帰るのではなく次に向かう|多くの拠り所がある暮らし[10]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2021年2月19日更新

帰るのではなく次に向かう|多くの拠り所がある暮らし[10]

2019年の秋に約1カ月間、日本各地で多拠点生活してみた。その体験などを通して、定住にとらわれずにいくつかの生活の拠点を持つような新しい暮らし方について、連載で紹介する。(文・写真/久高友嗣)

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熊本県から長崎県へは、陸路で高速道路を経由しても遠回りになるので、熊本港からフェリーで行くことにした。島原港でフェリーからレンタカーを降ろし、目的地の長崎市まで走らせた。市内で利用した宿は、会員制の定額宿泊サービス「HafH(ハフ)」の直営宿。同サービスは宿泊料をあまり気にせず提携している全国の宿を使えるため、多拠点生活者の利用も多い。一方、一般の宿泊者もいるため、これまで以上にさまざまな人と出会えた2泊3日だった。

多拠点生活者と宿泊客が交わる

宿では受付の人が、「今度、沖縄に行くから、おすすめの飲食店を教えて」と気さくに話しかけてくれた。2日目に仕事の合間で立ち寄った1階のショップでは、店長から近くのおいしいちゃんぽんの店を教えてもらった。夕食から帰ってくると、宿の前で雑談するショップの店長とその知人がいて、その輪に入った。定住ではないものの、この宿に通うようになったら、ご近所さんのような関係になっていく兆しを感じた人たちだった。

部屋がある3階へ上がると、共有のリビングスペースに滞在者らが集まっていた。HafHを利用して長期出張で住み込んでいる人や一般宿泊者、当時開かれていたラグビーワールドカップで日本へ訪れていた欧州の人たちに声をかけられ、酒を酌み交わした。欧州の人たちと街で飲み歩きもし、ためらいもあったがめったにない機会を得て、長く濃い1日を過ごした。
 
長崎市内にある定額制の宿泊提供サービスHafH(ハフ)直営の宿。1階に受付、カフェ、テナントがある。2階はコワーキングスペースや会議室になっていて、まとまった時間がとれた滞在2日目の日中に利用。オンラインミーティングなどの仕事をこなした。3階は宿泊スペース、屋上にはウッドデッキが広がる

上写真宿の3階にあるリビングスペース。滞在者・一般宿泊者が使えるキッチンなども備えている

同じ趣味でイベント開催も

3日目のチェックアウト後は、市内にあるもう一つのHafH直営宿を見学。そこは広い庭も備えた立派な古民家をリノベーションしている。住み込みの管理人とはアウトドアの話で盛り上がった。それがきっかけになって2、3カ月後には、HafH会員やアウトドアに興味がある人に向けて、宿の庭でのキャンプイベントを共同で開いた。イベント参加者の中には無人島でのキャンプに精通している人もいた。また別の人とはイベント後そのままの足で山口県でキャンプをし、地域の垣根を越えて同じ興味関心でつながる貴重な機会となった。

古民家をリノベーションした宿。高台にあって市街地を一望できる。写真はお試し多拠点生活後に開催したキャンプイベント時に撮ったもの


キャンプイベントの参加者らと庭に大型テントをたてた。10人ほどが参加し、コーヒー、持ち寄りの料理、バーベキューなどを楽しみながら親睦を深めた


欧州の人たちと飲み歩き。長崎では定番のおむすびで締めくくり、外国の人と共にローカルな経験をした

2泊3日の長崎滞在から福岡でレンタカーを返却して沖縄へ“向かった”。本来は“戻る・帰る”と言うのが正しいはずだが、移動し続けていたためか、自宅近くに着いても、そこは最終地点でなくまだ移動の途中のように感じたのを覚えている。そうした名残もありながら、33泊34日のお試し多拠点生活を終えたのだった。

 
 
 久高友嗣/くだか・ともつぐ/キャンプ沖縄事業協同組合発起人代表。アウトドアやレジャーの枠にとらわれないキャンプ空間や用品のコーディネート、遊休地の利活用などを行う。1990年、那覇市生まれ。琉球大学工学部環境建設工学科建築コース都市計画研究室卒業。https://www.campo.ooo/

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1828号・2021年1月15日紙面から掲載

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