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2019年6月28日更新

県立博物館・美術館 平成19年(2007年)開館|設計/石本建築事務所・二基建築設計室 共同企業体

【建築士は時代を造る|沖縄 平成の名建築】7月1日は建築士の日。時代を超えて人々の心をつかむ名建築を手掛けた県内の建築士や、新たな時代を造る建材&工法を生み出した建築士を紹介する。

県内には世界中の人々の心をつかむ建築物がある。その中から平成に完成したものをピックアップ。手掛けた建築士の裏話と共に紹介する。


写真①/完成外観。設計コンペ時(②)の計画より床面積を3分の2に削るなど大幅な変更を余儀なくされたが、グスクをイメージした外観など、基本的なコンセプトは生かした
 

予算減も「誇れる建物を」

財政難で設計大幅変更
完成までには、紆余(うよ)曲折あった。

1996年に開かれた県立博物館・美術館の設計コンペで最優秀賞を取ったのは、東京都の石本建築事務所と沖縄市の二基建築設計室(現在の二基設計)の共同企業体。琉球石灰岩の石垣を外壁に用いるなど、グスク(城)をイメージしたデザインが高評価を得た=写真②。

喜んだのもつかの間、発注者である県の財政問題で事業が凍結。ようやく再開したのは6年後で建築費は約半分に削られた。二基設計の温井明二代表取締役(77)は「当初の基本設計は、非常に沖縄らしい趣のある佇(たたず)まいだった。あのときは憤りもあったが、厳しい状況の中、グスクのイメージを守りながら同館を完成させられたことは素晴らしい」と社員をねぎらう。

予算削減のため、地下駐車場の建設をやめて地上に確保。建物の総床面積は約3分の2に縮小することになった。だが、展示室や収蔵庫の面積はそのままにしてほしいとの要望があった。

そこで研究室や資料室、機械室に至るまで一つ一つの空間を見直して無駄を省いた。設計を担当した山入端英夫さん(66)は、「館内には130室以上あるが、一つとして同じ形の空間は無い。用途に合わせて造り込んだ」と語る。

琉球石灰岩の外壁も諦めざるを得なかった。石本建築事務所の能勢修治さんら設計チームは策を練った。当時のことを辺土名智さん(49)は「コストを抑えつつも沖縄らしさや品格を守るべく試行錯誤した。能勢さんの発案で、コンクリートでも琉球石灰岩のような雰囲気を出すために白セメントに琉球石灰岩を砕いたものを混ぜ、さらに表面を削ってラフな感じを出した=写真③」と振り返る。

基本設計を大幅に変えることになったが、世界に誇れる美術館・博物館を作るという思いは変わらなかった。設備設計を担当した比嘉恒夫さん(64)は、「県の担当者や施工業者と意見がぶつかることも多々あったが、その信念が皆に共通していたから完成までこぎつけられた」と話す。

工事の最後、その〝戦友〟の名刺を集めて定礎石の裏にしまった。比嘉さんは「建物が壊れない限り出てこない。僕らが生きている間は、誰にも気付かれないだろうな」と笑う。

建築士には、称賛の言葉や賞をもらうこと以上の喜びがあると言う。山入端さんは、「前を歩く観光客から『県立博物館に行く?』『いいね!』との会話が聞こえ、ジーンとした」と話す。普通の人の、普通の会話に出てくる建物を手掛けた。それが誇らしかった。


②/設計競技で最優秀賞を受賞した、県立博物館・美術館のパース。駐車場を地下に造ることで、敷地をフルに活用。中央のエントランスを挟み、右を博物館に左を美術館にする予定だった


③/外壁には琉球石灰岩を使う予定だったが、予算の都合で不可能になった。そこで、白セメントに琉球石灰岩を砕いたものを混ぜ、さらに表面を削って琉球石灰岩の風合いを出した


県立博物館・美術館の設計を手掛けた二基建築設計室の建築士ら。左から山入端英夫さん(現在は(株)アムルデザイン)、温井明二代表取締役((株)二基設計)、比嘉恒夫さん(現在は(株)アジアエンジニアリング)、辺士名智さん((株)二基設計)

※建物の写真は二基設計提供


<建築士の日特集>
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編集・取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1747号・2019年6月28日紙面から掲載

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東江菜穂

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週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

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