家具を作る。使う。森に思いをはせる|オキナワンダーランド [56]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2022年4月29日更新

家具を作る。使う。森に思いをはせる|オキナワンダーランド [56]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。 文・写真/馬渕和香

Indigo(読谷村)

人間にたとえれば還暦ほどになる古い鍋が、比嘉洋子さんには大切な家族か、無二の親友のようにたまらなくいとおしい。

「むかし祖母が、育ち盛りだった私のために、にんじんシリシリやクーブイリチーを作ってくれた鍋です。この鍋を見ると、台所に立つおばぁの後ろ姿が、昔の写真を見ているみたいに目に浮かびます。私にとって思い出のアルバムのような鍋です」

鍋はいま、洋子さんのキッチンにある。たまに壊れもするが、家具作家の夫、亮さんに直してもらって使い続けている。

「修理する手間が惜しくないほどに愛着をもてるモノがそばにあると、日々の暮らしはそのぶん豊かになる気がします」

小さな鍋一つを宝物のように大事にする洋子さん。夫の亮さんも、廃品の家具を集めて再利用していた若い頃の経験が、家具職人をこころざす出発点になった。2人は14年前、オーダーメード家具の店「Indigo(インディゴ)」を読谷村で始めた。心がけているのは、祖母の鍋のように、長く愛される家具を作ることだ。亮さんが言う。


地元沖縄産の木材で家具を作る取り組みを始めた読谷村のオーダーメード家具店「Indigo(インディゴ)」。コロナ禍で訪れた逆境を商品開発の機会に転じて、琉球松やせんだんの木目が美しい新たな家具を誕生させた

「お客さまのお子さんの代にまでそのまま受け継がれるような家具を、という気持ちで作っています。そのために、流行に左右されないシンプルで飽きのこないデザインにし、壊れても直しやすい造りにしています」

奇をてらわない自然体のデザイン。昔懐かしさを覚える柔らかな表情。どんな部屋のどんなインテリアにもなじむ亮さんの家具は、県外にも顧客を広げ、店は順調に成長してきた。そこに2年前、思わぬ転機が訪れた。コロナ禍が連れてきた。

「店を開けられなかった時期に、何のために自分は家具を作っているのかを改めて考えました。いま社会で、自然環境への意識が高まっています。そうした流れに向けて何かメッセージを投げかけられる家具を作ってみようと、洋子と決めました」

「沖縄産の木材で家具を作ってみたら?」と提案したのは洋子さんだった。これまでは主に輸入材で作ってきた。調達しやすくて、使い勝手もよい材だが気になることが一つあった。

「どこで誰が伐採し、どう流通してきたかが把握しにくいんです。海外では、森林が伐採されすぎてダメージを受ける問題が起きています。木でモノを作る自分たちの責任を少しでも果たしたくて、どこで伐採され、どう流れてきたかが目に見える県産材を使うことにしました」

全ての家具を地元材で、とは考えていない。これまでに完成させた県産材家具(商品名は「オキナワドット」)は、琉球松のちゃぶ台やせんだんのキャビネットなど4種類と、踏み出した一歩は小さい。だがそこに込めた意味は、決して小さくない。

「商品名『オキナワドット』のドット(点)は、家具を作る私たち、使うお客さま、木材を与えてくれる森です。この三つの点は互いにつながり合っています。家具を作る、または買う、という行為が、実は森に影響を及ぼしているんだと意識するきっかけにこの家具がなれたらと願っています」(洋子さん)

古い料理鍋が思い出させるのは、優しかった祖母の愛。琉球松やせんだんの木目が浮かぶ家具の向こうには、森が見える。


家具作家の夫、比嘉亮さんに「県産材で家具を」と提案したのは妻の洋子さん。「3児の母になり、自然を未来に残すことの大切さを感じています。身近な地元材の家具を通して森と人とのつながりを実感してもらえれば」



伐採された街路樹などを材料に使っている。「一番難しいのは、県産材が持つ強い木目をどう生かすか。一歩間違えば、やぼったくなりかねない」と亮さん。琉球松のテレビ台では、大胆な木目を細身の黒いフレームでキリリと引き締めた



洋子さんが美しくディスプレーした商品が並ぶ店内。「商品を買っていただくのと同じくらいうれしいのが、『以前購入した家具を修理してほしい』というご依頼。修理してまで一緒にいたい、と思っていただいている証しですから」


亮さんの作業場。「家具作りは、お客さまの希望に僕のアイデアを重ねていく作業で、言わばお客さまと自分とのコラボレーション。作り終えた家具はどれも、『僕が欲しい』と思いながら(笑)お嫁に出しています」

◆Indigo 電話098・894・3383


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景


 

[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<56>
第1895 2022年4月29日掲載

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