お住まい拝見
2025年1月17日更新
[お住まい拝見]木の構造美 天高く現す|(株)建築意思
[大開口から緑豊かな風景 堪能]琉球料理研究家の西大八重子さんと強さんは自宅で料理教室を開けるよう、新居を計画。リビング・キッチンはゆとりを持たせ、木材が精巧に組まれた構造美があらわになった大迫力の空間が広がる。北側の掃き出し窓からは山々の風景を借景に取り込む。

茶室・庭園でおもてなし
西大さん宅
木造/自由設計/家族2人
琉球料理研究家の西大八重子さんと夫・強さんの自邸兼生活文化研究所。2018年に閉校したフィニッシングスクール西大学院から新天地を探し求め、南城市の高台に新居を構えた。強さんは「海が一望できた前の住まいから森の中へ。趣の違う自然を身近に感じながら、のんびりと暮らしています」と話す。
玄関を抜けると、広がる壮大な空間に思わず息をのむ。リビングの天井は高い所で約5.4メートル、あらわになった垂木や梁(はり)など木の構造美が印象的だ。北側の大開口からは緑豊かな山々まで視線が抜けて、非常におおらかな室内となっている。八重子さんは「キッチンからも見晴らしがよく、朝昼晩で移り変わる風景がお気に入り」と笑う。
幅・奥行きにゆとりのあるキッチン。室内の雰囲気に合うよう、前面収納や食器棚などを木で造り付けた
室内は掃除や行き来などがスムーズにできるよう、全面バリアフリーを採用。また水回りや寝室などはコンパクトにした分、キッチンやパントリー、リビングを広く使えるようにした。夫妻は「自宅でも料理教室を開けることが何よりもうれしい」と満足げ。
全面バリアフリーにしたことで掃き掃除なども手軽にできる。障子を開けると、茶事の練習スペースとして設けた和室や茶道口につながる
既存の木・岩を植栽に
中でも欠かせなかったのが茶室だ。八重子さんは「茶事は細やかな心遣いで招待した方を迎え入れて、茶懐石やお茶を楽しんでもらう。おもてなしをする一連の所作は日常生活に通じるものがあり、茶道の教えを生徒さんに分かりやすく伝えるため、茶室を設けました」と話す。
茶の湯の空間は茶室だけではなく、その動線も大切になる。そのため、茶事の亭主が通る「茶道口(さどうくち)」とは別に、いったん外に出てから客人が通る「露地(ろじ)」と呼ばれる庭園も設けた。「飛び石などを敷いたほか、敷地に元々あった岩や自生していた木々も生かしながら、お客さまの入り口『躙口(にじりぐち)』までの道を整えています」と強さん。
所変われど、琉球料理の文化・歴史・作法などを追究する姿勢は変わらず。西大さん夫妻、二人三脚での暮らしはこれからも続く。
和室の外が待合になっている。躙口に続く露地を進むにつれて、静寂な山中の風情が増していく
ここがポイント
原寸大の模型で入る陽光 微調整
躙口は沖縄の古民家で使われていた雨戸を再利用。「千利休が茶室を手がけた際、その場にあった雨戸を切って使った説があり、それに倣い、茶室を造りました」と山口さん
西大さん夫妻の要望の一つは「自宅で料理教室を開けること」。そのため、建築意思の建築士・山口博之さんは大人数が並んでも作業しやすいよう幅・奥行きのあるキッチンを設計・造作した。前面に収納スペースを設けたほか、パントリーを隣接させ、「器や道具などは出し入れしやすく、調理や盛り付けの実演もしやすくなっています」。また、料理教室の顔となるキッチンが際立つようにもした。「キッチンの壁や天井だけ弧を描き、照明の位置なども工夫。舞台のような場になるようにしました」。
西大さん夫妻がこだわった茶室だが、「設計した経験も知識も全くありませんでした」と山口さん。一から勉強。あり合わせの材料で造られたという茶室本来の成り立ち通り、やんばるの山々などを散策し、材料を調達した。加えて、心を静める空間でもある茶室の雰囲気を左右するのが陰影だ。そのため、「窓の位置や大きさはベニヤ板で原寸大の模型を造り、日差しの入り具合を微調整しました」。
西大さん宅の茶室は又隠(ゆういん)と呼ばれる茶室を参考に、設計した。陰影が際立つ空間は壁をクチャ(灰色の土)、天井をやんばるの竹、腰張りや障子紙には芭蕉紙(ばしょうし)など県内の素材と技術で仕上げた
室内の心地良さを高めるため、軒先を除く屋根に断熱材を施した。蓄熱しにくい木の性質と組み合わせて太陽熱の影響を最小限に抑えながら、軒先はシャープさを強調。「機能性とデザイン性を両立させ、洗練した木造住宅になるよう仕上げました」。ほかにも、敷地の自然と共生する暮らし方をイメージし、既存の木々や岩などは植栽に生かした。
玄関までのアプローチ。整然と配置された石や木々などが杉板の玄関戸まで誘導する。軒下の垂木など木の軸材と相まって洗練された印象を与える
外観。屋根の厚みを変えたことで、軒先のラインが細く奇麗に延びる
[DATA]
家族構成:夫妻+愛犬・かなまる
敷地面積:712.58平方メートル(216坪)
1階床面積:144.09平方メートル(44坪)
建ぺい率:21.15%(許容60%)
容積率:20.22%(許容200%)
用途地域:無指定
躯体構造:木造・在来工法
設計:(株)建築意思 山口博之
施工:(株)建築意思
電気:(株)當間電工
水道:(有)海西工業
造園:(有)樹徳苑
◆問い合わせ
(株)建築意思
電話=098-852-6033
http://architecture-ici.com
撮影/比嘉秀明 文/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2037号・2025年01月17日紙面から掲載