仕切らずオープンに|(有)長谷部建築研究所|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

お住まい拝見

お住まい拝見

2016年9月16日更新

仕切らずオープンに|(有)長谷部建築研究所

具志堅司さん宅は、金武湾を望む高台に建つ、鉄筋コンクリート造2階建て。1階は妻・一枝さんが経営するカフェで、住居は2階。眺望が魅力のオープンな空間で集いを楽しむ。

海望む高台に店舗併設の住宅

具志堅司さん宅 RC造/自由設計/家族3人

2階和室からLDKを見る。北東(写真左)から南西へゆるやかに傾斜する天井は高さ最大4.3メートル。白とダークブラウンでシックにしつらえた空間は高窓からも光が注ぎ、明るく開放的だ


集う楽しみ充実
沖縄県本島中部、うるま市の街並みと金武湾を一望する静かな住宅地。「眺めの良さが気に入った」土地に、2階建ての店舗兼住宅を建てた具志堅さん夫妻。住居は2階。建物南側にある階段を上り玄関へ向かう。
家づくりで夫妻が重視したのは、人が集まってゆっくりくつろげること。「だから部屋はなるべく仕切らないようにしたかった」と司さん。室内は白とダークブラウンで落ち着いた雰囲気にしつらえた。見晴らしのいい北東側にあるLDKは、隣接する和室や多目的スペースの引き戸を開け放って一体的に使う。吹き抜けの天井、掃き出し窓からの眺めで開放感たっぷり。一枝さんは、「月も星もすごくきれいに見える。ここにいると空が広く感じます」とにっこり。
一枝さんのお気に入りは、キッチン脇に設けた家事室。空色の壁紙がさわやかな空間は、「リラックスしたり、書類に集中したり。母親と仕事の顔、自分自身の気持ちを切り替える場になっています」。

図面を酒のつまみに
他市でアパート暮らしをしていたが、「自分の好きな家を建てよう」と思い立つ。司さんの地元に理想の土地が見つかり購入した。当初の構想は自宅と家庭菜園。しかし、沖縄の伝統芸能に携わり演出も手掛ける司さんと、ラジオやナレーションなどで活躍する一枝さん。「二人が関われる店を作ろう」と構想が膨らみ、録音スタジオやステージを備えたカフェも併設することに決めた。
設計は、司さんが携わる団体のメンバーの父親に依頼。「自分たちにはない感性やアイデアに基づいた提案があって、新鮮でした」と司さん。配色と照明のプラン、機器選びは自ら手掛けた。「図面を酒のつまみに夜な夜な構想を練って、楽しそうでしたよ」と一枝さんは振り返る。
キッチンが大好きという長女・紅音ちゃん(4)は、食事の支度などお手伝いも積極的に。「お店のスタッフを見て、まねしたいみたい」。思わぬところに店舗併設の効果が。一枝さんは、「自宅をもっと活用できるよう、もう少し余裕を持って暮らしを楽しみたいですね」と思いを巡らせた。


リビングから多目的スペースを見る。引き戸を開け放って一体的に使う。大勢での集いを意識して、廊下も広くとっている。廊下のスポット照明は、司さんの遊び心で片側に並べた


2階LDK北東側に延びる広いテラスは眺めが抜群。テーマカラーの赤を庇裏に塗った

 


キッチン脇に設けた家事室。普段は一枝さんが書類整理やリラックスタイムに活用するが、行事などで人が集うと女性陣のくつろぎの場に変わる

 

ここがポイント
動線分け空間にリズム

具志堅さん宅は、高台の角地に建つ。夫妻が最も重視する眺めを楽しめるよう、建物は1階の店舗、2階の住宅ともに北東へ大きな開口部を設けた造りになっている。
設計では家族と客が互いを意識せず、くつろげることを重視した。まずは店舗と住居の動線分け。住宅は南西に、店舗は北東側に出入り口を設けた。
1階の店舗には、音響・録音スタジオやステージがある。ライブなどの際の音に配慮し天井には吸音材を張り、天井高も3・6メートルと高く取った。
2階の住宅はLDKが北東側に面しているが、テラスの奥行きを4・2メートルと深く取ったことで「駐車場からも2階が見えにくくなり、お客さまも住宅の存在が気にならない」と、建築士の川満ゆき子さん。
2階のLDKは北東から南西にゆるやかに傾く勾配屋根で、天井高最大4・3メートルの吹き抜け。高窓から入る自然光は、中央部にある多目的スペースや廊下まで届く。
建築士の長谷部廣さんは、「高さや形など、視覚的な変化は子どもの感性を育むにも有効。お子さんのいるお宅なので、日常の空間で非日常の経験ができるよう遊び心を大事にした」と話す。
外観もリズム感を意識。建物の西面は司さんが携わる芸能にちなみ、龍の背のうねりをイメージした円形にした。住宅では円形部分に水回りや物干し場などを配置することで、曲面を生かしながら空間を無駄なく活用している。


2階LDKに隣接する和室。中央は仏壇スペース。右端の床の間には、司さんが陶工に依頼して作ってもらった龍と獅子のオブジェを据えた。オブジェの重量を支えるため床材にはトラバーチン(琉球石灰岩)を用いた


住居への出入口がある南西側の外観。円形を取り入れ、動きをつけた


1階にあるスタジオカフェ「ROSSO×ROSSO」。赤と黒にこだわった店内、中央奥はステージ。「地域のランドマークになっていきたい」と一枝さん


東側にあるカフェのアプローチ。壁は焼き杉の型枠で模様付け。隣家との境界は圧迫感のないよう、黒のアルミを波のように交差させたオリジナルのフェンスを用いた


[DATA]
家族構成:夫婦、子ども
敷地面積:663.54㎡(約200.72坪)
1階床面積:154.81㎡(約46.8坪)
2階床面積:138.88㎡(約42.0坪)
建ぺい率:30.63%(許容60%)
容積率:43.81%(許容200%)
用途地域:未指定
躯体構造:鉄筋コンクリート造ラーメン 構造
設 計:(有)長谷部建築研究所
長谷部廣、川満ゆき子、山城優
構 造:(有)ジュンアソシエイツ
施 工:(有)前堂建設
厨 房:マサステンレス工業(株)
外構フェンス:(株)シマ

[設計・問い合わせ先]
(有)長谷部建築研究所
 098-930-0874
http://hasebeokinawa.com
写真/泉公 ララフィルム撮影
編集/比嘉千賀子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1602号・2016年9月16日紙面から掲載
 

お住まい拝見

タグから記事を探す

この記事のキュレーター

キュレーター
比嘉千賀子

これまでに書いた記事:146

編集者
住まいと暮らしの情報紙「タイムス住宅新聞」元担当記者。猫好き、ロック好きな1児の母。「住まいから笑顔とHAPPYを広げたい!」主婦&母親としての視点を大切にしながら、沖縄での快適な住まいづくり、楽しい暮らしをサポートする情報を取材・発信しています。

TOPへ戻る