沖縄建築賞
2019年1月25日更新
From沖縄建築賞[5]
県内の優れた建造物・建築士を表彰する「沖縄建築賞」(主催・同実行委員会)。入賞作品以外にもたくさんの力作の応募があった。今回は昨年開かれた「第4回」の一次審査通過作品を紹介する。
第4回(2018年) 住宅部門一次審査通過作品
周辺の街並みになじむよう、れんが積みにした「ヒンプン」が目を引く外観
先考え機能集約
築30年ほどの建売住宅を建て替えた2階建て。施主夫婦の「老後住みやすい家」という要望に対し、設計した仲間郁代氏は全体的にバリアフリーの造りを提案。
1階はリビングや寝室、水回りなどをまとめ、基本的な生活が完結するようにした。車いすになった場合に備え、駐車場からリビングや寝室に直接行き来できる通路も設けられている。
一方、階段だけでなくエレベーターでも上がれる2階は、和室と、夫婦それぞれの書斎があり、趣味を楽しむ空間となっている。
外観は、れんが調タイル外装の家が多い街並みに合わせ、れんがを積んだ「ヒンプン」を採用。側面には、室内への光を遮らないように角度を調整したパネルを並べ、ほどよく目隠ししつつも、自然光や風を取り入れられるようにした。
中でも、吹き抜けになったリビングは、天井部分まである大きな開口部から光が入り明るい。施主は「以前は日中でも暗く、景色も見えなかったけど、今は家の中から初日の出を見たり、ワインを飲みながらお月見したりして楽しんでいる」。
吹き抜けになったリビング。天井の高さまである大きな開口部から光が入り明るい
向かって左手にプライベートスペース、右にパブリックスペースをまとめた。奥まで視線が抜ける右手は風もよく通る
隙間活用し通風
南北に細長い敷地に建つ3階建て。1階に駐車場と玄関、2階にLDKや和室、3階に子どもたちの個室や水回りが配されている。
設計者の小林進一氏は、南側に建つ住宅2軒の間を「都市の隙間」として捉え、その延長線上にリビングなどのパブリックスペースや開口部を設けて北側の前面道路までつなげた。風や光が室内に入ると同時に、中から外へ視線が抜けて開放的な空間に感じる。それだけでなく、「都市の余白と余白をつなげることで、まちに対しても視線の抜けや風の通り道を共有できる」とその狙いを説明する。
家族が多いため、たくさんの車を止められるようにと設けられたピロティ式の駐車場も、視線の抜けや広がりをまちに提供している。
さらに、風や光をより取り込みやすくするため、建物内部に3カ所のテラスを配置。実際、施主は「風がよく通るのでクーラーはほとんど使わない」と話す。中と外が軒の深いテラスを介してつながるため、外からの視線や直射日光の入り方もゆるやかになっているという。
大きな吹き抜けで開放的な2階リビング
第4回(2018年) 一般建築部門一次審査通過作品
敷地全体がフラットで、写真手前の歩道から入り口までスムーズに移動しやすい
記憶伝え機能的
那覇市三原にある教会。2017年に改築したもので、以前は道路に面した1階に駐車場、2階にホール、3階に礼拝堂という造り。高齢者には不便であり、通りに対して圧迫感も与えていた。
改築にあたり、建築士の照屋寛公氏は「高齢者も利用しやすく機能的にする」ため、前面道路に合わせて敷地をフラットにし、礼拝堂、ホール、サイドチャペルも同じ階に配置。スムーズに移動できるようにした。
また、礼拝堂の両側の壁は開閉可能なスライディングウォールで、隣接するホールやサイドチャペルと一体化して使うこともできる。
音響にもこだわった礼拝堂は、生音で牧師の声が末席まで届き、コンサートも可能。審査時には、照屋氏が八重山地方の子守歌を披露し、審査員らは心地よさそうに耳を傾けていた。
そのほか、建物が「記憶装置」となるよう、以前の手すりを装飾として生かし、100年前に鋳造されてアメリカの教会から贈られたという鐘も再利用した。地下には40トンの防火用水槽を設け、地域防災拠点の役割も担う。
礼拝堂。左右のスライディングウォールを開閉することで、さまざまな使い方が可能
夕景。右が事務所棟、左が研修棟。木々の隙間から見える光が那覇の夜景を彩る
緑生かしなじむ
那覇市の奥武山公園内にある施設の建て替え。6階建ての事務所棟と、2階建ての研修棟の2棟に分け、それぞれの機能を明確化した。
事務所棟はさまざまな団体が入居する、眺望の良い静かな執務空間。15メートルというロングスパンで柱のない空間を実現するため、プレストレストコンクリート(PC)梁と二重の井桁(いげた)フレームを採用。外側のフレームを大きくすることで強い地震に耐えられるようにした。コーナー部分は開口部とし、外部への威圧感を低減するとともに、中からの開放感も図った。
研修棟は、1階に会議室、2階に体育館がある。設計した柴山義文氏は「建物が景観の一部になることを意識した」ため、公園路に近い研修棟は低層にしたほか、周囲を囲む木々を1本も切ることなく最大限に生かし、緑の景観にうまく溶け込ませた。
また、外観は形や大きさ、間隔の異なる数種類のルーバーで覆った。「日よけ」「防犯」「目線を遮る」「設備を隠す」など、部位や目的により使い分けつつ統一感を出した。
空調設備のない体育館。気圧の変化などにより、自動で換気が行われる
Omn house 仲間郁代/仲間郁代建築設計事務所(株)
周辺の街並みになじむよう、れんが積みにした「ヒンプン」が目を引く外観
先考え機能集約
築30年ほどの建売住宅を建て替えた2階建て。施主夫婦の「老後住みやすい家」という要望に対し、設計した仲間郁代氏は全体的にバリアフリーの造りを提案。
1階はリビングや寝室、水回りなどをまとめ、基本的な生活が完結するようにした。車いすになった場合に備え、駐車場からリビングや寝室に直接行き来できる通路も設けられている。
一方、階段だけでなくエレベーターでも上がれる2階は、和室と、夫婦それぞれの書斎があり、趣味を楽しむ空間となっている。
外観は、れんが調タイル外装の家が多い街並みに合わせ、れんがを積んだ「ヒンプン」を採用。側面には、室内への光を遮らないように角度を調整したパネルを並べ、ほどよく目隠ししつつも、自然光や風を取り入れられるようにした。
中でも、吹き抜けになったリビングは、天井部分まである大きな開口部から光が入り明るい。施主は「以前は日中でも暗く、景色も見えなかったけど、今は家の中から初日の出を見たり、ワインを飲みながらお月見したりして楽しんでいる」。
吹き抜けになったリビング。天井の高さまである大きな開口部から光が入り明るい
アカミネのいえ 小林進一/コバヤシ401.Design room(株)
向かって左手にプライベートスペース、右にパブリックスペースをまとめた。奥まで視線が抜ける右手は風もよく通る
隙間活用し通風
南北に細長い敷地に建つ3階建て。1階に駐車場と玄関、2階にLDKや和室、3階に子どもたちの個室や水回りが配されている。
設計者の小林進一氏は、南側に建つ住宅2軒の間を「都市の隙間」として捉え、その延長線上にリビングなどのパブリックスペースや開口部を設けて北側の前面道路までつなげた。風や光が室内に入ると同時に、中から外へ視線が抜けて開放的な空間に感じる。それだけでなく、「都市の余白と余白をつなげることで、まちに対しても視線の抜けや風の通り道を共有できる」とその狙いを説明する。
家族が多いため、たくさんの車を止められるようにと設けられたピロティ式の駐車場も、視線の抜けや広がりをまちに提供している。
さらに、風や光をより取り込みやすくするため、建物内部に3カ所のテラスを配置。実際、施主は「風がよく通るのでクーラーはほとんど使わない」と話す。中と外が軒の深いテラスを介してつながるため、外からの視線や直射日光の入り方もゆるやかになっているという。
大きな吹き抜けで開放的な2階リビング
第4回(2018年) 一般建築部門一次審査通過作品
街の景観を変えた教会 照屋寛公/建築アトリエ トレッペン
敷地全体がフラットで、写真手前の歩道から入り口までスムーズに移動しやすい
記憶伝え機能的
那覇市三原にある教会。2017年に改築したもので、以前は道路に面した1階に駐車場、2階にホール、3階に礼拝堂という造り。高齢者には不便であり、通りに対して圧迫感も与えていた。
改築にあたり、建築士の照屋寛公氏は「高齢者も利用しやすく機能的にする」ため、前面道路に合わせて敷地をフラットにし、礼拝堂、ホール、サイドチャペルも同じ階に配置。スムーズに移動できるようにした。
また、礼拝堂の両側の壁は開閉可能なスライディングウォールで、隣接するホールやサイドチャペルと一体化して使うこともできる。
音響にもこだわった礼拝堂は、生音で牧師の声が末席まで届き、コンサートも可能。審査時には、照屋氏が八重山地方の子守歌を披露し、審査員らは心地よさそうに耳を傾けていた。
そのほか、建物が「記憶装置」となるよう、以前の手すりを装飾として生かし、100年前に鋳造されてアメリカの教会から贈られたという鐘も再利用した。地下には40トンの防火用水槽を設け、地域防災拠点の役割も担う。
礼拝堂。左右のスライディングウォールを開閉することで、さまざまな使い方が可能
沖縄県体協スポーツ会館 柴山義文/(株)国建
夕景。右が事務所棟、左が研修棟。木々の隙間から見える光が那覇の夜景を彩る
緑生かしなじむ
那覇市の奥武山公園内にある施設の建て替え。6階建ての事務所棟と、2階建ての研修棟の2棟に分け、それぞれの機能を明確化した。
事務所棟はさまざまな団体が入居する、眺望の良い静かな執務空間。15メートルというロングスパンで柱のない空間を実現するため、プレストレストコンクリート(PC)梁と二重の井桁(いげた)フレームを採用。外側のフレームを大きくすることで強い地震に耐えられるようにした。コーナー部分は開口部とし、外部への威圧感を低減するとともに、中からの開放感も図った。
研修棟は、1階に会議室、2階に体育館がある。設計した柴山義文氏は「建物が景観の一部になることを意識した」ため、公園路に近い研修棟は低層にしたほか、周囲を囲む木々を1本も切ることなく最大限に生かし、緑の景観にうまく溶け込ませた。
また、外観は形や大きさ、間隔の異なる数種類のルーバーで覆った。「日よけ」「防犯」「目線を遮る」「設備を隠す」など、部位や目的により使い分けつつ統一感を出した。
空調設備のない体育館。気圧の変化などにより、自動で換気が行われる
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1725号・2019年1月25日紙面から掲載