建築
2019年3月29日更新
故郷の自然や風 建築で表現|JIA沖縄支部主催 第22回卒業設計作品選奨
建築系学生による卒業設計の中から優れた作品を選ぶ「第22回卒業設計作品選奨(日本建築家協会(JIA)沖縄支部主催)」が2019年3月23日、那覇市で開かれた。最優秀賞には仲間研人さん(西日本工業大学)が設計した「空気の建築」が選ばれた。仲間さんは、2019年6月に開かれる全国大会に出場する。
「第22回卒業設計作品選奨」で入賞した学生(前列)と審査員を務めた建築士ら
社会問題に建築的「解」
2018年度の卒業設計の中から優れた作品を選考する「第22回卒業設計作品選奨」では、ごみ問題や出生率の低下、地方の画一化などの社会的な問題に対し、高校生や専門・専修学校、大学の学生たちが建築的な改善策を提案した。
専門・専修学校部門で優秀賞を受賞した仲里晃輝さん(沖縄職業能力開発大学校)は、老朽化が進む普天間小学校の建て替え計画案を発表した。将来、児童数が減ることを想定し、教室の壁を可動式にしたり、地域の人々が気軽に入れるようオープンスペースを設けるなどの提案をした。審査委員の伊東まことさんは「しっかり調査をして計画したのが分かる。だが、部分部分の説明が多く、学校の全体像が見えないのが残念」と話した。
ゲスト審査委員である芦澤竜一賞を受賞した仲川凜さん(琉球大学)は、パンク状態になりつつあるペットボトルのリサイクル問題を解決する施設「Cyclude」の設計案を発表した。ペットボトルを球体の「ペットボール」に加工し、斜めになった屋根の上を転がして移動させながらストックする工場で、「リサイクルの期間を遅らせるとともに、ごみ増加がひと目でわかるようにした」と説明した。芦澤さんは「『貯蔵』に重きを置いた新しいビルディングタイプだが、肝心のボールの見せ方が甘い。屋根にストックすると見学者から見えづらい」と指摘した。
最優秀賞を受賞した仲間研人さん(西日本工業大学)は、故郷・宮古島の原風景が消えかけていると、島の自然や風を感じさせる「空気の建築」を提案。「宿泊施設でも商業施設でもない、島の空気を五感を通して感じさせる」展望台で、外壁に金属の布を用いて空気の流れを見せたり、コンクリート打設の際も「布式型枠」を用い、布のゆらぎにより「壁もオブジェのように」見せる計画などを発表した。審査員の漢那潤さんは「宮古の現状を踏まえ、かっこいい建築をつくろうとする心意気は分かる。完成度も高いが、問題設定に無理がある感じがした」と話した。
審査委員長の伊良波朝義さんは「全体的に作品の完成度は高かった。だが、それをプレゼンするのは難しかったのではないか。人に見せることで、作品は育っていく。ぜひ次に生かしていただきたい」と総評した。
仲間さんは6月に東京で開かれる全国大会に出場する。
最優秀賞
「空気の建築」仲間研人さん(西日本工業大学)
◆リゾート開発で伐採された木々と、そこから出た残土で「森」を造り、その中に展望台を設ける計画。建物の外装には金属製の布を使用。またコンクリート打設の際も布式型枠を使い、布のゆらめきがオブジェのような表情を見せる。こうした外装や内装、森の木々が島に流れる風を感じさせ、島の空気を人々に感じさせる。
仲間研人さん
【受賞コメント】構想から半年。どう「空気」を見せるか苦慮した。そのかいあり、納得いく作品が出来た。6月に開かれる全国大会に向け、皆さんにきちんと思いや計画を伝えるためのプレゼン力を磨きたい。4月からは県内の設計事務所に勤務する。今後も「沖縄の建築」を自分なりに考えながら、設計に励みたい。
「卒業設計作品選奨」その他入賞者
優秀賞(高校の部)…「旅館」比嘉恵佑さん(美里工業高校大学)
優秀賞(専修・専門学校の部)…「宜野湾市立普天間小学校の建て替え計画」仲里晃輝さん(沖縄職業能力開発大学校)
芦沢竜一賞…「Cyclude」仲川凛さん(琉球大学)
佳作(高校の部)…「移動手段が容易な学校」後原朝宝さん(沖縄工業高校)
佳作(専修・専門学校の部)…「文化交流を拠点としたリノベーションまちづくり」冨里好司さん(沖縄職業能開発大学校)
佳作(大学の部)…「子供の声が聞こえる街」森田聖也さん(琉球大学)
沖縄未来建築塾 住宅アイデアコンペ
若き建築家が熟考「沖縄の家」
最優秀賞を受賞した金城さん(右)に、表彰状を手渡す當間審査委員長
最優秀賞に金城さん
JIA沖縄支部が主催する「沖縄未来建築塾」は、45歳以下の建築家を生徒とし、県内外で活躍する建築士から沖縄の建築の歴史や、住宅設計、街づくりを学ぶ場だ。2019年3月23日には、塾生による住宅設計コンペが開かれた。塾生は「沖縄の住まい」を熟考し、さまざまな提案を行った。
6作品がエントリーし、最優秀賞を受賞したのは金城直希さん((有)門)。公園に隣接する場所にあることから「地域住民の往来する」と考え、住宅は敷地の3分の1程度の大きさにとどめ、周囲に開放する空間を設けた。また、鉄筋の代わりに竹を用いた竹筋コンクリートブロック製の躯体や木の軸組みの混構造にし、「チャンプルー文化」を表現した。
審査委員長の當間卓さんは「居室は最小限でストイックな印象ながら、地域の人たちに開くというおおらかさもある。提案性のある住まいだった」と評価した。
最優秀賞
「混在の家」金城直希さん((有)門)
◆居室は最小限。台所のある板間と寝室である畳間、トイレとシャワールーム、浴槽を設けたテラスのみ。外部空間を充実させた。東側道路との境にヒンプンを設け、居室との間の小道は地域住民が公園へ行く路地として提供。くつろぐ住人と通行人が混在する不思議な空間。現代には無い価値観で新しい生活様式になり得るのではと考えた。
〈住宅コンペの課題〉
住所:南風原町津嘉山の住宅地
(公園に隣接、道路を挟み向かいに3階建てアパート)
敷地:200平方メートル
用途:戸建て住宅
構造:自由
家族構成:自身の未来を想像し設定
「沖縄未来建築塾住宅アイデアコンペ」その他の入賞者
優秀賞…桃原安祐子さん
(㈲K・でざいん)
優秀賞…二階堂将さん
(㈲門一級建築士事務所)
琉球浪漫2019 沖縄建築展
JIA沖縄支部は年に1度、会員の作品展示や著名建築家による講演会(2019年は芦澤竜一さんが「場所と建築」を講演)などを柱とし、広く県民に建築士の仕事を知ってもらう「沖縄建築展」を開催している。2019年は3月19日~24日に県立美術館・博物館で開催した。卒業設計作品選奨や未来建築塾住宅設計コンペもその一環。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1734号・2019年3月29日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 東江菜穂
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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。