原風景の感動を語りかける家(那覇市)|オキナワンダーランド[35]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2019年2月8日更新

原風景の感動を語りかける家(那覇市)|オキナワンダーランド[35]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

赤嶺和雄さん邸(那覇市)


うっそうとした緑のなかにグスクの城壁のような石積みが見え隠れする建築家、赤嶺和雄さんの自邸。若い頃に離島などで出合った石積みの風景に「心が震える」感動を覚えて、石尽くしの家を建てた
 

泡盛が熟成していくように、時を重ねれば重ねるほど味わいを増していく。建築家、赤嶺和雄さんの自邸はそんな家だ。

先祖代々受け継がれてきた敷地は、「どれだけあるか分からない」と赤嶺さん自身も言うほどの多種多様な植物で埋め尽くされていて、家を建ててからほぼ40年が経過した今ではまるで植物園のようだ。植物と並んで屋敷のいたるところに見られる石積みも、長年の日差しと雨風を吸い込んで、今帰仁や勝連にあるグスクの城壁のように趣豊かに経年変化している。

「建物の形の悪さを植物たちがカバーしてくれているよ(笑)。それと、石。時間とともにどんどん風合いが増している」
 
それこそどれだけあるか分からないほど、赤嶺邸は石であふれている。周囲にぐるりとめぐらされた長い石垣。戦争でひどく崩れてしまったのを修復した重厚なヒンプン(目隠し塀)。住宅部分の外壁。さらには室内の玄関やダイニングルームにまで、沖縄の地層から取れる琉球石灰岩が積み上げられている。

「この家を設計した時に一番やってみたかったのが石を積むことだったんだ」

明るい陽光が差し込む中庭の隣のダイニングルームで赤嶺さんが語る。天井が高くて開放的なこの部屋の壁も乳白色の琉球石灰岩で覆われている。

「『本当に家の中に石を積むの?冗談でしょう?』と言って、実際に積むまで信じなかった人もいたよ(笑)。沖縄の古い念仏歌の一つに、茅葺(かやぶ)きの木の家はこの世の家、石の家はあの世の家、という歌もあるぐらい、昔は石の家と言えばお墓を連想させるものだったからね」

それでも石積みの家を建てたのは、若い頃、魂を揺さぶられるほど感動的な石の風景といくつも出合ったからだ。

一つの出合いは波照間島でだった。20代の終わり、5年過ごした東京から「僕はまだ沖縄を十分に知らない」という思いにかられて故郷に戻った赤嶺さんは、県内の離島をめぐって、本島から失われていく伝統的な集落や風景を訪ね歩いた。

「沖縄の有人島のうち、北大東島といくつかを残してすべての島を回ったよ。その中で一番心が震えたのが波照間島だった。赤瓦葺きの家屋に琉球石灰岩の石垣、フクギの屋敷林という伝統的な集落の形態がどこよりもきれいに残っていたよ」

沖縄の原風景の美しさが胸に深く刻まれた。とりわけ素朴な石積みに魅了された。「石積みは僕の原点」と思うようになった。

もう一つ、心に焼きついて離れないのが、戦後初期に活躍した建築家、仲座久雄さんが設計した石の家(本コラム第17回山元恵一邸)を初めて見た時の衝撃だ。「石を使ってこれほどモダンな建築ができるのか」とやはり心が震えた。自分も石の家を建ててみたい、と思い始めた。

「僕のこの家は、何も僕だけのアイデアから生まれたわけじゃない。身近な自然の素材を建築にうまく生かしてきた先人たちを見習ったところが大きいよ」

赤嶺さんはつつましく先人に花を持たせるが、れっきとした現代建築でありながら沖縄の昔懐かしい風景に出合うような感慨を抱かせてくれる家はそうはない。島の原風景の“遺伝子”を宿したこの家は、時代が移り変わろうとも変わらない伝統美の感動を伝えている。


石が壁紙代わりに使われた室内。古い井戸を残すために設けたという中庭(左)に植わる植物と壁の石が家のどこからでも目に入るため、屋内にいても自然の中にいるような感覚を覚える


ダイニングルームの壁にも石灰岩。「沖縄の素材で建てた住まいは沖縄の風土に一番合う気がするよ」と赤嶺さん。妻の岩子さんが定期的に模様替えをするインテリアも、首里織の布(右)や古い壺屋焼など、うちなーむんが多い


愛犬のクーと赤嶺さん。庭に大きく張り出したアマハジ(軒下空間)は、赤嶺邸の“もう一つの部屋”。「お客さんが来た時にここでコーヒーを出したり、晴れた日に家内とランチを食べたりしている。お気に入りの場所だよ」


三方にめぐらされた石垣は部分的に子どもでも座れるくらいに低く積まれている。「下校途中に通りかかる小学生が腰掛けて一休みできるようにと思ってね」。地域とのつながりを大切にする家でありたいと赤嶺さんは言う

オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景




[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。
元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<35>
第1727号 2019年2月8日掲載

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