みんなで家を造っていくという姿勢に心を打たれて。他は検討しませんでした」とTさん。夫人は「コンクリート打ち放しと木の造作という作風にも引かれた」と話す。
「細かいところまで思いを汲んでもらえて、建築士さんの提案なら、と信頼してお任せすることができた」と、家造りを振り返る二人。Tさんは「仕事をしていても『早く帰ってソファに座ってビールが飲みたいなぁ』と思える。友人たちに、『遊びに来て』と言いたくなる。理想の家になりました」と楽しげだ。涼しくなったら七輪を買って友人を招き、BBQをしようと計画している。
県外出身の夫人は「地元では建築事務所と家を造ることはほとんどないので、遊びに来た友人に『どういうこと?』『これがお家?』とびっくりされます」とにっこり。取材中、笑顔が絶えなかった二人。言葉の端々に、家造りの喜びがにじんでいた。
ここがポイント
視線を遮り つながり残す
住宅地に建つTさん宅。設計をした山口瞬太郎さんは「周囲の視線を遮りつつ、光と風をどう確保するかを考えた」と説明する。
特に重視したのが、風の確保だ。山口さんは「風の吹き方は土地や季節によって違う」と何度も現場に通って風を体感。隣に住むTさんの両親からも話を聞き、南の風を取り込むプランを導き出した。Tさんが生まれ育った土地で、閉鎖的な空間にはしたくない。そんな中で提案したのが、壁面の足元を抜く“浮いたような塀”だ。通りの歩行者や車からの視線は遮りつつ、周囲への圧迫感を和らげ、風を取り込めるよう塀の下部を空けた。
南側に大きな開口を設け、長い時間を過ごすリビングダイニングや個室を配置。北側には水回りや納戸など機能的なスペースをまとめた。さらに北側に窓や勝手口を設けて風の出口とすることで、風通しを確保した。
また、「人が集いやすいよう、玄関ホールを軸に、東にパブリックスペースであるLDK、西にプライベートスペースの個室と水回りを配置しました」と山口さん。
Tさんの要望で、省エネ性能の高いZEH水準をクリアし、助成金を取得。大きなひさしや寝室の天井裏に内断熱を施工。オール電化やエコキュート、屋根の上に太陽光パネルを設置して省エネ性を高めている。
[DATA]
家族構成:2人
敷地面積:288.72平方メートル(約87.33坪)
建ぺい率:42.07%(許容60%)
1階床面積:100.53平方メートル(約30.4坪)
容 積 率 :34.82%(許容200%)
用途地域:第一種中高層住居専用地域
躯体構造:壁式鉄筋コンクリート造
設 計:(株)山口瞬太郎建築設計事務所
山口瞬太郎、高橋茉依
構 造:濱川構造設計
施 工:十黄進ホーム
電 気:屋宜電気工事
水 道:ライフ工業
◆問い合わせ
(株)山口瞬太郎建築設計事務所
電話=050(3365)7595
https://yoaa.jp/
撮影/高野光(フォトアートたかの) 文/栄野川里奈子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2073号・2025年09月26日紙面から掲載