相続
2023年3月3日更新
借金含め財産相続しない[失敗から学ぶ不動産相続⑫]
相続は財産がもらえてプラスになるばかりではありません。借金もマイナスの財産として相続されることをご存じでしょうか。さまざまな相続の現場では、「相続しない」という決断が必要なときもあります。
相続放棄
借金含め財産相続しない
相続は財産がもらえてプラスになるばかりではありません。借金もマイナスの財産として相続されることをご存じでしょうか。さまざまな相続の現場では、「相続しない」という決断が必要なときもあります。家庭裁判所で要手続き
言葉だけが認知されている「相続放棄」ですが、実際に相談にいらっしゃる方の中には、「相続が発生する前に、相続人予定者に相続を放棄するよう念書を書いてもらえば相続放棄になりますよね?」「借金を相続したくないので『相続放棄する』と遺産分割協議書に書く予定です」などと、お話しする方がかなりの割合でいらっしゃいます。ですが、これらはすべて間違った認識です。
相続放棄とは、被相続人から遺産を相続する権利を放棄することを意味します。法的に有効な相続放棄を行うには、相続が発生したことを知った3カ月以内に、相続放棄を希望する相続人本人が家庭裁判所で手続きする必要があります。
相続発生前に手続きすることはできません。また、念書や合意書を作成したとしても、借金返済を督促する債権者に対抗することはできません。つまり相続放棄の手続きを適切に行わないと、被相続人の債務の返済から逃れることはできないのです。
【概要・経緯】
相談者は被相続人の長女。被相続人である父は生前、離島で事業をしていたが失敗。自宅の土地・建物と多額の借金を残して亡くなった。遺言書はない。長女は財産をもらう気はなく、また離島に残る長男が自宅の土地・建物も含めてすべて相続したいとのことなので、その内容で遺産分割協議書を作成し署名・押印をした。
相談者は被相続人の長女。被相続人である父は生前、離島で事業をしていたが失敗。自宅の土地・建物と多額の借金を残して亡くなった。遺言書はない。長女は財産をもらう気はなく、また離島に残る長男が自宅の土地・建物も含めてすべて相続したいとのことなので、その内容で遺産分割協議書を作成し署名・押印をした。
【どうなった?】
相続から半年後、父に融資した金融機関から長女へ借金返済の督促状が届いた。長女は遺産分割協議書を見せ、父名義の自宅の土地・建物を含む全財産を相続した長男へ請求するよう伝えたが、長男に支払い能力がなかったため、相続人の1人となっている長女への督促は止まらなかった。
【どうすべきだった?】
・父の残した借金がいくらあるのか確認した上で、長男と遺産分割協議をする
・相続放棄について専門家に相談
・相続から3カ月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きをする
・父の残した借金がいくらあるのか確認した上で、長男と遺産分割協議をする
・相続放棄について専門家に相談
・相続から3カ月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きをする
今回のように被相続人にプラスの財産(自宅・土地・建物)とマイナスの財産(借金)が混在する場合、長女のようにそもそもすべての財産を相続する気がないのであれば、相続発生後早々に家庭裁判所で相続放棄の手続きを行いましょう。
自宅の土地・建物を相続したかった長男であれば、それらの評価と借金の総額を確認し、返済が可能であればそのまま相続してもいいでしょう。しかし返済が厳しいのであれば長女と同様に相続放棄の手続きを行うことで、債務を免れることができます。ただし、相続人である長男と長女が相続放棄をすることで、次順位の親族が法定相続人となります。トラブルに発展しないよう、手続き後速やかに次順位の親族へ相続放棄した旨を通知しておくことをお勧めします。
用語説明
「相続放棄」被相続人の財産に対する相続権を一切放棄すること。放棄の対象となるのは預貯金や不動産などプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も含まれる。相続の開始を知ってから3カ月以内に家庭裁判所で手続きが必要。合意書や念書、遺産分割協議書などで相続放棄する旨を記しただけでは、債権者には対抗できない。
[執筆者]
友利真由美/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。☎098・988・8247
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1939号・2023年3月3日紙面から掲載