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2018年9月14日更新
100歳まで自立して暮らせる家|気になるコト調べます!㊹
「還暦後も、あと40年は生きることを想定しなければいけない」。「100歳住宅Ⓡ」を提唱する愛知淑徳大学の教授・松本佳津さん(59)は言う。急速に高齢化が進む日本。2017年の厚生労働省の調査によると100歳以上の高齢者はこの20年で6.7倍に増えた。8月22日に那覇市で開かれた講演会「インテリアで長寿社会の生き方革命」(主催/公益社団法人インテリア産業協会沖縄支部)では松本さんが、100歳まで自宅で元気に過ごすためのアイデアを紹介した。
超高齢社会の新たなキーワード「100歳住宅Ⓡ」
愛知淑徳大学の松本佳津教授が提唱
「老後」でなく100歳を想定
松本さんの実家のカーテンがボロボロになっていた。母親(86)に交換をすすめたが「人を呼ぶわけでもないし、もう年だし…」と渋っていたそうだ。松本さんが「100歳まで生きるのが珍しくない時代。あと14年もこのままでいいの?」と言うと、すんなり納得し交換に至った。
急激に高齢化が進む中で、松本さんが提唱するのは「100歳住宅Ⓡ」。100歳まで自立して、豊かに暮らせる住まいだ。
その「100歳住宅Ⓡ」をつくるカギは、未来から逆算して現在を考える「バックキャスティング」だと説明する。「従来は、過去のデータから現在を考える『フォアキャスティング』が主だった。天気予報などがそれに当たる。だが、社会がこれだけ急激に変化している中で、フォアキャスティングだけでは目標が実現しにくくなっている。人生設計の常識・概念・視点を変えなければならない」と語る。
漠然と「老後」を考えるより、先の松本さんの母親のように100歳というはっきりした寿命を想定することで、「バックキャスティング」がしやすくなるとアドバイスする。
あえて段差つくって筋トレ
100歳住宅Ⓡの事例として、「知り合いのインテリアコーディネーターの手掛けた事例では、施主の要望からトイレに扉を設けなかったそう。出入りのしやすさを優先し、出入り口を広く取ってオープンに。最期まで自分の力で排せつしたいとの希望を形にした」と語る。洗面脱衣所は「健康管理ステーション。毎日鏡を見て顔色をチェックし、健康の要である歯を守るため、歯磨きスペースを充実させる。イスやテレビを置けるよう広々と取るのはどうか」と提案した。
さらに玄関は、物の管理スペースにするアイデアを紹介。カギや財布などを家の中に持ち込むと、外出するときに「どこに置いたっけ?」と分からなくなることがある。「物忘れすることを見越して、一定の置き場を決めておけばいい。置き場を玄関にすれば、何かあったときにも、離れて暮らす家族や救急隊に見つけてもらいやすい」と話す。
また、「バリアフリー」の逆を行く提案もあった。「住まいに関しては、体が動線に慣れていくので、ある程度の段差があってもさほど苦にならず乗り越えられる。むしろ段差があるほうが下半身強化の筋トレになる」と説明した。
松本さんは、20世紀を代表するファッションデザイナー、ココ・シャネルの言葉「It's not houses I love,it's the life I live in them(私が愛しているのは家じゃない。その家に住んでいるという私の人生を愛しているの)」を紹介し「住まいは物ではなく、人生の舞台であり、人ありきなもの。自分が100歳まで健康で幸せに暮らせる家を考えることは、人生を考えることにつながる」と呼びかけた。
8月22日に那覇市の県立博物館・美術館で開催された講演会「インテリアで長寿社会の生き方革命」で、「100歳住宅Ⓡ」について説明する松本さん
講演会には県内のインテリアコーディネーターや建材業者など約90人が集まった
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1706号・2018年9月14日紙面から掲載