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2016年12月16日更新

曲がってうねって生まれる生命力(沖縄県伊江村)|オキナワンダーランド[9]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

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曲がってうねって生まれる生命力

casa VIENTO
金城盛和さん・和樹さん(沖縄・伊江村)

伊江島のガウディと呼ばれる金城盛和さんの類いまれな創造力とものづくりにかける情熱が、空想の世界から抜け出してきたような「casa VIENTO」を生み出した
“伊江島のガウディ”と呼ばれる金城盛和さんの類いまれな創造力とものづくりにかける情熱が、空想の世界から抜け出してきたような「casa VIENTO」を生み出した



父がつくったこの建物を、金城和樹さん(35)は「生き物」のようだと感じている。
「建物自体に生命力があるというか、一つの生き物みたいに思えるんです」
あまり愛情をかけていない部分は「がしゃんと壊れて」しまったりするし、逆に愛情を注ぐと輝いてくるという。

「ここに365日暮らしていると、なんか本当に、生きているような感じがします」

誰もがきっと親しみを感じる朗らかな笑顔で和樹さんがそう言った時、「生き物みたいな」建物のどこかが、カサッと動いたような気がした。打ち寄せる波をまねたというテラスの手すりが、本物の波のようにぐわんとうねったのかもしれないし、ガジュマルの気根を模倣した、今にも動き出しそうな庭の柱が本当に動いたのかもしれない。

casa VIENTO(カーサ・ビエント)。スペイン語で風の家という名前のこの宿は、タッチューが借景というぜいたくな場所にある。
「ここはもともと僕のオジィのサトウキビ畑だったんですけど、写真屋をやっている親父が、どうしても陶芸をしたいと言ってここに窯をつくったんです」
プロ顔負けの本格的な登り窯をつくった父は、「朝も夜もなく」趣味の陶芸に打ち込んだ。しかしそのうちに、窯焚きの手伝いに来る仲間を寝泊まりさせる建物をつくる方が陶芸よりも楽しくなって、またしても「朝も夜も土日もない」ほど熱中して、まるでジブリの世界からそのまま抜け出してきたような独創的な建物を建てた。それを9年前に宿にしたのがcasa VIENTOだ。

「子どもの頃から、嫌いなことには集中力がなくて、でも好きなことには『信じられない』と人が驚くほど熱中しましたね」

和樹さんの父、盛和さん(66)はそう話す。巷で"伊江島のガウディ"と呼ばれる盛和さんだが、その呼び名は「ガウディさんに悪いなぁ」と恐縮する。

興味の対象にとことんのめり込む盛和さんらしい、こんな話がある。小学生の頃、盛和さんは鳥かごをつくった。友だちが1階建ての普通のかごをつくったのを見て2階建てでつくった。
「竹ひごも自分でつくりました。サンドペーパーはなかったから、ビール瓶を割ってカミソリみたいにして、それで竹をツルツルになるまで毎晩磨いてね」
凝り性なのは昔も今も同じの盛和さん。「真っすぐなもの」や「かっちりしたもの」が苦手なところも昔から変わっていない。「どうして真四角のおうちばかりつくるの。面白くないね」と島の大工に面と向かって言って叱られたのは幼稚園児の時だ。
「四角い方が機能性はいいと今なら分かるんだけど、あの頃は理解できなくて。絵はがきで見たヨーロッパのきれいなお家がなぜできないのと言って笑われたりね、大人になったら自分でつくれよと言われたりしました」
自分でつくれと言われた建物を、盛和さんは大人になって本当につくった。幼い頃に憧れたヨーロッパの塔のような三角屋根や、曲がったりうねったりする愉快な曲線にあふれた建物を。

「この建物は親父の精神構造と似ているなと感じます。うねった階段とかを見ると、親父こういう所あるよなと思うんです」

窓の外に広がる晴れ渡った青空のような笑顔で語る和樹さんの後ろで、生き物みたいな建物がまたカサッと動いた気がした。



曲がったりうねったりと自由奔放に見える形は、打ち寄せる波など自然界の形を真似たもの。「貝や葉っぱをね、ただ写せばもう形になるんですね。ま、だから非常に便利ですね」
曲がったりうねったりと自由奔放に見える形は、打ち寄せる波など自然界の形を真似たもの。「貝や葉っぱをね、ただ写せばもう形になるんですね。ま、だから非常に便利ですね」

古い赤瓦をタイルのように貼った「風の塔」。取り壊される民家からもらってきた窓や古電柱など、「もらって来れないコンクリ以外はほとんど廃材で」建物全体がつくられているという
古い赤瓦をタイルのように貼った「風の塔」。取り壊される民家からもらってきた窓や古電柱など、「もらって来れないコンクリ以外はほとんど廃材で」建物全体がつくられているという

つい最近完成した陶器の展示塔。照明が付いていて夜になると光る。30年前に始まった建物づくりは実はまだ終わっていない。「死ぬまでにもう少し恥ずかしくないものをつくりたいなぁと思うんだけど」
つい最近完成した陶器の展示塔。照明が付いていて夜になると光る。30年前に始まった建物づくりは実はまだ終わっていない。「死ぬまでにもう少し恥ずかしくないものをつくりたいなぁと思うんだけど」

伊江島タッチュー(写真右)と同化しているようなcasa VIENTO。「一番偉い神様が住む城山(グスクヤマ)に許してもらえる」建物でなくては、と盛和さんは言う
伊江島タッチュー(写真右)と同化しているようなcasa VIENTO。「一番偉い神様が住む城山(グスクヤマ)に許してもらえる」建物でなくては、と盛和さんは言う


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景


 


ライターの馬渕和香さん
[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)
ライター、翻訳家。築半世紀の古民家に暮らすなかで、島の風土にしなやかに寄り添う沖縄の伝統建築の奥深さに心打たれ、建築に興味をもつようになる。コラム「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」を朝日新聞デジタルで執筆。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<9>
第1615号 2016年12月16日掲載

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