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2019年4月12日更新

旅人の目も引く まちやぐゎー(今帰仁村)|オキナワンダーランド[37]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

北山商店 (今帰仁村)


現代版の琉球古民家のようなたたずまいの「北山商店」。近隣に次々と出店するコンビニやスーパーとの競争が激しくなるなかで、地域に根ざしながら観光客にもアピールする店を目指す
 

残すべきか、残さざるべきか、上間全弘さんの心は揺れた。

ふるさとの今帰仁村にある老舗商店を、縁あって人から引き継いで20年ほどがたった頃だった。前面道路の工事のために、店はいったん取り壊されて建て替えられることになった。

新たな店舗で今まで通りに商店を続ける、という選択肢ももちろん考えた。しかしその場合、近隣に続々と増えている大手スーパーやコンビニと競い合うことになる。どう考えても、旗色はこちらの方が悪い。しかし、だからと言って店をやめてしまったら、徒歩や自転車でしか買い物に行けない地域のお年寄りは困ってしまうだろう。

「どうすべきか迷いました。大型店が増えて、この先お客さんは減りはしても増えないのは目に見えていた。いっそのこと商店をやめてアパートでも建てて、家賃収入で生計を立てようかとも考えた。でも、福村さんの設計案を見て吹っ切れました」

相談を受けた建築士の福村俊治さんは、上間さんの悩みに一筋の光を差す提案をした。

「近年、屋我地島や古宇利島に渡る橋が立て続けに開通したことで、上間さんの店の前をレンタカーが頻繁に通るようになりました。地元客をメインに据えながら、観光客も集められる店にしてはと提案したんです」

地元客も観光客も入りたくなる店。その設計のヒントを福村さんは店周辺の風景に見つけた。

「店は、フクギ並木や古民家が多く残る集落にあります。集落に昔からある伝統家屋にならった形の店舗をつくれば、地域のお年寄りは入りやすく感じるし、赤瓦の建物に沖縄情緒を感じて観光客も立ち寄ると考えました」

集落の風景にうまくなじむように、屋根にも工夫を凝らした。

「大きな一つの屋根で建物を覆うこともできましたが、あえて三つの小ぶりな屋根にしてかけました。民家が数軒並んでいるように見えるので、この方が集落ののどかな雰囲気に合う」

福村さんの案に、上間さんも「今帰仁城のおひざもとにあるこの集落にぴったりだ」と喜んだ。「やれるところまで商店を続けよう」と気持ちが固まった。

そして4年前、「北山商店」という新たな名前で新店舗がオープンした。相次ぐコンビニの出店に押されて一時は売り上げを落としたが、地元野菜のコーナーを設けたり沖縄中の泡盛をそろえたりと、地元客にも観光客にも配慮した品ぞろえを地道に充実させて客を取り戻していった。

「僕はあと数年で引退するので、これから先は3人の息子たちに任せます。この店をどう生かすかは、彼らのやり方次第です」

新店舗のスタートを機に、宮崎県で会社勤めしていたのをやめて今帰仁に戻り、長男の弘嗣さんとともに店の運営にたずさわる三男の琢巳さんは、父が長年守り続けてきた商店を「生かす」道筋をこう描く。

「お客さんの9割は地元の方々です。観光客もターゲットにしながらも、やはり基本は地元に根ざした店でいたい。その上で新しいことにも挑戦して、新鮮味も感じられる店にしたい」

テークアウトもできる自家製だしの沖縄そばや料理人の次男、睦人さんがつくるスイーツなど、店オリジナルの商品も店頭に並べ始めた。地元からも観光客からも愛される店に向かって、北山商店は一歩ずつ歩みを進める。



現代性と伝統の融合は店内にも。杉の大きな丸太を使った迫力満点の天井には歓声をあげる客も多い。「木が使ってあるとお年寄りも入りやすいので、屋根部は木造にした」と設計した福村さん



地元野菜や地魚の刺し身、昼時になると飛ぶように売れるお弁当、地域のお年寄り愛用の化粧品、観光みやげ品、三線と、品ぞろえは幅広い。「そばはないの?」という客の声に応えて、最近から自家製だしの沖縄そばも置き始めた




上間さんがかつて酒の卸業をしていたこともあって、県内全46酒造所の泡盛をそろえている。「ここに来れば全ての銘柄が買えるからと、本土からまとめ買いに来るお客さんもいます」と上間さん。古酒好き垂ぜんの50年物もある


「新しい店をつくってよかったと思うのは、村外にいた息子たちが今帰仁に来てくれたこと」と上間さん(右)。宮崎から沖縄に戻った三男の琢巳さん(左)は、「兄弟3人で知恵を出し合いながら店を守り続けたい」と話す
◆北山商店 0980-56-5420


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。
元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<37>
第1736号 2019年4月12日掲載

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