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2023年6月2日更新

家族でも売却止められない[失敗から学ぶ不動産相続⑮]

家族としっかり相談した上で手続きを進めるのが理想ですが、家族の反対を押し切って不動産を売却する方がいらっしゃいます。所有者である本人が売ると決めて契約した後は、本人が亡くなっても売却を止めるのが難しくなるケースが多いのです。

失敗から学ぶおきなわ不動産相続
 

売買契約後に売り主が死亡

家族でも売却止められない

家族としっかり相談した上で手続きを進めるのが理想ですが、家族の反対を押し切って不動産を売却する方がいらっしゃいます。所有者である本人が売ると決めて契約した後は、本人が亡くなっても売却を止めるのが難しくなるケースが多いのです。


相続人全員が売り主に

一般的に不動産の売却を行う流れは、①買い主による購入申し込み②売り主による売り渡し承諾③売買契約締結・手付金授受④買い主購入代金準備(金融機関による融資など)⑤売買代金授受・所有権移転、となります。

今回の場合、被相続人である父が③の売買契約締結後に亡くなりました。このとき「遺言書などで、売買対象の土地を誰が引き継ぐか指定がない」「相続発生後の相続人全員による遺産分割協議で、売買対象の土地を取得する者が決まっていない」という状態であれば、売り主の立場は相続人全員に承継され、相続人全員が売り主となります。そして契約を解除する場合、相続人全員の同意が必要となります。


期限前なら契約解除可能

不動産の売買契約を解除する方法の一つとして「手付解除」があります。(3)の売買契約締結時に買い主から受領した手付金を、契約書に記載されている手付解除期限前に「倍返し(手付金を100万円受領していた場合は、受領済みの手付金100万円と同額の金額を上乗せした合計200万円を返金)」することで買い主の合意なく一方的に契約を解除することができます。また売買契約書に売り主死亡を理由とする契約解除条項が明記されていれば、同じく一方的に契約を解除することができます。
 
今回の場合、手付解除の期限が過ぎていること、また売り主死亡を理由とした契約解除条項がなかったことから、一方的に契約を解除することができませんでした。そもそも相続人の1人である長男は売却に賛成していたことから、相続人全員が契約解除の合意形成ができていないと判断され、契約の解除は不可能となります。

本人に意思能力があると判断される限り、本人が「所有財産を売る」と決めてしまったら、それを止めるのは家族でも難しいでしょう。家族が予期せぬ売却で要らぬ不信感が芽生えることのないよう、家族でしっかりコミュニケーションをとり、相続や財産の内容について話し合う機会を積極的に作りましょう。

 
【概要と経緯】
相談者は被相続人の長女。被相続人である父は、生前に母と長女の反対を押し切り、自身が所有する土地を売却するため買い主Aと売買契約を締結した。その後、所有権移転と売買代金受け取りの前に父は死亡してしまった。
 


【どうなったか?】
相談者である長女は買い主に、売り主である父が亡くなったことを理由に売買契約を無効にしてほしいと伝えた。しかし、買い主はこれを拒否。長男は売却に賛成だったため、相続人全員での合意形成ができないこと、また手付解除期限も過ぎていたことから契約解除は不可能に。その後、売買契約書通りに所有権を移転し、売買代金を受け取ることとなった。
 
【今回のポイント】
・売買契約後に売り主が亡くなると、相続人が売り主の立場を承継する
・契約の解除には相続人全員の合意が必要(遺言書がない場合)
・手付解除の期限内であれば、手付け倍返しによる契約解除が可能


用語説明
「手付解除」
売り主、買い主の合意により定めた手付解除期日までであれば、買い主は「手付け放棄(手付金を放棄すること)」、売り主は「手付け倍返し(手付金を返した上で、手付金と同額の金銭を支払うこと)」をすることによって、理由を問わず不動産売買契約を解除できる。


友利真由美/(株)エレファントライフ
[執筆者]
ともりまゆみ/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。
電話=098・988・8247

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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1952号・2023年6月2日紙面から掲載

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