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2024年6月14日更新

県建築士会会員らが勉強会『RC造建築物の補修&剥落防止』|水分防ぎ 劣化を抑える

鉄筋コンクリート造の建造物は水や塩分などが原因でコンクリートがひび割れたり、剥がれ落ちたりする。県建築士会まちづくり委員会は5月18、19日の両日、RC造建造物の保存・維持を目的とした勉強会とワークショップを名護市と今帰仁村で開催。会員らがひび割れの補修法を学んだほか、剥落を防ぐためコンクリート屋根にウレタン樹脂を塗った。

県建築士会会員らが勉強会 
『RC造建築物の補修&剥落防止』


「SKグラウトプラグA工法」を説明する西川さんの話に耳を傾ける県建築士会の会員ら
 

水分防ぎ 劣化を抑える

鉄筋コンクリート造の建造物は水や塩分などが原因でコンクリートがひび割れたり、剥がれ落ちたりする。県建築士会まちづくり委員会は5月18、19日の両日、RC造建造物の保存・維持を目的とした勉強会とワークショップを名護市と今帰仁村で開催。会員らがひび割れの補修法を学んだほか、剥落を防ぐためコンクリート屋根にウレタン樹脂を塗った。


 ひび割れ補修法 実演で解説 

県建築士会まちづくり委員会の根路銘安史さんは今回の取り組みについて、「沖縄の鉄筋コンクリート(RC)造建築物は100年近い歴史がある。年々、RC造の文化財などは増えており、保存・維持のためには安全性に加えて、元々の建造物の姿を損なわない補修法が求められる」と説明した。講師は土木や建築などの資材の販売・研究開発を行うシーカ・ジャパン(株)の西川勉さんらが務めた。

名護市庁舎で行われた勉強会では注入工法の一つで、ひび割れに樹脂を注入する「SKグラウトプラグA工法」について解説。同工法は「カット充填(じゅうてん)工法」と呼ばれる補修法に比べて、「補修した跡が分かりづらい仕上げになるため、建造物の外観を損なわずにすむ」と西川さんは話す。カット充填工法は割れ目に沿ってコンクリートをU字型などで削るため、補修の跡が目立ちやすくなる=下イメ-ジ図参照


(左)「注入工法」のイメージ図。勉強会では硬質系のエポキシ樹脂をひび割れの奥まで注入し、補修
(右)「カット充填工法」のイメージ図。ひび割れ部を削った後、弾力のあるエポキシ樹脂などを充填する



補修法は西川さんが実演。同庁舎のスロープにあるひび割れに、エポキシ樹脂の中でも防さび効果などがあるものを注入した。「樹脂が内部のひび割れの奥深くまで行き渡り、鉄筋の腐食を防げる」とし、数回に分けて充填していくと付け加えた。

参加者からは「注入回数をわけてもきれいにひび割れは埋まれるのか」という質問などが挙がった。西川さんは「樹脂の粘度を変えて充填。低粘度の樹脂を注入してから、徐々に高粘度のものに切り替えることで、隙間なく充填することが可能」と説明した。

 
保護膜壊れ 鉄筋腐食

2日目にはまちづくり委員会と連携し、今帰仁村中央公民館でワークショップを実施。同公民館の調査・研究をしている東京理科大学の今本啓一教授も駆けつけ、ワークショップの監修を務めた。

コンクリート内の鉄筋は保護膜のようなものに包まれてさびにくい環境が本来あるが、塩分に含まれる塩化物イオンが保護膜を壊してしまうことで、さびやすい環境へと変化。そこに水と酸素が入り、鉄筋に触れることでさび始める。

1975年に建てられた同公民館はコンクリートに除塩されていない海砂が使われた建物の一つで、「塩害」の被害が深刻化。天井や梁はひび割れ、鉄筋が露出している部分が目立っていた。今本教授は「同公民館の塩害悪化は屋根の仕上げ材であるモルタルが劣化して浮き、コンクリート屋根との間に雨水をためこんでいるため」と指摘する。


今帰仁村中央公民館の天井は鉄筋がさび、コンクリートが剥落。このような場所の屋根はモルタルが浮いたり、ひび割れがある

ワークショップでは土木分野で使われている「RTワンガードクリア工法」を応用した。その理由について、根路銘さんは「はけやローラーなどを使い施工しやすいことに加えて、低コストで劣化原因の一つである水の浸入を防げるため」と話す。参加者らは防水性や剥落防止などの効果があるウレタン樹脂をモルタルとコンクリート屋根との間にある段差に塗布。屋根内部に雨水が浸入しないように、約3時間かけて丁寧に塗り上げた。


ウレタン樹脂の性質や塗り方の説明を受ける参加者ら


モルタルとコンクリートとの間、約2センチの段差に隙間なく樹脂を塗り、コンクリート屋根を保護する


塩害対策 今後も追究

​塩害について、今本教授は「塩化物イオン、水、酸素の3要素で鉄筋がさびる。そのうち一つを防げば、被害の悪化を抑えられる」と説明する。

沖縄は1970年前後にできた建物には海砂を洗わずに使用された背景がある。根路銘さんは「まちづくり委員会ではRC造の文化財ほか、住宅などでも塩害被害を抑えられるよう、今後も継続的に活動していく」と述べた。8月にも同公民館で勉強会&ワークショップを予定している。

 

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2006号・2024年06月14日紙面から掲載

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