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2025年10月24日更新

「病気の母が困らないように」娘から片付けの依頼 対応した専門家が強くした思い|人生の輪郭 暮らしが映すもの①

片付けや掃除のプロとして悩める人々をサポートをする、暮らしかたらぼの代表・根原典枝さんが、依頼者一人一人の「バックグラウンドとこれから」に自身の人生観を絡めて「人生の輪郭」を綴る。初回は、別々に暮らす母娘の娘から「病気のお母さんが困らないように、部屋を整えて欲しい」という依頼。根原さんは「外部を頼るという決断が出来たことに、彼女の深い愛情を感じた」と話す。

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文/根原典枝(暮らしかたらぼ)

 ストーリー① 病気の母を支える20代女性 

片付けや掃除のプロとして悩める人々をサポートをする、暮らしかたらぼの代表・根原典枝さんが、依頼者一人一人の「バックグラウンドとこれから」に自身の人生観を絡めて「人生の輪郭」を綴る。初回は、別々に暮らす母娘の娘から「病気のお母さんが困らないように、部屋を整えて欲しい」という依頼。根原さんは「外部を頼るという決断が出来たことに、彼女の深い愛情を感じた」と話す。


「外部の力借りる」という選択

母一人、子一人の親子

とても暑い夏の日の夕方、依頼の電話が鳴りました。「病気のお母さんが困らないように、物を探さなくてもいい部屋に整えてほしい」。―そう切り出した声は静かで、でも芯のある響きでした。

依頼主は20代の女性です。母一人子一人で、一緒に暮らしていた時期もありましたが、今は仕事の事情で別々で暮らしています。忙しい日々の中でも母親のことを常に気にかけ、生活費も負担しています。 

彼女が中学生の頃まではとてもきれい好きだった母。しかし、病気を患ったことで徐々に片付けられなくなり、今では入退院を繰り返すようになりました。頼れる親戚はいない中で、自分の生活と母の生活を1人で背負い、日々をやりくりしてきた彼女。多くの人はこういう状況で、「家族のことだし、自分でやらなければ」と抱え込んで心身ともに疲弊してしまいます。

でも、彼女は外部の力を借りる選択をしました。私はその決断に、片付けコンサルタントとしてだけでなく、彼女と同じ20代の子をもつ母としても、とても感動しました。「外部の力を借りる」。—それは弱さでなく、母を守り、自分自身を守るための確かな強さなのです。



暮らし整え前向きに

暮らしを整えることは、見た目をきれいにするだけではありません。探し物を減らし、安全な動線にし、安心して暮らせる土台をつくること。それは母子の未来の暮らしを守ることにつながります。 

私がお母さまの家で片付けをしている間、立ち会っていた彼女は何度も何度も「母が困らないように」と口にしました。その言葉に、これまでの苦労や、どれだけお母さんを大切にしているのかが痛いほど伝わりました。

だからこそ私は、片付けを通して暮らしが前向きになれるように整え、多くの人のお役に立ちたいと思っています。あの真夏の一本の電話は、その思いを改めて強くしてくれました。

そして次のステージへ

数カ月たったある日、彼女から再び連絡をいただきました。「母の体調も落ち着きました。私も県外での仕事が決まり、引っ越しをすることになりました」

娘としての自分。そして、自立した女性としての自分。彼女は次のステージへと歩み始めていました。引っ越しの荷物を一緒に片付けながら、私が心に留めていたのは、物を整理することだけではありません。お母さまへの心配が少しでも減り、安心して暮らしてほしいという思いでした。

そこで提案したのは、お母さまの家にキーボックスを設置すること。万が一、サポートが必要になったときでも、すぐに誰かに頼めるようにするためです。警備保障会社のサービスなどもお伝えしました。「不安を手放すための具体的な方法を提案する」。それもまた、私たち片付けの専門家ができることの一つだと思います。

暮らしを整えることは、未来に向け安心の土台を築くこと。それは誰かを思う優しさであり、自分を大切にする強さでもあります。「彼女の選択が素晴らしい未来へつながりますように」。そう願わずにはいられません。


執筆者

ねはら・のりえ/
1972年うるま市出身。3人の子育てに追われる中、テレビ番組で赤字企業が3S「整理・整頓・清掃」を通して再生する様子に感化され、2010年に片付け・掃除で悩む人をサポートする(株)暮らしかたらぼを設立。
080・2731・8883
https://kurashikata.co.jp
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2077号・2025年10月24日紙面から掲載

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週刊タイムス住宅新聞編集部

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