川に消える橋|半自然が生み出す「川文化」|細部から文化が見える|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

スペシャルコンテンツ

建築

2020年4月16日更新

川に消える橋|半自然が生み出す「川文化」|細部から文化が見える

文・写真/後藤道雄(建築家)
橋は、対岸への往来に必要不可欠な建造物です。一方で、増水時は橋の存在が氾濫の元凶となる場合もあります。往来を取るか、水害防止を取るか-。そのバランスを取った橋が徳島県にありました。後藤道雄さんが解説します。


川島潜水橋(徳島県):上写真は平常時、下写真は増水時。橋長285メートル、幅員3メートルの潜水橋。吉野川の下流にあり手前(南側)の吉野川市、対岸(北側)の阿波市を結ぶ。対岸は日本一の川中島の「善入寺島(ぜんにゅうじとう)」。約500ヘクタールで現在は無人島。橋の中央、中州内に阿波市と吉野川市の境界がある。



潜水橋とこんにゃく橋

「昼間見た橋がない!」。
20年前のある日、当時住んでいた徳島県での話。増水した吉野川に橋が消えました。「四国三郎」と呼ばれる吉野川は四国を東西に縦断する暴れ川です。

川幅が海の近くでは1㌔㍍に及ぶ吉野川に架かる橋の中には、増水時だけ消える橋がたくさんあります。流木などが橋にかかり、ダム化して水が堤防から氾濫しないよう、堤防より低い位置に、欄干(橋の手すり)を付けずに架けた橋で、川に潜るように消えることから「潜水橋」と呼ばれています。隣の高知県では四万十川に同様の橋が「沈下橋」と呼ばれて多々存在します。

欄干がないので人や車が転落する危険性はあります。しかし、それよりも洪水による甚大な水害を防ぎたいという考えなのでしょう。

人は物を運ぶため、川に橋を架けますが、吉野川のように川幅が広いと橋脚の数が多くなり、増水時には流木やごみが詰まりやすく洪水の原因になります。水かさが増したとき、水の抵抗を極力減らすためにあえて橋を越えさせて水を流そうとしたのです。強大な自然の力を半分、工学の力を半分取り入れた半自然の「川文化」といえます。
さらに自然の力に身をゆだねた例が「流れ橋」。通称、「こんにゃく橋」と呼ばれています。潜水橋と同じように堤防より低い位置にかけられ欄干もありませんが、なんと増水時は、橋脚を残して木製の床は流れるようになっていたのです。



「こんにゃく橋」と呼ばれた在りし日の浜高房橋(はまたかぼうばし)は、吉野川に流れ込む鮎喰川(あくいがわ)下流部に架かっていた。橋長約210メートル、幅員1メートル。2007年に撤去された。毎年、台風が訪れると橋は崩壊し、そのたびに復旧工事が行われた。洪水時には木製の橋面を取り外す構造。自然に逆らわない橋としては潜水橋の原形とも思える。(徳島市)


自然力を受忍する度量

「こんにゃく橋」の命名の由来は、橋脚からずれ落ちた床がこんにゃく板のように見えるからとか、歩くたびこんにゃくのように揺れるからなどの説があります。

流された床板は水位が下がるとまた元どおり付け替えられます。自然の力にあらがうことなく、流されてはまた作るということを繰り返して対岸の集落と行き来しました。

近代の洪水防止対策は、人間優位の科学文明で水をコントロールする手法が主流でした。川幅を広げて川底を掘り下げ、頑丈なコンクリートなどで堤防をかさ上げして川の断面積を拡大し、一気に早く海に流す方法です。

しかし、昨年の台風19号がもたらした未曽有の豪雨では堤防が決壊し、あちこちで洪水が発生しました。科学一辺倒の川づくりでは野生動植物の生態系が劣化し、景観も損なわれます。

一方、分水路や遊水地を設けて川に流れ込む水の量を減らし、水害を免れたところもあります。人工的に川を作るのではなく等高線に沿ってゆっくり流し、さらに護岸からは石刎ねなどを突き出し、水勢を和らげると同時に、保水力を高める工夫をしている川もあります。

国土の78%が急傾斜地で67%が森林の日本。自然を大幅に改変せず、多少の不便や自然の危険性は受忍した暮らしの中に、地方の「川文化」が生まれたと考えています。




上絵図/安政2年(1855年)作成された菊池川絵図。現代の方法とは逆に水をゆっくり流すため、護岸から石刎ね(小規模はワクと呼ぶ)を突き出させた。加藤清正時代の約400年前から86カ所も造られた。
下写真/現存する石刎ね。曲がり部分は特に水圧がかかるため流速を弱めて堤防を守る狙いがある。いずれもTKU(「テレビくまもと」のビデオ映像から)





城下町・熊本の用水路に遺る石刎ね。加藤清正時代に作られたものと思われる。“治水・土木の神様”と言われた清正に限らず、先人たちは大小さまざまな治水事業を施したが、総じて自然に遠慮しながら必要最小限のアクションにとどめている。





[文・写真]
後藤道雄(建築家)
ごとう・みちお/熊本市出身、北中城村在住。伝統建築「これから」研究会会長、おきなわ環境塾塾長、一級建築士、技術士(建設部門・総合技術監理部門)、APECエンジニア(Civil)環境カウンセラー(市民部門)。受賞歴:水辺のある街提言・最優秀賞、住宅建築大賞、木材活用コンクール・木材技術センター理事長賞、エコロ人大賞など。著書は「きたなか林間学校」「龍の道ものがたり」など


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1798号・2020年4月17日紙面から掲載

建築

タグから記事を探す

この連載の記事

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:871

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る