庭・garden
2019年3月22日更新
植え付け前に深く掘る|ハルサー×野菜ソムリエ
野菜ソムリエの資格を持つ奥間美佐江さん(54)は、育てるところから食べるところまで野菜をとことん楽しむ。「硬い土でも、ある程度深く掘って耕してから植えると、育ちやすくなる」など家庭菜園のコツと、おいしい食べ方を教えてもらった。
青空の下、耕運機で作業する奥間美佐江さん
野菜自給率アップ目指して
家庭菜園、と呼ぶには広い約250坪の土地。そこで野菜やハーブなど40種類以上を育てる奥間美佐江さん。物腰の柔らかい雰囲気が印象的だが、細腕で耕運機を動かす姿は力強い。
奥間さんが野菜を育て始めたきっかけは約20年前、実家の畑を手伝い始めたことと、日本の食物自給率が低いと知ったこと。「自分だけでも自給率を上げてみようかな」と思ったという。
「最初は観葉植物も枯らすほどだったのですが、種をまけばまた芽が出て育つことに楽しさを覚えて。興味を持つとどんどん植えていきました」
2009年には、「農家さんや食品関係の人からいろいろな情報をもらえたら」と思い、野菜ソムリエの資格も取得。イタリア野菜なども育てるようになり、野菜作りにのめりこんでいった。
そんな中、3年ほど前に、母が「サトウキビ畑を誰かに貸そうかと考えている」と話し出した。「それなら」と奥間さんは「自分で畑をやりたい」と申し出た。
奥間さんの畑の全景。約250坪の土地で野菜やハーブなど40種類以上を育てている
ジャーガルでも育つ島野菜
初めから順風満帆だったわけではない。その大きな要因が土壌。粘土質のジャーガルで、硬く、水はけも悪かった。土壌が硬いと根が伸びにくくなり、作物がうまく育たないという。
そこで、土壌を掘り返すことからスタート。広さがあるのでユンボを使った。「それだけでもサクナやハンダマなど、島野菜は根付いてくれました。やはり在来のものは強いですね」。その後も、茎の中の空気を土中に混ぜるためコスモスを植えてすき込んだり、堆肥を投入するなどして、土を軟らかくしていった。
種をまく前に工夫も。作物が根を伸ばしやすいよう、事前に50~60センチ掘り、さらに耕運機をかけて、うねも作る。「そのおかげか、今期はトマトも病気をしていません」。土中に大きくなる根菜なら、より多めに耕したりもするという。
【硬い土壌で育てる工夫】
① 植え付けする場所を掘る
② 50~60センチほど掘ったら、そこからさらに耕す
③ 堆肥を混ぜながら土を戻す。植え付け場所はうねも作る
そうして育てた野菜は自分で調理して食べたり、カフェで使ってもらったりしている。「自家製の野菜だけで料理ができたときはすごくうれしい。1月から5月くらいまではそれができるので、今はとても楽しいです」と奥間さん。野菜のおいしさとともに、育てる魅力も伝えていく。
育てるポイントとオススメの食べ方
サクナ
ビタミンC、カロテン、カルシウムのほか、ポリフェノールが多く含まれ、抗酸化作用が期待される島野菜。種まきの時期は問わず、何もしなくても育つが、大きくなるのに半年以上かかったという。「少し日陰の方が芽が出やすい。食べるときは、葉を油で素揚げするだけでおいしい」。奥間家ではシソの代用に使うことも。
サクナの種。大量の種ができるので、増え過ぎに注意
サクナの若葉。「生のまま刻んで、おかかやしょうゆで味付けして食べるとおいしい。家庭菜園ならではの味です」
油で1分ほど素揚げし、塩をまぶしたもの。揚げる際は油はねに注意。「スナック菓子のようにパリッとした食感でおいしく食べられます」
ハンダマ
根元を確認し、小さな根が伸びていればその部分をカットして植えるだけで育つ。「スーパーで買ったものでも、水に入れておくと根が出てきます。あえ物にして食べることが多いですね」
ハンダマの根元。横から新しい根が伸び始めている=赤丸部分
ハンダマとタマネギのあえ物。ハンダマはサッとゆで、水気を絞ってザク切り。サラダ油、シークヮーサー果汁、きび砂糖、塩をよく混ぜて、ハンダマ・タマネギスライスとあえれば完成。天ぷらやサラダも美味
スイスチャード
フダンソウとも呼ばれる。葉をとっても次々と生えてくるので、長期間収穫ができる。「夏場は遮光ネットをかけてあげて。カリウム、カルシウムなどのミネラル成分やカロテンを多く含むので、夏バテ予防にもなります」
スイスチャードの畑。葉に泥が付かないよう、防草シートで地面を覆う予定
葉を取るときに根元にヨトウムシがいないか確認。葉を取った後、茎の一部が残っていると軟腐病になりやすい。「特に水分を含んだもの=下写真=はすぐに取り除いて」
スイスチャードをベーコンと炒めたもの。シュウ酸を含むので、たっぷりのお湯で下ゆでしてから調理する。「ベーコンやツナ缶と炒めたり、刻んだニンニクとしょうゆで味付けするとおいしく食べられます」
今の時期に植え付ける作物
ヤマイモ
1 掘り起こしたヤマイモの上部分=赤丸=をその場でカットし植える。「下部のイモは自分たちで食べます。本には『下部を植える』と書いていたのですが、この畑ではヤスデがたくさん出てしまったので。イモの頭頂部からでも大きくおいしく育っていますよ」
2 1の赤丸部分の切断面を下にして植える。土は頭が少し隠れるくらいまでかぶせる。10カ月ほどで収穫できる
※光を多く当てて早く育てるため、奥間さんの畑ではつるが小屋の屋根をはうように誘因する。「小屋が涼しくなることも期待しています」
枝豆
1 手の第2関節ぐらいの深さの穴を掘り、枝豆3~4粒をまく
2 土をかぶせたら、かかとで軽く踏む
※1 今回は早く育つ早生(わせ)種を使用。「花が咲くときに水が切れるとダメ。6月ごろに収穫予定なので、花が咲くのは梅雨時と重なり、ちょうど良い」
※2 奥間さんの畑では豆類を多く植えている。その理由として「豆は植物に必要な栄養の一つ『窒素』を固定し、土を肥やしてくれます」
おくま・みさえ/野菜ソムリエプロ、沖縄野菜プロジェクト協同組合理事
編集/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1733号・2019年3月22日紙面から掲載
この記事のキュレーター
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- 出嶋佳祐
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編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。