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2023年1月20日更新

沖縄/伝統木造古民家|100年先を建築する[ウチナー建築家が見たアジアの暮らし⑩]

文・写真/本竹功治
カンッカンッと小気味の良い音が聞こえる方へ歩いていくと、ねじりはちまきの大工さんが屋根の上で加工をしていた。「シメシメ」と笑ったかと思うと、「このヤロウ!」っと眉をひそめて、えいっとトンカチをふる。クセのある材と格闘しているのが、表情に分かりやすく出ている(笑)。樹脂が抜け、乾燥し堅くなったチャーギ(イヌマキ)にノミが入り、カーンッと空に響いた。

100年先を建築する

カンッカンッと小気味の良い音が聞こえる方へ歩いていくと、ねじりはちまきの大工さんが屋根の上で加工をしていた。「シメシメ」と笑ったかと思うと、「このヤロウ!」っと眉をひそめて、えいっとトンカチをふる。クセのある材と格闘しているのが、表情に分かりやすく出ている(笑)。樹脂が抜け、乾燥し堅くなったチャーギ(イヌマキ)にノミが入り、カーンッと空に響いた。

ここは八重瀬町にある上江門家(イージョウケ)と呼ばれる古民家で、いま大規模な修繕工事が施されている。庭先に風化した瓦が下ろされ、少し傾いた木造の軸組みがあらわになっていた。訪問したのは、僕が関わっている学校“珊瑚舎スコーレ”の敷地内にある伝統木造古民家が同じように経年で傾き修繕が必要になったので、上江門家の棟梁(とうりょう)さんに相談するためだ。まぁどうにかなるだろうと甘くみていた古民家修繕の現実を知ることとなった。
 
修繕中の上江門家(イージョウケ)。軒に並ぶ垂木は戦前から残るイヌマキ材
修繕中の上江門家(イージョウケ)。軒に並ぶ垂木は戦前から残るイヌマキ材


文化財保存の難しさ

経年の変化で傾いた軸組みを立て直したいのだが、そう簡単な話ではなさそうなのだ。伝統木造の民家はくぎを使っておらず、部材は100年以上も互いに締め固め合ってきたので、一度外してしまうと同じように組み直せないのだそう。「解体して新しい材で組むと早いし安いんだけどな」と棟梁は言う。「でも、もう同じ材料は手に入らないし同じ作りにはならないから」と続けた。それは木材に限ったことではない。モノがあふれるこの時代にも手に入らない材が多いのだ。

ここの瓦は、島尻層泥岩が風化した土“ジャーガル”を手で練り上げ、登り窯で焼成したもの。屋根下地材は一本一本手作業で丁寧にわらで編まれた“ヤンバルチク”。梁(はり)には大径の“イヌマキ”。水回りには大きく切り出された“アワイシ”が積まれる。これら100年前の材料や工法は今ではもう資源不足で再現が難しい。そのため、できるだけ現存のままに残すそうなのだが、材もいつかは風化してしまう。はたしてその先は? と疑問が湧いてくる。
 
珊瑚舎スコーレ敷地内にある古民家では、生徒たちの手で修繕していくプロジェクトが始まった。まず床を解体し瓦を下ろしていく
珊瑚舎スコーレ敷地内にある古民家では、生徒たちの手で修繕していくプロジェクトが始まった。まず床を解体し瓦を下ろしていく
 

“遺す”から“創る”へ

珊瑚舎スコーレで立ち上がった古民家修繕プロジェクトもこれから数年をかけ進めていくことになる。古きものを「なぜ遺(のこ)すのか?」という問いには、その先の数百年の未来も含まれている。はたして答えはあるのか? 実践を通し模索していきたいと思う。

「100人が興味を持ってくれたとして、そのなかの1人が続けてくれるだけで次の100年が創られる。あっという間だよ」と棟梁は言う。首里城の木工にも長く関わり、2019年に焼失した後も再建へ向け前を見据える棟梁は、100年先を建築し始めていた。



本竹功治
執筆者
もとたけ・こうじ/父は与那国、母は座間味。沖縄出身の、アジア各地を旅する建築家。2014年よりカンボジアを拠点に活動している。

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1933号・2023年1月20
日紙面から掲載

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