泊まって感じる古きよきコザ(沖縄市)|オキナワンダーランド[34]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2019年1月11日更新

泊まって感じる古きよきコザ(沖縄市)|オキナワンダーランド[34]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

トリップショットホテルズ・コザ(沖縄市)


沖縄市のトリップショットホテルズ・コザは、「ウチナーンチュ目線から見た古きよき沖縄の魅力」を伝えることをテーマに、元キャバレーや元バーといった空き店舗を活用した宿を運営する

 

数百メートルにわたって街を緑に彩る並木や、歩道の上に白い雲のように浮かぶアーケード屋根が印象的な景観を形づくる沖縄市の商店街、中央パークアベニュー。通りに建つ一軒の古い建物の扉を開けて、どことなく謎めいた薄暗い階段を上ると、そこは数十年前のコザだった。


「こちらの客室は、昔キャバレーだった空き店舗を改装した部屋です。当ホテルが運営する5室の中で一番インパクトが強いお部屋で、だいたいのお客さまは入るなり歓声をあげます」


パークアベニューで空き店舗を活用した宿泊施設を運営するTripshot HotelsKoza(トリップショットホテルズ・コザ)のスタッフ、風間めぐみさんが、キャバレー時代の店名「セントラル」をそのまま客室名にした部屋を案内してくれた。


「ここにあるバーカウンターも、ゲーム機付きのテーブルも、古いロッカーも、キャバレー時代のものです。棚に並ぶ酒瓶も、倉庫に眠っていたものを出して並べています。飾りなので飲まないでくださいと、お客さまには注意しています(笑)」


トリップショットホテルズ・コザの客室は、元キャバレー、元バー、元美容室と、どの部屋もユニークな履歴を持つ。普通のホテルなら、キャバレーやバーだった過去の痕跡を消したり隠したりするだろうが、このホテルは違う。むしろ当時の内装や家具を積極的に残して見せる。


「せっかくあるユニークな個性を消すのではなく伸ばす、というのが当ホテルの考え方です」

そう語るのはホテル代表の島袋武志さん。数年前にホテル業に参入して以来、“沖縄再観光”をテーマに地元目線から見た沖縄の魅力を発掘して伝えている。


「沖縄の観光というと、青い海、青い空のリゾートばかりがイメージされがちですが、沖縄出身者として、ウチナーンチュの目線から見た古きよき沖縄のアイデンティティーや魅力をお伝えしたいと思っています」


その目的にかなう場所として、島袋さんは若い頃によく遊びに来たパークアベニューを選んだ。


「あの頃のパークアベニューは、服飾店や雑貨店が建ち並び、今の国際通り並みににぎわっていました。土日ともなると人と肩がぶつからずには歩けないほどでした。当時の光景を目に焼き付けている世代の一人として、あの頃の楽しさや高揚感を再現したい思いがあります」
 

「国際通り並みのにぎわい」は、競合する商業施設が増えるにつれて徐々に通りから消えていった。今では買い物客はまばらで、シャッターを下ろした店も目立つ。しかし島袋さんは、数十年前の風景や建物がタイムカプセルでずっと保存されてきたようなこの場所に大きな可能性を感じている。現在五つにとどまる客室を今後2年間で一気に40室まで増やす計画だ。


「40室できれば、多くて100人以上のお客さんが毎日アベニューを歩くことになります。そうしたら街が劇的に変わると思いませんか? 古い建物を宿にリノベーションするのは今のはやりでそう珍しくない。僕らが目指すのは、宿を起爆剤にして街をリノベーションすることです」

 
古びた建物も、往年の活気を失った商店街も、沖縄の風景や歴史の一部であり、青い海と同じく観光資源。島袋さんのそんな発想が沖縄の観光に斬新な新風を吹き込もうとしている。



元は美容室だった客室。昔ミュージシャンだったホテル代表、島袋武志さんのアイデアでロックスターの部屋をイメージして改装。金色のソファや赤いカーテンがゴージャスな雰囲気を演出する


おとなの隠れ家風の部屋に変身させた元バー。合わせて五つある客室はそれぞれが異なる個性を持つ。「部屋ごとに雰囲気が違うので、一泊ずつ泊まって全室制覇したお客さまもいます(笑)」とスタッフの風間めぐみさん


フロントを兼ねたカフェ。ここでチェックインした後、街に点在する客室に案内される。運営責任者の神山繁さんは、「コザには独特の景色や音や匂いや空気がある。街全体をホテルのラウンジと見立てて楽しんでほしい」と話す


かつては買い物客がひしめいたパークアベニュー。宿で街を変える、というビジョンのもと、島袋さんはこの通りと周辺に計40室をオープンする計画だ。本島北部や南部でも同様の宿泊施設を展開することを考えている


トリップショットホテルズ・コザ
070‐5489‐3969


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。
元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<34>
第1723号 2019年1月11日掲載

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