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2020年5月8日更新

伝統も今も感じるリノベ古民家(名護市)|オキナワンダーランド[50]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

トゥタン(名護市)


築半世紀の古民家で営業している屋我地島のレストラン「トゥタン」。建築士、仲地正樹さんの設計で改修された建物は、伝統建築が持つ「新たに作り出せない」魅力と“今”の嗜好(しこう)に合う現代性とをあわせもつ


人が住まなくなると、家はいのちが消えたように傷んでいく、とよく言われる。屋我地島ののどかな集落の中、守護神のような立派なアカギの大木に見守られながら立つその古民家も例外ではなかった。

最後の住人がいなくなってから数十年がたち、こもった湿気で天井は傷んで落ちていた。柱や梁(はり)にシロアリの食害も見られた。そのまま放置されていたら、朽ち果てていった多くの空き家と同じ運命をたどっただろう。しかし、この家は別の道を歩むことになった。昨年、大がかりなリノベーションが施されて、店舗となってよみがえった。

「大家さんの生家だったこの家は、初めて見た時、かなり経年劣化した状態でしたが、改修ですてきに生まれ変わりそうだと可能性を感じました。でも、さすがにここまでとは想像していなかったです」
そう話すのは、見違えるように改修された築半世紀の古民家を持ち主から借りて、妻の史子さんと二人でレストラン「tutan(トゥタン)」を営むシェフの赤坂望さんだ。
「お出しする料理を、空間の雰囲気や流れる音楽とともに、トータルに楽しんでいただける店をつくるのが夢でした。その目標へのスタートをここで切ることができた。これから料理人としてどんな表現をしていけるか、自分でも楽しみです」

「気持ちがほぐれる温かみがあって、いい意味で肩の力を抜いて料理できる」と赤坂さんが語るトゥタンの建物。改修のデザインを手がけたのは、北部を中心に活躍する建築士の仲地正樹さんだ。自身、大正時代に建てられた歴史ある古民家で育ち、島の古い建築に深い思い入れを持つ。

「長い時間をかけてしか作れないもの、今作りたくても作れないものが古い建物には宿っている。新築を造るのももちろん好きですが、古い建物を“直して造る”こともしたい。その気持ちが自分には強くあります」

仲地さんにとって、「直して造る」ことは、元通りにただ復元することとは違う。伝統家屋の良さを残しながらも、一方で、“今”を感じられるデザインにまで伝統の形をアップデートさせることをも含む。トゥタンでは、間仕切りや柱を思い切って減らし、床面を下げ、逆に天井高は引き上げて、重々しくて狭苦しかった室内を現代人好みの軽やかで開放的な空間に一変させた。

「赤坂さんはきちんと修業をしてきた本格的なシェフ。彼の料理にふさわしいグレード感のある場所にしたかった。それには開放感を作り出すことが必要でした」
異なる食材が皿の上でハーモニーを奏でる赤坂さんの料理のように、伝統と現代性とが一つの場所で出合い、溶け合っているトゥタン。伝統建築は古くさい、と思っている人をも振り向かせそうな魅力を放つ。

「ここを見て、『古い家を直すのも上等だね。おばぁの家が空いているけど、こんなふうにできるかな』と思ってもらえたら、設計者としてうれしいです」
トゥタンが開店して半年。「古い家も上等だ」と“古民家愛”に目覚めたお客さんが、きっともういるはずだ。


トゥタンの店名は、屋根に葺(ふ)いたトタンから。共同名づけ親の仲地さんは、「軽くて強くて安くて、簡単に手にも入る。しかも、やろうと思えば住人が自分でメンテもできる。トタンは沖縄に最適な素材」と話す


東京で修業し、県内の人気レストランでシェフを務めてから独立してトゥタンを開いた赤坂さん(右)と妻の史子さん。「料理する自分も、食べに来てくれるお客さんも、気持ちを楽にして、構えないで楽しめる店になれば」
 


コンクリートの重厚感、無垢(むく)の木の優しい風合い、ガラスの透明感、トタンのカジュアルな趣。それぞれの素材の質感や個性が組み合わさって、仲地さんが意図した“ビジュアル的な化学反応”が生まれている正面の外観


「沖縄は食材の宝庫」と話す赤坂さん。旬のやんばる食材を使って、フレンチを基本にした創作的な料理を提供している。「ディナータイムには、一皿数百円からのアラカルト料理をご用意しています。自然派ワインとともに気軽に楽しんでほしい」



トゥタン 0980-52-8039
※当面テイクアウトのみ。状況を見て通常営業再開


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景



[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<50>
第1792号 2020年5月8日掲載

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