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2020年5月22日更新
仏と琉球の融合空間 洗練とカジュアル同居|HOTELに習う空間づくり[12]
当連載では県内のホテルを例に、上質で心地良い空間をつくるヒントを紹介する。
仏と琉球の融合空間 洗練とカジュアル同居 |HOTELに習う空間づくり[12]
ノボテル沖縄那覇(那覇市松川)
空間コンセプト「イージー・リビング」
同ホテルの1階にはフロントとグルメバーがある。仕切りはなく入りやすい雰囲気。なだらかなカーブは、首里城に近い土地柄にちなみ、琉球国王や王妃、高官などの行列をイメージしている。グルメバーはコーヒーやバーガー、ケーキ、アルコールも提供する。持ち帰り可能な商品もある
アクセントに首里城色
首里城のお膝元にある老舗ホテルが2018年9月、生まれ変わった。「外観があまり変わらないので、中に入ったお客さまは驚かれます。内装の変化はもちろん、『明るくなったね!』とよく言っていただきます」とノボテル沖縄那覇のセールス&マーケティングPR課長・福原珠美さんは話す。
築44年の旧沖縄都ホテルを全面改装。玄関を入ると、フロントやグルメバーがある。間に仕切りはなく、天井と床の素材を変えることで空間を区分している。「宿泊される方も、地元の方も気兼ねなく利用していただきたい。気軽に入っていただけるような造りになっています」
グルメバーはダークブラウンを基調にした落ち着いた雰囲気。あちこちにちりばめられた首里城カラーの朱色がアクセントになっている。「当ホテルはフランスのブランドではありますが、地域性も随所に落とし込んでいます」。グルメバーが描くなだらかなカーブは琉球王朝時代、国王や高官が成した行列をイメージしている。
洗練されていながら、カジュアルな雰囲気も漂う。「当ホテルのコンセプトは『イージー・リビング』。機能性を備えたスタイリッシュな空間で、存分にリラックスしていただきたい」。グルメバーには1人用のハンモック席があったり、カウンター席には電源が設置されていたり。家のリビングさながら、リラックスにも仕事にも使える。
取材時も長居をする人が多く、撮影のタイミングに困った。
グルメバーはハンモック席や、カウンター席もある。各席は距離が広めにとられ、ハンモックでのんびり過ごす人、おしゃべりに花を咲かす人、仕事をする人、さまざまな人が互いを気にせず過ごせる。電源、USB、Wi-fiを備えたグルメバーでは現在「テレワークプラン」として、ドリンク3杯付きで1000円(税別)、利用時間は無制限のプランを提供している
機能的な造りで広さ演出
ホテルの客室は、天井高や広さなどで開放感を演出しているところが多い。しかし、同ホテルは昭和に建てられたシティーホテル。限られた面積の中で、いかに開放感と快適さを生み出すかが、改装のカギとなった。
それを機能的な造りでかなえた。分かりやすく表しているのがデラックスツインルーム。洗面脱衣所の壁が開閉式になっている。通常、シティーホテルは玄関扉を開けるとすぐに浴室やトイレなどがあり、その壁のせいで第一印象が「暗い」や「窮屈」になりがち。だが同ホテルは、そうした水回りの仕切りを可動式にして、圧迫感を払拭(ふっしょく)。開けていれば視線が抜け、広々と感じる。
デラックスツインルーム。リビングスペースも備えた部屋で、洗面脱衣所の仕切りが可動式なのが特徴。オープンにしていれば開放感が増す
扉を閉めれば個室になり、機能性もばっちり
客室のインテリアはシンプルながら、ウォールアートが目をひく。描かれているのはクバやユリ。県内のアパレル会社がデザインした。白壁に描かれた植物は、グラデーションの効果で浮き上がって見える。無駄のないフランスらしいスタイリッシュな空間に、神秘的な沖縄のデザインが映える。
スタンダードツイン。シンプルながら、ベッド背面のウォールアートのユリが目を引く。クバが描かれた部屋もある。グラデ-ションの効果で立体的に見えるのも面白い。
全面改装したが、旧ホテルのおもかげを残す空間もある。和食の「登輝(とき)」。カウンター背面の銅板は、旧沖縄都ホテル時代フロント前面に施されていたものだ。ちなみに「登輝」は「のぼてる」とも読める。
リノベーションならではの工夫、そして細部にちりばめられた遊び心も面白い。「ぜひお越しになって、見つけていただきたい」と福原さんは話した。
和食の「登輝(とき)」。カウンター背面の銅板は旧沖縄都ホテルのフロントカウンターに用いられていたもの
取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1794号・2020年5月22日紙面から掲載
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この記事のキュレーター
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- 東江菜穂
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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。