弟子に受け継がれた「叡知」|フランク・ロイド・ライトの家具[08]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2017年12月1日更新

弟子に受け継がれた「叡知」|フランク・ロイド・ライトの家具[08]

20世紀を代表する建築家、フランク・ロイド・ライトが手掛けた家具を紹介してきた本連載。今回は番外編として、ライトの弟子で執筆者の祖父でもある遠藤新氏がデザインした椅子を紹介する。予算を抑えながらデザイン性にもこだわった椅子には、ライトから受け継がれた「叡知」が見て取れる。

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番外編・自由学園明日館 食堂の椅子(遠藤新デザイン)

 

費用抑えつつ美しさも

今回は、当連載の番外編として、自由学園明日館(みょうにちかん)の食堂の椅子をご紹介したいと思います。
明日館はライトとその弟子である遠藤新が共同設計した建物です。新は室内の設計と家具のデザインを担当しました。
1923年(大正12年)に当時34歳だった新は雑誌「婦人之友」に『卓と椅子に因む』と題して、自らのデザイン論、建築論を語った文章を寄稿しています。
大きな板材をそろえることがまだ難しい時代だったので、食卓の天板と椅子の座面は二つの板材を継ぎ合わせる必要がありました。そこに手間と費用がかかるため、2枚の板を並べてその隙間を小さな木材で継ぐことで、工程を簡略にしてあります。
小さい木材だけ朱色に塗られてアクセントになっているのは、洋服は地味でもネクタイは鮮やかにするのと同じだと述べています。
費用は抑えながら、デザインを優れたものとすることは建築本体も同様で、明日館の屋根は銅板葺きですが、その面積を小さくするために、外壁から突き出した軒先部分は平らな陸屋根にしてアスファルト防水で仕上げています。
それが屋根を低く、より美しく見せていることも含めて、「ライト氏の偉さがそこだ。技巧の上でない、腕でない。頭脳だ、判断の偉さだ」と新は記しています。




「建築は教育と同じ」

建築家という職業についての新の考え方も書かれています。
「建築家には研究は無用だ。条件の提示が仕事でないのだ。判断するのだ。知識を売るのでないのだ。叡知をはたらかすのだ」
「建築家はその建築の成長の方向を理解することだ。それが出来れば、細かいことは、次から次と、建築自身が建築家に暗示してくれる。その暗示をさとく、そして素直に受ければよいのだ。この点で建築は教育と同じだ」
「建築家はその知識から建築を生むのでないのだ。経験から家が帰納されるのでないのだ。実に、建築とともに成長するのだ」。
帝国ホテルの設計を終えてライトが帰国する時に、ある人が「あの建築でいろいろ教わりました」と礼を述べると、ライトは「いや、私はあなたの倍も学びました」と答えたそうです。



※次回からは「フランク・ロイド・ライトの言葉」について連載します。お楽しみに!


[執筆]遠藤現(建築家)
えんどう・げん/1966年、東京生まれ。インテリアセンタースクールを卒業後、木村俊介建築設計事務所で実務経験を積み独立。2002年に遠藤現建築創作所を開設し現在に至る。


『週刊タイムス住宅新聞』フランク・ロイド・ライトの家具<08>
第1665号 2017年12月1日掲載

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