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沖縄建築賞

2016年4月22日更新

【第2回沖縄建築賞】座談会/第2回沖縄建築賞にむけて

県内の優れた一般建築を顕彰する第2回沖縄建築賞(主催・同実行委員会)の審査が始まった。実施にあたり、県内の建築を長年研究してきた小倉暢之氏(琉球大学工学部教授)、建築家の中本清氏(沖縄県建築設計サポートセンター理事長)、島田潤氏(㈱デザインネットワーク代表)が3月31日、浦添市で鼎談した。3氏は、沖縄の建築の特徴や現状、建築の果たすべき役割や、今後の住まいづくりについて改めて語った。

沖縄建築賞

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敏感・柔軟さでニーズに応え

 沖縄建築の特徴 
コピーでなくアレンジ  小倉
アジアと共通する手法  中本
風土が育むおおらかさ  島田


 小倉暢之氏  これまでの沖縄建築における特徴、注目すべき取り組みは?
 中本清氏  昨年、沖縄県建築士会と沖縄県建築士事務所協会が60周年を迎えたが、60年前と言えば琉球政府が本土から2年遅れで建築関係の法令を整備したころ。当時は米国民政府が予算を出し沖縄側が設計。建物はアメリカナイズされ、フィート・インチの図面が確認申請を通る時代だった。
そう考えるとアメリカ世から大和世への歴史そのものが沖縄の特徴と言える。時代の流れの中で価値観も建築技術も変わってきたが、誇れるのは県民が家を建てる際、今でも設計事務所に相談すること。コンペが根付いているのも素晴らしい。
 小倉  本土の工務店のように設計・施工を一括請負するのではなく、設計と施工を分離し責任の所在を明確にする仕組みを根付かせたのは先進的なところ。
 島田潤氏  沖縄には暑さや台風といった強烈な気候風土もある。建築をする上でも意識せざるを得なかったであろう。その中で生まれたのが、石垣が積まれた赤瓦の民家。これは物のない時代に地元で取れる材料でつくり、台風も考慮した合理的な建物だ。
その後、「鉄の暴風」があり戦後、モダン建築の流れが来て、コンクリートやブロックといった構造が登場した。
 小倉 1950年代の沖縄の建築活動の中心に初代建築士会会長の仲座久雄氏がいる。庇や開口の取り方など、沖縄の気候風土を踏まえたコンクリート住宅の基礎をつくった。彼は米国式のコンクリート住宅も知っていたが、コピーするのではなく沖縄の独自性を加味した。そうした先輩方の、アレンジし、新たなモノとして創り上げていくところに、躍動感やエネルギッシュさがあるのではないか。
 中本  沖縄の建築手法やデザインプロセスはアジアに通じる。インターネットでタイやインドの大学の研究論文などを見ていても、温熱環境や通風を計測したり緑地の効果を確かめたり、我々と同じことをやっている。北を見るのではなく、モンスーン地帯を見て展開できるところに、我々の発展の余地がある。
研究機関をつくるのは難しいと思うけれど、沖縄にネットワークの拠点が欲しい。各地の基礎データが沖縄に行けば手に入る、という具合に。
 小倉   ヒューマンネットワークは財産。それが定着する仕組みをつくることが沖縄の財産を作ることであり、世界の中で存在意義をアピールしていく足掛かりになる。
 島田  確かに、人的交流は大切だ。日本建築家協会沖縄支部でもタイ、シンガポール、ベトナム、香港の建築家と交流しているが、分かり合える部分が多い。
またアジアと沖縄は植生が非常に似ている。シンガポールがどう緑と共存し省エネを図るかを考える「グリーンアーキテクト」に取り組んでいるが、大いに情報交換するべきだ。
その際、東京を見るのではなく、東南アジアの中の沖縄という位置づけで交流することは大切。特に若い人は。
また熱や暑さの問題もあるが、暖かいのはむしろメリット。庇さえ延ばせば、開け放して暑さをしのぐことができる。そうした気候風土に育まれたオープンなおおらかさを、建築に生かしていきたい。


 建築・建築士の果たすべき役割 
可能性発見しカタチに  小倉
変化見据え社会に還元  中本
技術と現代気候の融合  島田


 小倉  ミャンマーでは携帯電話を持ちつつ、はだしで水牛で農耕する。そのバランス感覚が面白い。我々から見るとアンバランスだが、ミャンマーでは正解。いろいろな正解があると受け止める姿勢が、グローバル化の現代に求められていることでは。
 中本  今、沖縄に求められているのは、建物全体でエネルギーが完結する「ゼロエネルギービルディング(ZEB)」。暖房をよく使う温帯や寒帯では実現しているが、亜熱帯型はまだだからだ。エネルギーの多用化も必要だが省エネ・創エネも欠かせない。建築家だけでなくエンジニアや都市設計を手掛ける仲間と共同でつくりあげられるといい。
 島田  建築も時代と共に変わる。現代の気候・環境を分析し、技術と融合することで、21世紀の完成形を模索する必要がある。
 小倉  社会のニーズに敏感に応えるのが建築の仕事であり、そのための技術も必要。さまざまな可能性をどう発見し、形にしていくかが期待されている。
 島田  発見から新たなデザインが生まれる点に建築の夢がある。
 中本  沖縄の現状を見ると世帯数は減り、人口は微増しているものの高齢化は加速することを考えると、今までのようなアパートや共同住宅、コミュニティーセンターで事足りるのかとの思いにいたる。建築家としてそこを模索する機会に建築賞を位置づければ、社会に還元できる。
 小倉  それこそが建築士の役割。建築はそこで生活する人の心をつくる器であり文化。豊かな文化をつくり上げる一助になる。

 今後の住まいづくり 
外階段は生活の知恵  小倉
空間は広く可変的に  中本
住み継ぎストックに  島田


 小倉  北欧ではコレクティブハウスといって、互いの暮らしに共感しあう人が集まり、家事を分担しながら合理的に生活するスタイルがある。一方、東京の高齢者住宅は、老後は家族でなく友人と住めるつくりを希望する人もいる。近年はフェイスブックなどSNSが活発になって、人と人とのつながり方や住宅のあり方もずいぶん変わってきている。新しいライフスタイルだ。
 島田  建物のつくりだけでなく、生活の仕方や風習でも住宅の使い方は違う。世帯の考え方や住まい方も変化する。これらを建築とどう融合するかが課題。一般論では語れなくなっている。
 中本  沖縄建築の史料を見ると、砂とセメントさえあればつくれるコンクリートブロック壁式構造は台風に強いこともあって一時期はやったが、現在は廃れた。理由は広い空間がつくれなかったから。その後、ラーメン構造に移行して大きな空間づくりが可能となり、生活スタイルに対応する可変性、通風性が高まった。
 島田  沖縄ではコンクリート住宅をどう住み継いでいくかを考えることが、社会的ストックづくりにつながる。なぜなら沖縄は出生率は高いが核家族化が進み、やがてその家族の家が空き家になることもあるし、子どもが親の面倒を見るとも限らないからだ。そこまで含めて冷静に分析し、長く使える住宅をつくることが必要だ。
 小倉  そういう意味で有効だと感じるのは、沖縄の外階段のある3階建て住宅。1階がピロティ駐車場で2階に親、3階に子ども夫婦が住み、外階段でつながっている。その距離感の取り方に生活の知恵がある。また家族の変化に対応しやすいのも利点。例えば祖父母がいなくなった時、子世帯が転勤になった時、貸したり、リノベーションで他の使い方も出来る。箱自体は永続的に持つけれど、中はいろいろな人々が出入りできるという具合。
 中本  身につまされる。わが家は外階段も内階段もあるが、内階段は微妙に役立った(笑)。
 小倉  都市部で集中して暮らす集約型まちづくり「コンパクトシティ」も広がり始めているが、実は那覇の人口密度は全国でも3、4番目に高い。沖縄の高密度な住環境も、これからの住まいづくりの参考になっていくだろう。


座談会では、戦前戦後の建築の歴史から、アジアとの交流、これからの建築や住まいに求められることまで、話は多岐にわたった(2016年3月31日、浦添市の建築会館)


【参加者プロフィール】

◆中本清氏(なかもと・きよし)1947年、竹富町生まれ。NPO沖縄県建築設計サポートセンター理事長。前沖縄県建築士会会長。87年、復帰20周年記念首里城復元事業総括。2001年、国際コンペ中国浙江省長興県都市計画グランプリ。


◆小倉暢之氏(おぐら・のぶゆき) 1954年、島根県生まれ。琉球大学工学部環境建設工学科建築コース教授。風土に適した建築計画の教育研究を通して、アジア・アフリカの熱帯地域との国際交流を推進。著書に「アフリカの住宅」。


◆島田潤氏(しまだ・じゅん) 1952年、那覇市生まれ。日本建築家協会沖縄支部前支部長。(株)デザインネットワーク代表。一級建築士。第13回木材活用コンクール奨励賞。(社)沖縄県建築士会第8回建築大賞。


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1581号・2016年4月22日紙面から掲載

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