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2023年5月5日更新

共有名義と認知症[失敗から学ぶ不動産相続⑭]

超高齢化社会で寿命が延びて喜ばしい半面、認知症などで名義人の意思表示能力がなくなり、財産の活用や処分ができずに困っている家族も増えています。

失敗から学ぶおきなわ不動産相続

共有名義と認知症

契約の要は意思表示の可否

超高齢化社会で寿命が延びて喜ばしい半面、認知症などで名義人の意思表示能力がなくなり、財産の活用や処分ができずに困っている家族も増えています。


意思確認で犯罪防ぐ

不動産売却では、大切な財産を守り詐欺行為などの犯罪を防ぐためにも、不動産所有者の本人確認や、売却の意思確認をしっかり行っています。不動産所有者が高齢である場合も本人と面談し、意思表示能力があるか判断した上で名義変更等の手続きを行います。

不動産の所有者が認知症と診断された場合、症状によって意思能力がないと判断され、契約行為は無効となります。今回のケースでいくと、共有名義人である父は重度の認知症と診断されており、契約行為はできません。つまり自宅の売却は不可能となります。

それでは後見人を立てて売却をすればいいのでは? と思われがちですが、被後見人(今回は父)の居住用不動産の売却には、後見人だけでなく家庭裁判所の許可が必要となります。しかし家庭裁判所は、正当な理由のない売却は被後見人に不利益と判断することが多く、許可が下りづらいという現状があります。

以上のことから今回のマンションへの買い替え計画はかなり厳しいと言えるでしょう。

認知症と診断される前に贈与

それではこのご家族はどうしたらよかったのでしょうか。今回、父に物忘れの症状が出て、認知症と判断されるまで数年の時間がありました。認知症と診断される前であれば共有名義者である母へ父の持ち分を贈与するという契約行為ができます。自宅が母のみの名義となれば、母のみの意思で売却することも可能です。

また、本来であれば配偶者間の不動産の贈与も贈与税の対象となりますが、婚姻期間が20年以上であること、居住用不動産の贈与であることなどの要件を満たしていることから、今回の贈与は非課税となります(「おしどり贈与」=右用語説明参照)。

母の健康不安もあるのなら、自宅の名義を父・母から長男または長女に贈与することも可能。この場合も本来であれば贈与税の対象となりますが、「相続時精算課税制度」を利用することで贈与税を抑えられます。

ただし、どちらの贈与も契約行為であるため意思表示能力があることが前提。高齢の家族に認知症のような不安がある場合は、家族や関係者で今後の生活方針や財産の活用・処分について話し合い、専門家の力を借りながらトラブルを未然に防いでいきましょう。
 
【概要と経緯】
相談者は長男。父と母は共有名義で自宅(一戸建て)を所有。現金預金はわずか。数年前から父に物忘れなどの症状が出始め、半年前に重度の認知症と診断され施設へ入所。自宅は築40年を超えて傷みもあるため母が1人で暮らすには安全面の不安も多い。長男や長女の家からも遠いことから、住みやすく交通の便の良いマンションへ買い替えを計画した。

【どうなったか?】
自宅を売却しようと不動産会社に相談したところ、自宅の共有名義人である父が認知症であることから売却に必要な契約行為ができないと判断され、売却自体が不可能だと断られた。後見人を立てようと士業の先生に相談すると「売却に必要な家庭裁判所の許可が下りない可能性が高い」とのこと。長男は買い替えを断念し、母はそのまま自宅に住み続けることになった。
 
【今回のポイント】
・共有名義不動産の売却は共有者全員の意思確認が必要
・認知症と診断された人は、単独での契約行為が無効
・後見人がいても、認知症者名義の居住用不動産の売却は家庭裁判所の許 可が必要
・家族を困らせないための贈与を計画的におこないましょう

用語説明

「不動産取引の意思確認」
売買の当事者と面談し、所有者本人であるか確認の上、最終的に司法書士によって取引の意思があるか確認する。認知症や精神疾患などにより意思確認が困難な場合には成年後見人を立てるが、居住用不動産の売却についてはさらに家庭裁判所の許可が必要となる。


友利真由美/(株)エレファントライフ
[執筆者]
ともりまゆみ/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。
電話=098・988・8247

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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1948号・2023年5月5日紙面から掲載

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