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2017年6月30日更新

【建築士の日】沖縄の山奥でモダンに暮らす|アトリエTAKE5

[電気も水道もイチから建築士と二人三脚で]子どものころから父が所有する国頭村の山中で本を読んだり音楽を聴いたり。「ここでくつろぎたい」一心で、ブックカフェ兼住宅を完成させたKさん(35)。「電気も水道もないから無理」と言われた山奥だったが、建築士との出会いが夢実現へ導いた。

電力・汚水処理・食料は自前で​


キッチンから見たカフェスペース。東(左手)と南は壁一面をガラス張りにし、あえて黒いサッシにしたことで、山の緑を絵画のように際立たせた
 

緑ドラマチックに 自然と読書楽しむ


本棚で遮熱・吸音
本棚に収めた書籍が打ち放しの室内で響く音を吸音し、西日対策にも。足元を上げているので圧迫感がなく、湿気やホコリも気にならない

 

建築士と役割分担

建物が建つのは、原生林に迷い込んでしまったような、くねくねと続く細い山道の途中。Kさんいわく「『ここにカフェなんて無理』とだれも取り合ってくれなかった」という国頭村の山奥だ。

電線は2キロ以内なら新たに引くことも可能だが、一番近い電柱まで10キロ以上。水道管も通っていない。Kさんの友人宅を手掛けた縁で話を持ちかけられた建築士の友利正さんは、「ライフラインを確保できる保証はどこにもない以上、安請け合いはできない」と、電力と水をどう確保するかは施主自身で考え、決めてもらうことにした。

電気も水もない場所で暮らすにはどうすればいいか? Kさんがたどり着いたのが、岡山県で活動するNPO法人「自エネ組」の電力自給システムだ。「代表に会いに行ったんです。実際に蓄電池とソーラーで住んでいるのを見て、これならできそうだと」。3.3キロワットのソーラーパネル12枚と蓄電池、管理機器を購入し、パネルを載せる架台は手作り。


発電は自エネ組が提供するオフグリッドシステムを活用。日々の電気は太陽光発電で賄い、余剰分は電気自動車に蓄電=写真。「晴れた日は12~13kw発電し使うのは5~6kw」とKさん。雨天時など発電量が足りない時は、電気自動車にチャージし使用


カフェで提供する野菜は「新鮮なものを」と道向かいにある施主の父自慢の畑で栽培。


「工事やメンテナンスに必要だから」と電気工事士の免許も取得した。水は山の湧き水を高性能ろ過機でろ過し使用。「近くに流れる奥間川を汚したくない」と、汚水処理に「蒸発拡散装置」も設置した。


 
畑の脇に設置した浄化槽=青=と蒸発拡散装置=赤。浄化槽で浄化した水をパイプで奥へ送り、芝の表面積を利用してすべて蒸発させる/写真左。ワイヤーメッシュとビニールシートで手作りした直径2メートルの大鉢で育てている。「イノシシよけに柵をすると閉鎖的なので、来ても登れず、ラクに収穫できるように」とのアイデア/写真右。


費用はかかったが、「元を取りたいわけではない。山が好きで、ここにいたいから」と明快だ。友利さんは「当初は半信半疑だったが、Kさんの熱意にうたれた。施主が望む暮らしを実現できるようサポートするのが建築士の仕事。文字通り二人三脚だったからできたこと」とKさんと二人うなずいた。



内外でギャップ
通りから見た外観はコンクリートの四角い箱。西日よけと騒音対策を兼ね、窓は必要最小限とした。外観はあえて素っ気ない造りにすることで開放的な室内をよりドラマチックに演出する効果を狙った

 

室内は一点豪華主義

空間は「安藤忠雄の建築が好き」なKさんのイメージ通り、コンクリート打ち放しの平屋で計画。「風景がメーンのカフェはいっぱいあるけれど、本を読むには落ち着かない。山の木々を見ながら読書を楽しみたい」との要望を受け、「緑をいかにドラマチックに見せるか」に友利さんは心を砕いた。

敷地は西が接道し、東はすり鉢を縦に半分に割ったように木々が茂る。見晴らしのいい道路側をあえて閉じ、裏手の木々に向けて開いているのは、外観と室内のギャップが生む驚きを演出するためだ。

室内は「コンクリートのシンプルな箱に、幅8.7メートルの大開口を設けた一点豪華主義」と友利さん。木々が見える東と南は壁一面をガラス張りに。黒いサッシは山の緑を絵のように切り取り際立たせる効果がある。天井を逆張りにした壁式ラーメン構造を採用し、内装を省いたことで、柱・梁の出っ張りがないスッキリとした大空間を実現しつつ、コストも削減した。プライベート空間は物置と寝室を兼ねた個室、浴室のみ。緑に抱かれるぜいたくなカフェスペースが、Kさんのリビングダイニングだ。

一帯が自然公園という土地柄、建物を建てるための許可申請に1年、施工業者が決まるまでに1年。足掛け3年半がかりで完成させた念願の城。カフェでは自ら焙煎したこだわりのコーヒーと、菜園で収穫した新鮮野菜を提供。Kさんは「緑だけでなく、朝日や木漏れ日など刻々と変わる光の具合がいい」と楽し気だ。「お客さんの驚き喜ぶ顔がうれしい。カフェがあれば足を運んでくれる。やんばる好きが増えるといい」と笑った。


カフェの入り口。ガラス張りの壁一面から透けて見える緑が、室内への期待感を高めている。入り口までのアプローチも、コンクリートやレンガで整備せず、あえて自然の雰囲気を残した


DATA
家族構成 :1人
敷地面積 :1180.69平方メートル(約357.15坪)
1階床面積:98.76平方メートル(約29.87坪)
建ぺい率 :9.17%(無指定)
容積率  :8.36%(無指定)
用途地域 :都市計画区域外
躯体構造 :鉄筋コンクリート造壁式ラーメン構造
設   計:AtelierTAKE5 友利正・小谷みゆき
構   造:(株)アサヒ建築設計研究所 本間壽雄
施   工:(有)山口建設 上原淳也
電気・水道:国光電気工事社 金城光伸
 

設計・問い合わせ先

アトリエTAKE5
098-890-3052
http://a-take5.com/

 


写真/比嘉秀明 編集/徳正美
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1643号・2017年6月30日紙面から掲載(
2017年7月1日は建築士法施行日にちなみ「建築士の日」)

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