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2024年3月15日更新

夏の野営地で遊牧民の生活に触れる|ラグの世界②

イランやトルコなどの中東で手織りされるラグを取り扱う那覇市西の「Layout(レイアウト)」のバイヤー、平井香さんによるラグ買い付け旅記。今回は、ラグ最大の産地・イランの中でも良質な生産地として知られる「アバデ」へ。自然の中で豊かに、ワイルドに暮らす遊牧民族の生活に触れました。

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エピソード② イランでの買い付け旅~中編~

イラン南部のシラーズから車で3時間ほど北上して次の町アバデへ。アバデはカシュガイ族が定住してできた町といわれている。イランにはたくさんのカシュガイ族がいるが、この町周辺で暮らすカシュガイ族が織るラグを「アバデ」と呼ぶ。ここのラグは小さなモチーフがいっぱいにちりばめられ、宝石箱のようなチャーミングなデザインだ。

初めてこの町に来た時からお世話になっているイーマーニーさんと待ち合わせ。ファミリーでお出迎えしてくれ、なんとお孫さんを抱いて登場! 赤ちゃんに向けられたおじいちゃんの表情は万国共通で優しい。


イラン南西部にあるザクロス山脈でキャンプ。ここは「サラハット」と呼ばれるカシュガイ族の夏場の牧草地だ


遊牧民の野営地へ

この日は祝日。イーマーニーさんが家族で山の上へキャンプへ行くから一緒に行こうと誘ってくれた。私がずっと行ってみたかった「サラハット」と呼ばれるカシュガイ族の遊牧民が夏の間を過ごす野営地だ。チャンスは突然訪れた。

車を走らせ、ザグロス山脈の標高2300メートルあたりまで来た。途中、カシュガイ族の遊牧民家族が羊の乳しぼりをしていたので少し見せてもらう。車を降りると空気がひんやりとしていて気持ちがいい。羊たちも快適に過ごせそうで、夏にここへ来る理由がよくわかる。

近くに雪解け水が流れる水路があって、ザルドル(黄色の小さくて甘いモモのような果物)を洗ってみんなで食べる。雪解け水でキンキンに冷えたザルドルで最高の休憩!

日が傾き始めたころに目的地に到着。イーマーニーさんの家族が先に着いていて、薪で焚火(たきび)をしていた。これが遊牧民をルーツに持つ人たちの本当のキャンプなんだ! と感動。 

緑が生い茂り、水がキラキラと流れる。遠くに羊を放牧させている人や草を食べるロバ。ゆったりとした時間が流れ、自然の中に自分が溶け込んでいくような心地よい感覚があった。

カシュガイ族などが織るラグは、小さなモチーフが散りばめられた模様が特徴

サラハットの羊飼い。夏場でも涼しく、羊たちも気持ちよさそう


ワイルドな羊スープ

お母さんたちが焚火で夕食の準備を始める。家から持ってきた食材をまな板も使わずナイフ1本でカットしていく姿が様になる。ハーブや羊の足、野菜などをドゥーグ(ヨーグルトの飲み物)で煮てスープにする。

少し辺りを散歩していると、羊たちも夕食の時間で羊飼いに連れられ草を食べに来ていた。

散歩から戻ると、お母さんがチャイを入れてくれた。「焚火の上で沸かした湯はスモーキーな香りがつくからチャイがおいしくなるのよ」とのこと。それを飲みながら夕日がゆっくりと遠くの山に落ちていくところを久しぶりに見た。羊の鳴き声が遠くに聞こえる中、空がどんどんオレンジに染まっていく光景は脳裏に焼き付いている。 

日が落ちて辺りが薄暗くなったころ、スープが完成。みんなで焚火の灯(あか)りに照らされながらいただく。今までイランで食べてきた羊料理の中で1番ワイルドな味だった。みんなおいしそうに食べていたので自分とのルーツや文化の違いを実感した瞬間だった。ほんの少しだけ、かつて遊牧民たちが見てきた景色や空気を感じることができたような気がした。



執筆者/ひらい・かおり
ラグ専門店Layout バイヤー
那覇市西2-2-1 電話/098・975・9798
https://shop.layout.casa

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1993号・2024年3月15日紙面から掲載

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