開けた母屋と別棟 海を身近に暮らす|(有)門一級建築士事務所|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

お住まい拝見

お住まい拝見

2016年2月26日更新

開けた母屋と別棟 海を身近に暮らす|(有)門一級建築士事務所

沖縄県の本島南部、海が見える丘に建つNさん(53)宅は、鉄筋コンクリート造2階建ての母屋と、木造平屋建ての別棟がある。大きな窓から海や自然とのつながりを感じられる空間で、釣った魚を食卓に並べるなど楽しみながら夫婦で暮らす。

お住まい拝見

タグから記事を探す

気分に合わせ居場所選び

Nさん宅 RC造+木造/自由設計/夫婦


広々と開放的な造りの母屋1階リビング。幅約6メートルの大きな窓の先に海が広がる。写真左手のらせん階段を上った2階にダイニング・キッチンがあり、吹き抜けでつながる



東に海を望むNさん宅は、東西に細長い敷地の西側から母屋、プール、別棟がある。母屋の1階はリビングのみで、ダイニングやキッチン、寝室、浴室などのプライベートルームは2階にまとまっている。

吹き抜けになったリビングは、海をパノラマで一望できる幅約6メートルの窓があり開放的。開け放てば爽やかな潮風が吹き込み、内と外がつながる。

窓の外にあるプールと海の水も一体化しているように見え、「プールから海まで泳いで行けそうな気になる」とNさん。2階にいることが多いという夫人(47)は「読書中にふと天井を見上げると、水面に反射した光がゆらめいて幻想的」。

家中どこからでも海が見えるが、その見え方は場所によりさまざま。夫婦一緒にダイニングで、地域の人たちとテラスや別棟でなど、気分やシチュエーションに合わせて場所を選び、酒を楽しむ。「家で飲むことが増えた」と夫婦は声をそろえる。

赤瓦が目を引く別棟は、県外から友人が来るときなどに、ゲストルームとして活用。Nさんは「風景に溶け込み、伝統的な民家の雰囲気も味わえる。友人にも好評」と満足そう。
 


食材は海で調達

県外出身だが以前から度々仕事で沖縄に来て、都会にはないのんびりとした風土や伝統に魅力を感じていたNさん。朝日が昇る様子や海が見える風景を気に入り、土地を購入。県内の設計事務所をいくつか回り、考え方などが一致する建築士に「風景を生かし、自然と一体化する家」を依頼した。

建築士が特に意識して取り入れたのは「海」。例えばキッチンに立つと正面に海が見えるだけでなく、後ろを振り返っても光沢のある食器棚の引き戸にその風景が反射する。「きれいな景色を見ながらなので料理も楽しい」と夫人は喜ぶ。

今でも県外との行き来が多いNさんだが、家にいるときは目の前の海で、潮干狩りやタコ取り、ボートで釣りを楽しむ。捕ったものが食卓に並ぶこともある。住んで2年、ゆったりとした時間が流れる暮らしを夫婦仲良く満喫していきそうだ。


母屋2階のダイニング・キッチン。正面奥には冷蔵庫や食器棚、右にはテレビがあるが、引き戸で目隠しされておりスッキリした印象。南側にある寝室や浴室とは、左奥のブリッジを渡って行き来する。


手前にはテラス=右写真=があり、海の手前に広がる緑も含めた沖縄の自然の風景を見下ろせる


涼しげな水盤があるエントランス。Nさんは「せわしない東京から帰ってきて、玄関を開けたときにこの景色を見るとホッとする」


柱にチャーギ、束石に琉球石灰岩を使った別棟。昔ながらの沖縄の民家により近づけるため、軒の高さは約1・8メートルと低い


玄関前のアプローチ。木のルーバーが日差しを遮り、木陰のような空間になる


西側の道路から見た外観。建物全体が大きなヒンプンのようにも見える


1階テラスからの眺め。赤瓦の建物が別棟で、プールには満月が映りこむこともある
 

ここがポイント
大開口で自然と一体

Nさん宅の設計時、建築士の金城豊さんが配慮したのは「自然との一体感」。夫婦は吹き抜けのある開放的な空間で、木陰に吹くような風を感じる生活を考えていた。金城さんは「母屋のリビングは吹き抜けだけでなく大きな開口部も設け、開け放したときに内とも外ともつかないあいまいな空間で、自然と一体化するようにした」。

海を近くに感じたいとNさんはプールを要望。金城さんは海からプール、プールからエントランスの水盤へと、外部から室内へ海の景色を取り込ように配置した。「赤瓦屋根の別棟という要望や、島が浮かぶ海の景色を考えたとき、浮かんだのが海洋博で見た沖縄館の風景=右イラスト。プールや別棟の配置の参考にした」。

母屋は玄関を入るとリビングがあり、階段を上がってダイニングとキッチン、ブリッジを渡り寝室や浴室へと続く。「玄関から離れるごとに、パブリックスペースからプライベートスペースへと徐々に変化させることで、公私の役割を分けつつ、ゆるやかにつなげた」。

リビングの扉付き収納は、夫婦が東京で使っていたお気に入りのものを再利用。その隣に同質の素材で収納を造り付け、壁一面が統一感のある大容量の収納となっている。

そのほか別棟は窓枠にも木を使っている上、障子や雨戸で室内温度を調整するなど、昔ながらの沖縄の暮らしが体感できるようになっている。


1975年の海洋博開催時の沖縄館(建築士提供)


[DATA]
家族構成:夫婦
敷地面積:729㎡(約220.52坪)
母屋1階床面積:130.48㎡(約39.47坪)
母屋2階床面積:68.48㎡(約20.71坪)
別棟1階床面積:29.81㎡(約9.01坪)
建ぺい率:19.65%(許容60%)
容積率:22.13%(許容200%)
用途地域:無指定地域
躯体構造:鉄筋コンクリート造壁式構造(母屋)、木造軸組み工法(別棟)
設 計:㈲門一級建築士事務所
金城豊、大城壮史
構 造:建築設計・明
施 工:(株)謝花組
電 気:㈲新栄電気
水 道:石橋工業㈱

[設計・問い合わせ先]
(有)門一級建築士事務所
 098・888・2401
http://www.jo1q.com
写 真/高野生優・フォトアートたかの撮影
編 集/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1573号・2016年2月26日紙面から掲載

お住まい拝見

タグから記事を探す

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:2343

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る