お住まい拝見
2020年12月4日更新
地域に開く琉洋折衷|(株)一級建築士事務所 STUDIO MONAKA(uzumaki)
[隠れ家のような空間も|お住まい拝見]
那覇市の住宅街にある赤嶺さん(40)宅は、大きな赤瓦屋根が目を引く木造2階建て。洋風な室内には、隠し扉などの遊び心もある。家族5人が地域と交流しながら暮らす。
外観。大きな赤瓦屋根が周囲の瓦屋根の風景によくなじんでいる。屋根の傾斜は伝統的な沖縄の住宅と同じ角度。写真手前の部屋は書斎だが、外にはカウンターもあり集いの場にも。赤嶺さんは「将来はパーラーでも開こうかな」と笑う
子供たちが即興バンド
赤嶺さん宅
木造|自由設計|家族5人+留学生1人
大きな赤瓦屋根に灰色がかった板壁。周囲の瓦屋根ともよくなじみ、昔からそこにあったかのような赤嶺さん宅。
そのたたずまいから、沖縄そば屋と勘違いして訪れる人もいる。そんな時、赤嶺さんは「コーヒーくらいなら出せますよ」と、明るくもてなすこともあるという。その結果、「地域の人と仲良くなりました」。
中に入ると印象がガラリと変わる。公民館のように広い玄関土間から見通せるLDKは、壁面に淡いピンクのしっくい塗料やタイルが施され、「洋」の雰囲気が漂う。
物が少なく、すっきりした空間は「隣の広いウオークインクローゼットのおかげ」と夫人(39)。洗濯機や乾燥機も同じ部屋にあるため「リビングに洗濯物が置かれることがない。こんなに片付いた状態が続くなんて」と驚く。
見上げると、梁(はり)の見える高い天井が吹き抜けとなり、3人の子供たちが遊ぶ2階のプレイルームとつながる。時折、さまざまな楽器が置かれた音楽室の小窓から「俺ピアノやる」「じゃあ俺はドラム」と、長男(9)が友達と楽しむセッションが聞こえてくることも。キッチンに立つ夫人は「音はなんとも言えないけれど、かわいいですよね」と、ほほ笑む。
玄関。夫婦は「家族以外も入りやすいよう、公民館のように広くしてもらった」。腰掛けて話したり、かつての縁側のように使う。土間はDIYの作業や自転車を置いたりと使い勝手がいいという
LDK。天井は吹き抜けで、2階のプレイルームまでつながり開放的。上部左手の小窓は音楽室、右手は子ども室で、「家全体がつながり、みんなの気配を感じられる」と夫人
本棚に隠し扉
もともと同じ敷地で、親から相続した築45年ほどの平屋に住んでいた赤嶺一家。老朽化が進んできたことから、建て替えることにした。
そこで、同じ保育園に子どもを通わせていた建築士に相談。夫婦は「よく知っていたので話しやすく、むちゃなこともどんどん伝えました」。
そのためか遊び心も満載だ。ゲストルームの扉は隠し扉のように本棚と一体化し、音楽室は1階書斎の上部にある小さな入り口からしか入れない。赤嶺さんは「隠れ家のような空間や、昔やってた楽器を再開するための理想のスタジオがほしかった」と話す。
住み始めて約1年。夫婦は「人を呼びやすいし、全部の部屋をうまく使えている」と満足そう。一家の形にぴたりと合った家だからこそ、住みこなせているのだろう。
キッチン。夫人は「みんながキッチンに来やすいよう、カウンターのある対面ではなく、オープンな壁付けにした」。趣味で集めたやちむんや琉球ガラスは、手前の作業台の下に収納し、普段使いしている
ここがポイント
機能集約しオープンに
「せっかく沖縄で建てるんだし、昔ながらの沖縄の家がいい」「バーカウンターもほしい」など、住まいに対して多くの夢を抱いていた赤嶺夫妻。そこで建築士の伊佐直哉さんは「夫婦がオープンな性格ということもあり、各要望を地域に開く形でまとめていくことを提案した」と話す。
例えば玄関は、伝統的な住宅の縁側のような、幅広の土間空間に。書斎は玄関の土間を延長した場所に配し、バーカウンターをその外に設けた。実際、外のカウンターでホームステイ中の留学生が朝食をとったり、書斎で夫人が英会話教室を開いていたこともあるという。
さらに、それらがある場所を「パブリック」スペースとし、そこから奥に向かってLDKを「セミパブリック」、寝室やウオークインクローゼット、サニタリーのある「プライベート」と、空間を分割。公私のメリハリをつけ、オープンな中にも私的な空間を確保した。
また、1階の壁はしっくいの塗料、建具はラワンなど、シンプルな材料を使ってコストを抑えた。さらに2階壁面は、構造用合板がそのまま表に出ている。「棚を取り付けたり、色を塗ったり、自分たちで好きに使えるようにした」
外壁は施主がメンテナンスしやすいよう板張りに。板は、水が切れやすく、メンテナンス時も一人で押さえながら作業できるよう、あえて縦張りにしている。
そのほか、床下は高さ70センチを確保したことで、風が通りやすいだけでなく、点検もしやすくなっている。犬走りも大きく取り、蟻道ができたらすぐに分かるという。
音楽室。部屋全体を防音素材で囲んでいる。楽器を入れるときは、ゲストルームとの間にある壁(写真右奥)を一部外す
大きな本棚のある書斎。上部にある小さな入り口の先が音楽室
2階プレイルーム。子供たちはここでおもちゃを広げて遊ぶので、1階LDKはきれいに保てる
本棚(上写真中央)の一部が、ゲストルームの扉になっている
洗面台やバス、トイレなどがまとまった1階サニタリー。欧米での生活経験がある夫婦の使いやすいスタイルで、「シャワーしか使わないときに周りがぬれないように」と、シャワーブースはガラスで囲まれている
2階子供室。壁は構造用合板なので、棚を取り付けたり、色を塗ったりと、手を加えやすい
[DATA]
家族構成:夫婦、子ども3人、
留学生1人
敷地面積:320.68平方メートル(約97坪)
1階床面積:95.23平方メートル(約28.8坪)
2階床面積:57.83平方メートル(約17.5坪)
建ぺい率:31.31%(許容60%)
容積率:47.73%(許容200%)
用途地域:第一種中高層住居地域
躯体構造:木造軸組構法
設計:(株)一級建築士事務所
STUDIO MONAKA(uzumaki)伊佐直哉
施工:(有)友建産業 外間文雄
電気:喜友名電気
水道:与儀工業
◆問い合わせ
(株)一級建築士事務所STUDIO MONAKA
電話098・851・7711
https://studiomonaka.com/
撮影/泉公/ララフィルム 取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1822号・2020年12月4日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 出嶋佳祐
これまでに書いた記事:224
編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。