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2021年10月22日更新
謎めいた表情の金属の動物|アートを持ち帰ろう(7)
文/本村ひろみ
彫刻家・福田直樹の個展が初秋に開催された。
謎めいた表情の金属の動物
自分との対話のための1枚 書斎に飾って例えば、招かれたお宅の玄関やリビングで個性的な彫刻があったとしたら。きっと「これは何ですか?」とか「ユニークですね、どなたの作品ですか?」と尋ねるだろう。もしかすると住んでいる人にとっては風景の一部として日常に溶け込んでいた彫刻も、初めて見る人にとってはその存在に目が留まるはずだ。それが謎めいた表情をした金属の動物だったらなおさら。存在に圧倒されるに違いない。
猿「Territory」
(鉄/ピューター/レジン)、H40×W50×D30(展示高:2.3m)30万円(税込み)
こぼれてたまる 合金の彫刻
彫刻家・福田直樹の個展が初秋に開催された。タイトル「零れて、溜まる(こぼれて、たまる)」は彼の制作技法を表している。素材はスズを主成分とする合金の「ピューター」で、彫刻の素材としては珍しいそうだ。鈍い銀色の光を放つウサギや鶏、猿、フクロウ、鳥にヘビ。会場はこれから何かが始まる前のような独特な緊張感に包まれていた。
動物たちは福田の記憶に残るシーンから現れたもの。作品を通して自分のルーツをたどっているという彼の彫刻は、何げない過去というより、今の自分に影響を与えている記憶のしおりであり映像を伴っている。一つ一つのモチーフなりのエピソード。作家本人から聞く物語はまるで短編集のような味わいがあった。
猿の彫刻“Territory”は父親との思い出につながる。猿山で猿に襲われそうになった父。他人の領域に触れてはいけない、そんな警戒心を抱かせる猿の視線。「垂らし鋳込(いこ)み」の技法で作り出された猿はフォルムに膨らみがあり触れてみたくなる。
この作品を私は自分の部屋に置きたい。遠くを見据えているような猿の表情。福田の制作の源になった記憶を反転させ、その不思議な神聖さと美しさで邪悪なものから守ってほしいと願う。
ところで一戸建て住宅から床の間がなくなり、木彫の作品や掛け軸などの置き場所が失われたと聞く。床の間はなくてもアートを飾る場所は自由自在。気分で作品を移動できるのも自宅ならではの楽しみだ。
鳥「空を想う」
(ピューター/真鍮)、H30×W20×D20、10万円(税込み)。
作家近況
詳しい情報はSNSで
https://www.instagram.com/naoki_fukud/?hl=ja
もとむら・ひろみ
那覇市出身。清泉女子大学卒業。沖縄県立芸術大学造形芸術研究科修了。ラジオ沖縄「GO! GO! ダウンタウン国際通り発」「We love yuming2」でパーソナリティーを務める
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1868号・2021年10月22日紙面から掲載
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ロマンチストなラジオDJ
那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学 造形芸術研究科修了。現在、ラジオ沖縄「GO! GO! ダウンタウン国際通り発」「We love yuming2(毎週 日曜日 19時~20時)」でパーソナリティーを務める。