村特産品で逸品。始まりは「傍(はた)を楽に」|オキナワンダーランド[54]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

スペシャルコンテンツ

特集・企画

2021年7月30日更新

村特産品で逸品。始まりは「傍(はた)を楽に」|オキナワンダーランド[54]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。 文・写真/馬渕和香

ヌン・オキナワ 池中尚子さん

大宜味村特産のシークヮーサー入りのバターやカラキ風味の豆乳ジャムを開発して販売する池中尚子さん。アパレル業界出身の池中さんを加工品開発に導いたのは、「父や母のよう」と慕う島の人々との出会いだった
大宜味村特産のシークヮーサー入りのバターやカラキ風味の豆乳ジャムを開発して販売する池中尚子さん。アパレル業界出身の池中さんを加工品開発に導いたのは、「父や母のよう」と慕う島の人々との出会いだった

新緑がまぶしい大宜味の山々に、白いイジュの花が咲き集い、蝶(ちょう)の群れが花吹雪のように舞う若夏の日、池中尚子さんはボウジムイ(坊主森)を臨むシークヮーサー畑にいて、枝の一本をいとおしそうに眺めていた。

「シークヮーサーの赤ちゃんがいっぱいいるんです」

「赤ちゃん」たちはまだ、ビー玉ほどの大きさで、見過ごしそうなほど小さい。順調に育てば秋に収穫を迎える深緑色の実を、池中さんは、まるで人間の赤ちゃんの生まれたての肌に触れるように優しくなでる。

「この畑は、私が母のように慕う江美子さんとご主人の畑です。ここのシークヮーサーで何か加工品を作れないかと考えたことから、シークヮーサーバターの開発が始まりました」

発売から3年、県内外でじわじわと人気を広げている池中さんの商品、「シークヮーサーバター」。それは、長くアパレル業界で働いてきた池中さんが、10年前、「ありのままの自分でいられる」沖縄に移住してきて出会った「沖縄のお母さんやお父さんやお姉さん」との交流なくしては生まれなかった。

「沖縄のお母さん」と呼ぶ眞謝江美子さんと、大宜味の山あいにある眞謝さんのカフェ「がじまんろー」で。「尚ちゃんはとても素直な子。お店が忙しい時、いつも手伝ってくれたの。娘みたいなものです」と眞謝さん
「沖縄のお母さん」と呼ぶ眞謝江美子さんと、大宜味の山あいにある眞謝さんのカフェ「がじまんろー」で。「尚ちゃんはとても素直な子。お店が忙しい時、いつも手伝ってくれたの。娘みたいなものです」と眞謝さん

「沖縄にいると、人って優しいなといつも思います。『ご飯を食べにおいで』、『お盆の行事においで』と家族のように接してくれる。大好きなカフェ『がじまんろー』の“お母さん”、眞謝江美子さんも、ヤーニンジュと言ってかわいがってくれます」

周囲の温かさに、池中さんは例えばこうやって応えてきた。

「沖縄に来てから、傍が楽になる働き方、“傍楽(はたらく)”をするようになりました。農家で人手が足りない、介護施設の調理場が、保育所が手薄だ、と聞くとお手伝いに行きました」

こんなこともあった。数年前、大宜味村のシークヮーサーが豊作過ぎて、農家が余剰在庫を抱え、困ってしまったことがあった。母のように慕う眞謝さんの畑も出荷が滞っていた。

「以前、トマト農家で収穫のお手伝いをした際、見かけが規格外というだけで出荷したくてもできないトマトがたくさんあることを知って、もったいなくてジャムを作ったことがありました。シークヮーサーでも何か加工品をと、レモンカードというイギリス発祥のスプレッドにヒントを得て作ってみたんです」

「ヌン・オキナワ」というブランドを立ち上げてシークヮーサーバターを売り出すと、予想を超える反響があった。その翌年、村特産のカラキ(沖縄ニッケイ)で風味を付けた豆乳ジャムも開発して販売。今秋には、泡盛入りのナッツバターも発売する。

「いただいたご縁や機会が、加工品作りという、まるで想像していなかった展開に私を導いてくれた」と話す池中さん。加工場に一人こもって商品を作る時、胸に去来することがある。

「『頑張りなさいよー』と言って加工場に飲み物やお菓子を差し入れてくれる村の皆さんや、そばで見守ってくれるパートナー、沖縄移住を応援してくれた両親。心の中に“愛情の貯金”を積み立てられるほど多くの人に支えられていることを思い、感謝で胸が熱くなるんです」

もらった思いやりや愛情への「ありがとう」。池中さんの商品をおいしくしている秘密の成分は、きっとそれだ。

池中さんにとって、やんばるは「人生の大切な拠点」。以前は大宜味の奥地に小屋を建てて住んでいたが、今は古民家で暮らす。「大宜味に移ってから、家探しに困るたびに親切な人が『ここを使って』と貸してくれた。この家もそうでした」
池中さんにとって、やんばるは「人生の大切な拠点」。以前は大宜味の奥地に小屋を建てて住んでいたが、今は古民家で暮らす。「大宜味に移ってから、家探しに困るたびに親切な人が『ここを使って』と貸してくれた。この家もそうでした」

大正時代に建てられた家には、いろりの煙にいぶされた柱や、総タイル張りのレトロなキッチン台が残る。「自分たちの暮らし方に合わせて、階段を付けたり収納を手作りしたりと少しずつ手を入れていくたびに愛着が深まります」
大正時代に建てられた家には、いろりの煙にいぶされた柱や、総タイル張りのレトロなキッチン台が残る。「自分たちの暮らし方に合わせて、階段を付けたり収納を手作りしたりと少しずつ手を入れていくたびに愛着が深まります」

「シークヮーサーバター」(左)と後続商品の「カラキソイミルクキャラメル」。「慌ただしい毎日を送る人が、これを食べて『おいしい。今日も頑張ろう』と笑顔になれる。そんな商品になってほしい」
「シークヮーサーバター」(左)と後続商品の「カラキソイミルクキャラメル」。「慌ただしい毎日を送る人が、これを食べて『おいしい。今日も頑張ろう』と笑顔になれる。そんな商品になってほしい」


◆ヌン・オキナワ  https://nunokinawa.theshop.jp


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景


 

[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<54>
第1856号 2021年7月30日掲載

特集・企画

タグから記事を探す

この連載の記事

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:1074

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る