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2020年11月13日更新

沖縄からグリーンニューディールを|建築探訪PartⅡ⑤

次世代に残したい沖縄の建造物の歴史的価値や魅力について、建築士の福村俊治さんがつづります。

沖縄からグリーンニューディールを

オリオンビール「花の国際交流」(浦添市) 
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今沖縄では、「沖縄らしい景観づくり・建築づくり」が問われている。私の住んでいる浦添市でも西海岸埋め立てやキンザー跡地利用や、既成市街地でのさまざまな議論が始まっている。戦争でことごとく破壊された沖縄ではかつての伝統的集落景観の継承はなく、その上良好な土地は米軍基地が占拠したため、いびつな形で街が作られ、まとまりのある景観は生まれなかった。那覇は緑の低地に、浦添市は丘陵地に街ができた。また、土地不足のため貴重な遠浅の海さえも埋め立て都市がスプロールした。皮肉なことに、現在本島中南部で自然の緑地や海岸が残っているのは米軍基地だけだ。
そんなこともあって、どこの市町村も景観条例を作り、沖縄らしい景観・建築づくりが叫ばれている。景観でよく言われているのは赤瓦葺(ぶき)屋根や琉球石灰岩、花ブロックなど沖縄特有の建材の使用、建物外壁の色、看板の大きさや色などが話の中心だが、これらは建物の細部の話であって、ランドスケープや景観といった広域の話にはなかなか行き着かない。



沖縄市中央パークアベニューのイペー



国道58号浦添市勢理客歩道のピンクのイペー



浦添市当山の住宅地の黄色のイペー



ハワイ南米の花木(オリオンビール60周年記念誌より)


企業周年で130万本植栽

30数年前、沖縄の地元企業オリオンビールは創立30周年事業で、果敢にも沖縄らしさの景観風景づくりに取り組んだ。その「花の国際交流」という事業は、260人もの使節団を組み、多くのウチナーンチュが移住した南米4カ国(ボリビア・ペルー・アルゼンチン・ブラジル)とハワイを訪れ、花木の種子の交換を通してお互いの交流や親睦を図るとともに、県内に熱帯花木による「緑豊かな郷土づくり」を目指した。沖縄からは各国にヒカンザクラの種子1万粒ずつを贈呈し、各国からはその国を代表する花木の種子を持ち帰り、それら種子から130万本の苗木を育て県下全域に配布植栽したのである。この事業は15年続き、これらの花木は育ち、南国沖縄を今や美しく彩り、新しい観光景観を作っている。

沖縄は日本唯一の亜熱帯島しょ地域であり、歴史や気候風土そのものが日本本土と異なる。むしろ南米やハワイや東南アジアに近く、これらの国の景観を参考にして沖縄の残された海や地形、緑の稜(りょう)線(せん)を保存活用し、温暖な気候を生かす仕掛けでの新しい「沖縄らしい景観・建築づくり」を試みるべきでないか。

「沖縄からグリーン・ニューディールを」という呼びかけは、長年沖縄問題を研究する環境経済学者宮本憲一氏の著書の中での沖縄への提案である。そもそも「グリーン・ニューディール」とは経済再生を環境・省エネ・格差問題から現状を見直し、新たな道を目指す政策提言であるが、自立経済と沖縄らしい景観や建築づくりを目指す沖縄にとって、的確なキャッチコピーだ。



アルゼンチン・リオデジャネイロのジャカランダ。この時季は町中が紫色になる




米軍基地内の大きなガジュマル




かつての沖縄市くすのき通り



浦添ようどれの緑の稜線



浦添西海岸の遠浅の海





ふくむら・しゅんじ
1953年滋賀県生まれ・関西大学建築学科大学院終了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。1990年空間計画VOYAGER、97年team DREAM設立。県平和祈念資料館、県総合福祉センター、那覇市役所銘苅庁舎ほか、個人住宅も手掛ける
 

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1819号・2020年11月13日紙面から掲載

 

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