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2021年3月5日更新

[住民参加の公園づくり]愛着・憩い生む 菜園活動

人口減少や遊具の老朽化などで利用者が減る公園は少なくない。行政だけでの維持管理も厳しい中、公園を家庭菜園のように使うことで住民が主体的に関わって管理し、より身近なものとしているケースもある。昨年末から農園実験中の経塚公園と、ビル群の中で果樹を育てるファーム泉崎での活動を紹介する。

駅前公園の小さな畑(浦添市 経塚公園)


経塚公園の市民農園で自分たちの畑に水をやる子むすびの森保育園の園児たち。野菜の匂いを嗅いだり、他の畑で育つ野菜の名前を当てたりと楽しげ


保育園からジョーロを片手に公園の畑へ向かう園児たち


官民学連携で実験

ゆいレール経塚駅の目の前にある経塚公園では、公園の一角を市民農園として開放する取り組みを実験的に行っている。浦添市・市民団体・企業団体・大学が関わる。学生も交えて企画や菜園活動などに携わる小野尋子准教授(琉球大学工学部)は、「公園で野菜を育てると、水やりや収穫などで定期的に足を運ぶため、公園をより身近に感じるようになる。また、形となって見えるため、公園への住民の関心が高まる。畑に加え、水栓やベンチは人を集め、コミュニティー活動を促す場になる」と話す。


企画や畑の整備を経て、菜園活動が始まったのは昨年12月。ことし3月までの収穫を条件に、公園周辺の住民へ募集を呼びかけ、子育て世帯や3世代家族、大学などの5組が、それぞれ約4平方㍍の小さな畑で野菜や花を育てている。


子どもと地域つなぐ

歩いて3分で公園へ行ける、子むすびの森保育園も実験に参加。「日々の水やりや収穫を園児たちがすごく楽しみにしている。この前は採れたネギをみそ汁などにして食べた」と友利ミツ子園長はうれしそうに話す。

今回の実験には、「核家族が多い中、子どもたちが地域に関わる機会や場所になれば」との思いから応募。4~5歳児のクラスが中心になって畑の世話をする。「園からの帰りがてら親と畑を見に行く子たちも。野菜の水やりや観察をしていると、散歩する人から『何してるの?』などと声を掛けられることもある」。公園の畑は人が立ち止まり、声を掛け合う仕掛けになっている。

通りがかりの人やアンケートの反応などで「私もやりたい」という声もよくあるという。公園の近所にはアパートなどの庭が持てない住戸もあり、家庭菜園として利用できる公園は一定の需要があるようだ。


次世代型の公園管理

畑の整備に携わった伊佐亮さん(うらそえ公園管理共同企業体)は、「子どもたちの笑顔、菜園を楽しむ人の姿を見るとうれしい。柵の補修や見回りなども楽しみの一環」と話す。

公園の管理は、事業者や自治会など特定の団体が行うのが一般的で、同市のように住民が積極的に参加するケースは珍しい。「管理者として、今回の実験に携わらずして今後の公園管理を考えていくことはできない。やる気のある住民や地域を巻き込み、ボランティアからさらに一歩踏み込んだ、次世代型の新しい公園管理のカタチができてきているからだ」と、熱意を込めた。

花植えや宝探しなどのイベントも畑利用者らで企画。野菜が育つとともに愛着も湧き、自発的に活動していこうという意気込みが感じられた。

アプローチの花や他の畑にも水やり。ケンケンパーのように、アプローチの模様に合わせてジャンプする子も。「来るのが楽しみになり足も汚れにくいように」と、伊佐さんらが整備した


休憩や食事ができるようにと、大学生のアイデアで設けたベンチ。伊佐さんらと共に手作りした。伊佐さんは「柵や肥料など整備に使った資材は他の公園の廃材などをリサイクル。でも、ベンチはすぐ壊れないよう新品を使った」と笑う (写真提供/小野研究室)



市民主体の第一段階
新制度でサービス向上も

市民農園は経塚公園の一角にある。ゆいレール経塚駅の目の前に公園があることから、駅前のにぎわいをつくる公園整備への期待も大きい

現在、経塚公園は整備の途中段階。浦添市美らまち推進課は、「行政・企業・市民が連携した公園づくりのため、市民や事業者らと検討を進めている」と話す。その上で、今回の市民農園の取り組みは市民が主体になった活動のファーストステップだとし、「公園全体が整備されるまで、暫定的に続けたい。その他の社会実験も支援したい」と話す。また、公園内でカフェなどの民間事業がしやすくなる新しい制度を使って、「サービスを向上させて、市民が行きたいと思える公園にしていきたい」と話した。

新たな制度(Park-PFI制度)を活用した公園は、県内では未だ完成したものはなく、浦添市のほか、沖縄市や那覇市などで取り組み中だ。



 

ビル群の中の果樹園(那覇市 ファーム泉崎)

ファーム泉崎の維持管理をする泉崎一丁目自治会長の兼島さん(左)と、植物の世話などをする湖城さん。ファームでは果樹の他、桜やツバキ、ツツジなどの花も見られる。「ビル風が吹き、日当たりの悪い中で力強く生きる植物から元気をもらえる」と二人

那覇バスターミナル裏手のビル群の中、すらっと伸びるヤシの木が目を引く「ファーム泉崎」(泉崎公園)。遊具の老朽化や街の変化で利用者が減り、住民の声を受け、2004年に菜園のある公園へと再整備された。「当時はゴーヤーやオクラを育てていたそうよ」と泉崎一丁目自治会長の兼島満子さん。あれから17年がたった今は、草花が芽吹き、果物が実る果樹園に。「ここは、季節ごとの花が楽しめ、街の騒がしさを忘れさせてくれるオアシス」とほほ笑む。


ベランダ菜園の延長

植物の世話や清掃は、自治会員の有志7~8人で行う。そのひとり、湖城光男さんは「野菜は手入れ、収穫後の配布が大変。今はあまり手のかからないバンシルー(グヮバ)やアテモヤを育てている」と話す。みんなで世話しているため、実った果物は早い者勝ち。「公園へ来た人に採られることもあるけどね」と苦笑いする。

ファーム内の植物は「ほぼもらい物」で、周辺住民らのベランダ菜園などから持ち寄られた。大きくなり過ぎた、手入れできなくなった植物が集まるという。

「活動する人が70代以上と高齢。清掃も大変。若い人たちへ引き継げれば」と、今後の課題を話す二人。それでも「地域の憩いの場を生涯この手で守りたい」と語った。


ファームの目印は、建物の4階まで届くヤエヤマヤシ。果樹5種、草花10種近くを育てる
 

取材/川本莉菜子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1835号・2021年3月5日紙面から掲載



 

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