植物とたわむれ 建築美にひたる(本部町)|オキナワンダーランド[40]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2019年7月12日更新

植物とたわむれ 建築美にひたる(本部町)|オキナワンダーランド[40]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

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熱帯ドリームセンター(本部町)


日本随一の栽培品種数、展示数を誇るランをはじめとする熱帯、亜熱帯植物の膨大なコレクションと、非日常感に満ちた建築。熱帯ドリームセンターは二つを同時に観賞できる植物園だ

 

温室に足を踏み入れるなり、ピンクや紫色をしたランの雨が降ってきた。いや、実際に降ったわけではない。大量のランの鉢が頭上から垂れ下がるさまが、熱帯ジャングルに降り注ぐスコールを思い起こさせたのだ。

「まるで本物の自然の中で、木や岩場に着生するランを見ているように感じていただきたい。そのために、ランをただ陳列するのではなく、天井からつり下げる立体的な展示をしています」
 
海洋博公園内の植物園、「熱帯ドリームセンター」。その運営に携わる沖縄美ら島財団の島袋林博さんは造園の専門家だ。植物を育てるのと同じくらい、見せ方を工夫することが植物園にとって大事だと熟知している。

「植物をうまく育てられるとうれしいものですが、育てた花木をお客さまが見て喜んでくれるほど我々にとってうれしいことはありません。お客さまに足を運んでいただけるよう、園ではさまざまな取り組みを行っています。その一番いい例が“扉”です」

昨年秋、ドリームセンターのシンボルとも言える「遠見台」を背景にしたがえる中庭に、一枚の青い扉が忽然と現れた。ヨーロッパの街角で目にしそうなおしゃれなアンティーク調のこの扉、実は誘客を強化するために外部からの提案などを参考にして設置したものだ。

「(ドラえもんに出てくる)“どこでもドア”のような扉があればよいフォトスポットになりそう、とインターネット上で影響力を持つ“インフルエンサー”の方からご提案をいただいて設置しました。以来、中庭で写真を撮る方が増えました」
 
“インスタ映え”する新スポットが加わる以前から、ドリームセンターは元々絵になる植物園だ。沖縄国際海洋博覧会の開催から約10年後、東京の設計事務所、日本設計のデザインにより建てられた建物は、古代遺跡を彷彿とさせる砂漠色のれんが壁や、中近東の雰囲気をたたえた遠見台や回廊、真冬でもモネの印象画のようにスイレンが咲く蓮池といった見せ場がちりばめられ、展示された植物の美しさにも負けない建築美にあふれる。
 
「魅力ある植物園をつくるには、展示植物だけでなく、植物の“器”である建物にも見るべき価値がなければ、という意気込みで設計した建物です」

設計チームのメンバーの一人、大野二郎さんがそう言ってある裏話を教えてくれた。園内のそこかしこに建つ遺跡風のれんが壁は、ただの“お飾り”的な壁ではなく、台風や冬場の潮風から植物を守る役目を担う防風壁なのだが、その位置や高さは綿密な風洞実験によって決められた。
 
「当時はまだ高性能なコンピューターがなかったので、20分の1の模型を作り手作業で実験を行いました。その結果、壁が風速を半減させることが分かった」

壁に張ったれんがも特注品で、遺跡っぽい感じに仕上げるために職人の手で表面をデコボコに加工したという。
 
「ここまでやるかと思うほど、細部まで手をかけた建物です」
 
開園から33年の今、設計チームの情熱が形になった建物は芳醇な経年の味わいを帯び、豊かに成長した南国植物と互いに引き立て合って施設名通りの夢空間をつくり出している。植物園として円熟味が増したドリームセンター。これからが見頃だ。



約1700種、7万株のランを保有し、常時2000株以上を展示している。いつでもあふれんばかりの花が見られるようにと、多い日で100鉢以上、花が終わった鉢を花つきのよい鉢に入れ替えている



北に閉じ、南に開いた円弧状の防風壁が展示植物を台風や冬の潮風から守る。「壁のおかげで園の中と外とでは同じ植物でも痛み具合が違います。台風時の倒木も中の方が少ないです」と運営する沖縄美ら島財団の島袋林博さん



遺跡のような雰囲気を出すために、かち割ったれんがの割れ面を表にして防風壁に張ってある。壁が曲線形なのは、「沖縄のグスクを若干意識して設計したから。風を逃がす形でもある」と設計チームの一人だった大野二郎さん



毎年人気の沖縄国際洋蘭博覧会や冬のチューリップフェアー、家族連れに好評な昆虫展など年間を通してイベントを行っている。春の「ベゴニア展」では5万株を展示。遠見台横の回廊=写真=にはベゴニアの“絵”も描かれた


◆海洋博公園 熱帯ドリームセンター
0980‐48‐2741


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景





[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<40>
第1749号 2019年7月12日掲載

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