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2024年10月18日更新

70年ラグを追う師匠 「ラグは自分の子ども」|ラグの世界⑨

イランやトルコなどの中東で手織りされるラグを取り扱う那覇市西の「Layout(レイアウト)」のバイヤー、平井香さんによるラグ買い付け旅記。イランをぐるりと一周して首都・テヘランに戻り、尊敬するラグのディーラー・ニシャブリさんと久しぶりに会った平井さん。生涯忘れられない言葉をもらったそうです。

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エピソード⑨ イランでの買い付け旅記

急ぎ足ではあったがぐるりとイランを回って、首都テヘランに戻ってきた。久しぶりのテヘランはまぶしかった。ビルが建ち、車がビュンビュン行き交う。

ラグの道具を作っているお店に寄る。まだ開店前で、おじいちゃんが一人、店が開くのを待っていた。少しするとシャッターが開いた。室内にはショーケースと可動式の小さなカウンターがある。1番乗りのおじいちゃんは肉をミンチする機械の刃を持ってきていた。店はラグ専門の道具屋だと思っていたが、刃物研ぎ屋のようだ。
 
テヘランのグランドバザール。イランで一番大きなバザールだ。その一角にラグとラグを扱う男性ばかりが集まるちょっと異様な場所がある。初めて訪れたときは緊張したが、もうすっかり慣れた


製作道具を作る職人

店主は、ミンチ用カッターの刃を慣れた手つきで研ぎ終え、私たちの番。ラグの織りや修理に使う道具を見せてもらう。ラグのパイルをカットする、ぐにゃりと曲がった独特な形のはさみやナイフ、修理に使う針などここの道具はすべて店主の手作りだった。道具を作り、販売し、修理までする店はずいぶん少なくなったというが、ラグの織り手や修理人が使っている道具はほとんどが、このような職人の手作りだ。道具の形もその土地特有のものがあったりするから面白い。

日本で私たちが「ラグの健康診断」と呼ぶ最終検品にも欠かせない道具たち。購入したハサミを先端まで研いでもらった。 横で手伝っていた息子に、「お父さんの仕事は本当に素晴らしいね」と何度も伝えた。ラグを支える大切な職人の存在をまた知ることができた。
 
ラグ用のはさみ(右上)を研ぐ職人


ニシャブリさんの金言

朝から素晴らしい手仕事を見られて晴れやかな足取りで、イランで一番大きなグランドバザールへ向かう。

何度来ても全貌が分からない大きなバザールには、ラグだけが集まる一角がある。現地で人やラグと出逢(あ)うことも大切にしているが、各地からラグが集まってくるこのバザールのチェックも欠かせない。

ここへ来たら必ず逢いたい人がいる。もうすぐ90歳になるこの道70年のラグディーラー・ニシャブリさん。私が尊敬する方の1人で、7年前にお逢いしたとき「どこの産地や民族のラグが好きですか?」と質問したら「ラグはみんな自分の子どもみたいなものだからどれも好きだよ」という答えが返ってきた。その言葉に、見ていた世界が一気に変わったように感じたのを覚えている。

2年ぶりに会うが変わらずお元気そう。「ラグのことをもっと知るにはどうしたらいいですか?」と聞くと、「ラグは学校で学ぶわけじゃない。いろんなところへ行って、たくさん見てたくさん話を聞くこと。このバザールで70年ラグに関わってきたが、まだ分からないこともある。ラグはずっと学び続けても自分の人生では足りない。ラグに興味があることが大切だよ」という、私の人生で一生忘れられないであろう言葉をいただいた。

尊敬するニシャブリさんと彼の言葉をメモする私

彼は今でも、いいラグや面白いラグがあると聞けばどこへでも見に行き、バザールもよく歩いているそうだ。研究者や評論家ではなく、彼のように生涯ただ純粋に、ラグが好きな人でありたいと思う。
 

 

執筆者/ひらい・かおり
ラグ専門店Layout バイヤー
那覇市西2-2-1
電話=098・975・9798
https://shop.layout.casa

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2024号・2024年10月18日紙面から掲載

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