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2016年6月3日更新

中庭囲み伸びやかな女学校舎「自由学園」|ライトの有機的建築に学ぶ[2]

環境に調和する「有機的建築」を提唱・実践したフランク・ロイド・ライトが、東京・池袋で手掛けた女学校「自由学園」。自身の設計思想に、中庭を取り囲む日本建築の空間構成を取り入れた素朴で伸びやかな建物は、いまなお多彩に活用されている。

日本建築の要素踏まえ


東京の池袋にある自由学園(1922年)を道路から眺めた外観。緑の芝生にクリーム色の外壁のコントラストが映える/写真


帝国ホテルの工事現場には、ライトに常に影のように寄り添う若き日本人建築家の姿がありました。当時の支配人だった林愛作に見いだされて、ライトの弟子となった遠藤新(筆者の祖父)です。

互いの建築に対する真剣な姿勢に共感した二人の間にはいつしか深い信頼が生まれ、「My son(わが息子)」「おやじ」と呼び合う仲になっていました。

ライトは帝国ホテルを世界に誇れる建物とするべく尽力しましたが、その結果として建設費と工期は大幅に膨らみ、一刻も早く開業したいホテル側との間に軋轢が生じて、建物の約半分が完成した時点で、ライトは遠藤新に後を託して帰国を余儀なくされます。



自由学園の模型。中央の芝生を、奥のホールと食堂、左右の教室がコの字型に囲む配置は、われわれになじみの深い神社仏閣の空間構成を取り入れている/写真


重要文化財にも指定

その時ライトにはもう一つ日本でやり残した仕事がありました。東京の池袋にある自由学園(1922年)という小さな校舎です。

学園の創設者である羽仁吉一・もと子夫妻は、自分たちの娘を通わせるのにふさわしい、女子教育のための学校を作ろうと考え、同じ教会に通っていた遠藤新の紹介でライトに設計を依頼しました。

この依頼を快諾したライトは、帝国ホテルと同じく中庭を取り囲む日本建築の空間構成に、自身がアメリカで手掛ける、平らかな草原に低く水平に展開する「プレーリーハウス」(草原住宅)の設計思想を取り入れて素朴で伸びやかに広がる女学校の校舎を生み出したのです。

その後、男女共学となった自由学園は遠藤新が設計した東京郊外のキャンパスに移り、旧校舎は1997年に重要文化財の指定を受けて大改修が行われました。

現在は「明日館」と名称を変え、結婚式場やコンサートホール、ドラマやCMの撮影などさまざまに利用されており、ライトの建築の魅力をわれわれに伝えてくれています。




食堂の高い天井には、印象的なデザインの照明器具がつり下げられている/写真

 

[執筆]遠藤現(建築家)
えんどう・げん/1966年、東京生まれ。インテリアセンタースクールを卒業後、木村俊介建築設計事務所で実務経験を積み独立。2002年に遠藤現建築創作所を開設し現在に至る。

 
『週刊タイムス住宅新聞』ライトの有機的建築に学ぶ<2>
第1587号 2016年6月3日掲載

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