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2025年3月7日更新

限りある資源 大切にしてきた先人|過去から未来へつなぐ|住まいに生かす 知恵と風土⑪

文・写真/照屋寛公(一級建築士・建築アトリエTreppen主宰)


このコーナーは、建築士で民俗学にも造詣の深い照屋寛公さんが先人の知恵を紹介し、気候風土にあった住まいのヒントを伝える。
 
◇  ◇  ◇
 
「サスティナビリティ(SDGs)」は「持続可能性」と和訳され、将来世代のニーズを損なわず今世代のニーズを満たすこと、が指標とされている。

ある嶽(うたき)拝殿の改築コンペでこのサスティナビリティの考えを私自身、設計コンセプトにして設計することになった。ところが旧拝殿はすでにこの考えを基にして建てられていたことが、解体の折に判明した。今回はその事例を紹介してみよう。

石垣島新川には真乙姥(まいつば)嶽(おん)があり、私の生まれ育った地域に建つ嶽である。この嶽は石垣島の豪族・長田大主(なあたうふしゅ)の妹・真乙姥のお墓。1500年のオヤケアカハチの乱の折、彼女が首里王府軍に協力した功績で神職が与えられ、お墓が嶽となって祀られている。旧暦6月には五穀豊穣を祈願する大規模な豊年祭が毎年行われる。


建材の耐用年数を調べ
再利用のサイクル定め


さて、4代目の拝殿は1965年に建築されてから五十余年がすでにたっていて、雨漏りや躯体劣化が激しい状態であった。私は設計コンセプトを「百年拝殿」として、旧拝殿と同じコンクリートの構造体に木造の小屋組、赤瓦屋根を載せるハイブリッド構造にした。

新拝殿は劣化した建築を全て解体撤去せず、建築の部位ごとに修繕。メンテナンスを繰り返し、その時に解体したパーツは別の部位に再利用して、100年使い続けられる拝殿を提案した。この考えは20年に1度行われる伊勢神宮の「式年遷宮」の考えを生かしている。伊勢神宮の柱や梁(はり)など木の建築用材は関連する社殿の建て替えに有効に活用され、後世に受け継がれていく。この理念を真乙姥嶽の拝殿でも実現した。

建物の各パーツの耐用年数を調査し、赤瓦屋根は30~40年で葺(ふ)き替え、旧瓦は嶽境内で再利用=写真1、小屋組みは50年~60年で修繕改築として、その材木は内装材に転用する。その他の部分を全てこの嶽で再利用し、激しい台風が多く襲来する八重山でも永く建ち続ける拝殿を計画した=図1。また新拝殿の屋根に載せた瓦は約700枚だが、住民らに一枚一枚に住所・名前を書き込んでもらい、地域から拝殿に寄進(1枚あたり千円)した=写真2


写真1.旧拝殿の瓦は境内の囲いに再利用した


写真2.神の加護を受けられるよう、新瓦に住所・名前を書いてもらっている。後世へのタイムカプセル




図1.各部材を修繕、再利用を繰り返す「百年拝殿」をコンセプトしている(コンペ提案図)

木造船の古材も家屋に

話は変わり、旧拝殿を解体した時、床組み材木が境内に積み置かれていた。その床材をみて、新拝殿を手がけた棟梁(とうりょう)・宮良善嘉氏(当時81歳)が、次のようなことを話されていた。「この床材はもともと屋根小屋組に使われていた。その次に床材として使っている」と。部材に開けられた仕口(接合穴)から、屋根材であったことが分かるというのである=写真3。おそらく3代目の拝殿の建築資材を別の形で再利用して、前回4代目の拝殿を建てたと思われる。


写真3.旧拝殿の床組材。青紐が通る穴は屋根垂木を接合した屋根材であったという

宮良棟梁によると、古い時代、島では木造船が主流で船解体の折、古材を家屋建築に再利用することもあったという。その逆は不可能とも語っていた。つまり今日の「サスティナビリティ」の考えを先人はすでに実行していたことになる。

建築資材に乏しく強烈な台風の厳しい自然環境の中、先人は資源を大切にしていたことがわかる。今日の建築業界は資材・人件費とも高騰のご時世。古い建築を見ていると先人から、資材再利用の必要性や資源枯渇の警鐘というメッセージが投げかけられているように思う。

さて今回で一年間の連載が終了となります。全11回、ご愛読ありがとうございました。
=おわり


5代目となる真乙姥嶽新拝殿(完成:2018年2月)



てるや・かんこう
1957年、石垣島新川生まれ。明治大学工学部建築学科卒、住宅やリフォーム、医院、こども園など幅広く設計活動中。「日本建築士会連合会優秀賞」「全国住まいのリフォームコンクール」など受賞歴多数。沖縄民俗学会会員。著書に「記憶を刻む家づくり」がある。
電話=098・859・0710
http://www.treppen.jp

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2044号・2025年3月7日紙面から掲載

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