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2020年10月9日更新
気候風土適応住宅 国事業に県内初RC使った2例採用|気になるコト調べます![66]
前回(9月25日発行号)に引き続き、地域の住文化を継承し、環境負荷の低減を図る気候風土適応住宅について取り上げる。今回は地域の先導的モデルケースを選ぶ国の「気候風土適応型プロジェクト2020」に、県内で初めて選ばれた2事例を紹介する。
地域の住文化継承する気候風土適応住宅②
前回(9月25日発行号)に引き続き、地域の住文化を継承し、環境負荷の低減を図る気候風土適応住宅について取り上げる。今回は地域の先導的モデルケースを選ぶ国の「気候風土適応型プロジェクト2020」に、県内で初めて選ばれた2事例を紹介する。同プロジェクトは地域の伝統的な住文化を継承しつつも、環境負荷の低減を図るモデル的な気候風土適応住宅を選び、支援するもの。本年度は初めて鉄筋コンクリート造(RC造)住宅も対象になり、松田まり子さん(松田まり子建築設計事務所)と金城優さん(㈲門)のプロジェクトが選ばれた。両者とも台風対策や遮熱対策、地域の文化や建築技術を継承している点が評価された。
開放型住宅を評価
設計・松田まり子(松田まり子建築設計事務所)
松田さん設計の「風と生きる花ブロックの家」はRC造の平屋。「台風、強い日差し、塩害といった沖縄特有の気候から住まいを守る設計。『風通しの良い家で暮らしたい』という施主の思いもあり、常に窓が開けられる工夫も施した」と松田さんは話す。
同住宅で省エネのポイントになっているのは、花ブロックや屋根の遮熱ブロック、外壁の白色塗装といった「日射を遮る工夫」。これらは断熱性能などで測る「建築物省エネ法」での省エネ評価は難しいものの、強い日差しから受ける熱の影響を抑える対策として評価された。
これら日射対策を考慮して冷房エネルギー消費量を試算すると、法の基準より約26%抑えられる結果に。「従来と同じ手法での日射対策は、沖縄では省エネにつながるが、法上は未評価。地域に適した省エネ方法がある。さらに、施主が希望する自然風で過ごす住まい方も考えると、エネルギー消費量はより抑えられるだろう」と松田さんは話す。
地域の木造技術継承
設計・金城優(㈲門)
金城さん設計の「U邸」は、RC造の壁に木造小屋組屋根を載せた混構造の平屋。「地域の大工が引き継いできた木造加工の技術を取り入れ、地域の人でできる生産体制にした」と金城さんは話す。アマハジのある南に開いた配置、風通しが良く大勢の人が集まれる扉のない続き間の空間は、伝統的な沖縄の住空間を踏襲している。風が入る南・東の開口には雨戸、風が抜ける北・西の開口にはアルミルーバーを付けて通風・台風対策。積極的に地域の伝統技術や風土を反映した点が評価された。
また木造小屋組屋根は、RC造より蓄熱しにくい上、天井高も確保できて熱がこもりにくい造りに。合わせて、アマハジ空間やルーバーで室内に直射日光が入らないようにするなど、熱の影響を抑える対策があることも評価された。
「アマハジや庭など、幾重にも緩衝帯を挟んで涼しい風を取り入れ、日差しを遮る沖縄で培われてきた造りを、台風に耐えるRC造に反映した」と、2人。国プロジェクトの採用を受け、耐台風、開放的な造りの省エネ住宅の可能性が見いだされた。
風と生きる花ブロックの家(RC造)
設計・松田まり子(松田まり子建築設計事務所)
◆気候風土適応住宅に向けたコンセプト
・年中風が吹く外部環境の快適さを生かした住まい
・台風、塩害、紫外線など耐候性を意識した住まい
・高温多湿の蒸暑地域にふさわしい省エネルギーバランスを目指す
◆気候風土・環境負荷低減への対応
→台風などの災害を意識したシェルターとしてのRC造
→強い紫外線や日射による熱の影響を抑えるため、花ブロック・遮熱ブロック(屋根通気ブロック)・白色塗料で日射遮へい
→防犯性に優れたジャロジー窓、地窓、網戸のみの常時開放窓を使い、日常空間に微風が流れるよう開口部の位置、形状などを設計。日射遮へいと合わせてエアコンの消費エネルギーを抑える
→アルミ、コンクリート、ガラスなど耐候性のある材料を厳選して、建物の長寿命化を図る
◆評価
RC造の堅固さとともに、花ブロックや遮熱ブロックなどの地域の材料を使って通風、内外空間の連続性、日射遮へい、台風対策など気候風土にあった対策と技術を評価。花ブロックを使ったテラスは熱の緩衝空間としても評価できる
光・風・熱を調節する花ブロックのテラス
「風と生きる花ブロックの家」は、大きな開口部の前に花ブロックのテラスを設置。日差しを程よく遮り、平常時は穏やかな風を通す。台風時には強風から開口部を守る。視線も遮るためカーテン不要で常時窓が開けられる。緑化で風が涼しくなる効果も期待。室内外の温度差が緩やかになり結露を防ぐ。
U邸(壁RC造+屋根木造の混構造)
設計・金城優(㈲門)
◆気候風土適応住宅に向けたコンセプト
・伝統的な地域景観や風土に根差した建築をつくる
・自然素材を生かし、人にやさしく快適な住まいを提案する
・自然風を考慮した平面計画とする
◆気候風土・環境負荷低減への対応
→LDK上部に木造小屋組の屋根を設けた混構造で台風に強く、ふく射熱の軽減、地域に息づく木造加工技術の継承を図る
→南側・東側に大きな開口部を設け、反対側に換気のための窓を設けて自然風を取り込む。雨戸やルーバーで台風対策
→南入りの建物配置で周囲の景観に配慮して平屋、アマハジの中間領域を設けた
→多くの人が訪ねてくるので室内は極力扉を設けず、広く風通しの良い空間にした
◆評価
RC造と比較して熱容量の小さい木造小屋組の屋根は夜間の天井からの放射を低減する取り組みとして評価。配置や形状、緑化など、地域の伝統的集落との積極的な調和を図った点も評価された
熱がこもりにくい木造小屋組屋根
地域の大工が引き継いできた木造加工技術を活用し、地域の大工とともに造る体制にした「U邸」。景観に配慮して建物高さを抑えたが、小屋組屋根で天井が高くでき、RC造よりも蓄熱しにくいため熱がこもりにくい。RCの壁との間のハイサイドライトから暖まった空気を排出する。
気候風土適応住宅とは ◆地域の気候や風土に応じた住宅で、「建築物省エネ法」で定める省エネの基準をクリアすることが難しいもの ・地域の気候風土に応じた①空間構成・形態、②部材や工法、③地域資源を活用した材料や生産体制、④景観形成、⑤住まい方などの特徴が見られる住宅 ・地域でこれまで培われてきた住まいの文化や技術などが生かされる一方、断熱性や気密性といった性能が測りにくい ◆気候風土適応住宅と認められると、壁や窓の断熱性能の基準(外皮基準)適合が求められず、設備や家電などで消費するエネルギーの基準(1次エネルギー消費量基準)が緩和される |
取材/川本莉菜子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1814号・2020年10月9日紙面から掲載